第577話 挑んでいる相手

「またニヤニヤして、お前は……」

「まあ、今日は対戦相手の方に棄権されませんでしたからね……いつもより上機嫌なのも納得というものでしょう」


 食堂にロイターとサンズが到着。


「おお、来たか! 腹ペコアレス君は先に頂いてたぞ?」

「ああ、構わん」

「どっちみち、食べ終わりは同時ぐらいになりますからね……もっとも、僕らだって食べる量はかなりのものですが……」

「フッ……俺の腹は特別だからな!」


 なんてったって、腹内にアレス君がいるんだからね!!

 といいつつ……最初はノリでそういうイメージをしていただけなのに、いつのまにか本当にいる感じになってたからね……

 ハハッ! 自分でも怖いぐらいのイメージ力だぜ!!


「ふむ、特別か……」

「そうですね……積み上げられた皿の数を見れば、誰でもそう思うことでしょう……」

「いやいや、お前らだって、俺ほどじゃないが結構な数だろう?」

「……まあな」

「フフッ……ロイター様には特別な目的がありますものね?」

「ああ、そうだったな……そういう意味では、ロイターの腹も特別というわけだ」

「またお前たちは……まったく……」


 ファティマのためにデッカくなろうとしているロイターであるが……おそらくこの世界に存在するであろうイケメン補正のため、なかなか思うようにいっていない……

 仕方ない、ちょっとアレス君がアドバイスしてやるとするかね!


「ロイターよ……何事もイメージ力だぞ! お前が思い描く姿をこの上ないリアリティ―でもってイメージするんだ! さすれば道は開かれるであろう!!」

「魔力操作でイメージ力を驚異的なレベルで鍛えているアレスさんがいうと、説得力が違いますね……」

「ふむ……魔力操作でイメージ力を鍛える……私も努力しているつもりではあるのだがな……」


 おそらくロイターのイメージ力は、己のイケメン補正に負けてしまっているのだろう……

 よっしゃ! もうちょっと気合を入れてやるとするか!!


「いいや、まだ足りない! なぜなら! お前がイケメンなのは、この世界の決まりだからだ!! ……いいか、もう一度いうぞ? お前がイケメンなのは、この世界の決まりなんだ!! つまり、お前が挑んでいる相手は! この世界なんだ!! そうであるなら、お前がちょっとやそっと頑張ったところで勝てないのも当然だ!! そこんところを忘れず、真摯に日々努力を重ねる! そしていつか、お前がこの世界の理を超えたとき……そのときこそ! 魅惑のビッグボディを勝ち取ることができるんだ!!」

「い、挑んでいる相手は……この世界……だと?」

「ああ、そうとも!!」

「えぇと……なんというか、ちょっとした話題から一気に壮大になりましたね……」


 まあね……なんとなくノリでいってるうちに気持ちよくなってきちゃってさ……


「……魅惑のビッグボディうんぬんはいったん置いておくとしても……お前はそういう意識を持って魔力操作に取り組んでいるということか……なるほどな……お前の意識の強さを理解して、それに負けぬよう私も努力をしてきたつもりだったが……そういわれると、まだまだ足りていなかったのだと痛感させられたよ……」

「そうですね……僕もさすがに、胸を張って『この世界に挑んでいる!』といえるほど意識を高められていなかったと思います……」


 ……う、う~ん……正直、異世界転生者としては、割と軽々しく「世界」って使ってた気がするんだけどね……この点については黙っておくとしよう。


「……世界に挑むだなんて、さすがアレスさんですね!」

「ああ! スケール感が半端じゃねぇよな!!」

「ええ、やはり僕たちとは見えているものが違うということなのでしょうかねぇ……」

「……世界……か」


 ここで、ヴィーンたちが登場。

 どこら辺からか知らないが、俺のノリで始まった熱弁を聞いていたようだ。


「おお、お前たちも来たか! さあ、一緒に食うぞ!!」

「はい!」

「おっしゃ! ガッツリいくぜ!!」

「……トーリグ、量を食べるのは構いませんが、もう少し味わって食べたらどうですかねぇ?」

「んあ? 『うめぇ! うめぇ!!』って食ってるぞ?」

「……はぁ、もういいです」

「……」


 まあ、トーリグは若干雑なところがあるからね……

 ちなみにアレス君の場合は、幼少の頃にマナーだけはしっかり叩き込まれていたようで、食べ方自体はエレガントである。

 とはいえ、積み上げた皿のせいで、そのエレガントさもどっかに飛んでいってしまうが……

 そんなこんなで多少のんびりしつつ、夕食の時間を楽しんだ。

 また、今日のところはセテルタが一緒じゃなかったが、間違いなくエトアラ嬢と一緒だろう。

 まあね、あの2人はここのところずっとラブラブ空間を展開しているからね、末永くお幸せにって感じだ。

 ただし、セテルタは友人関係も大事にする男のようで、たまには俺たちと夕食を共にするって日もある。

 それについては、ヴィーンたちも毎日一緒ってわけじゃないけどね。

 だから、レギュラーメンバーとしてはロイターとサンズ、そして俺って感じになる。


「……さて、じゅうぶん休憩もできたことだし、そろそろ行くか?」


 そんなロイターの一声によって、今日も運動場に模擬戦をするため向かう。

 よっしゃ! 今日学んだ回転斬りも試しみっかな!!

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