第578話 言葉とは裏腹

 夕食を終えて、模擬戦をするため運動場にやってきた。

 そこにはファティマとパルフェナが既に到着済み。

 また、俺たちとほぼ同時のタイミングでエトアラ嬢とセテルタ、そして2人の取り巻きたちも到着。

 これでフルメンバーといった感じだろうか。


「……そろったわね、それでは今日も始めましょうか」


 ファティマの号令の下、今日もステキな模擬戦の始まりである。


「おっ? 今日も見に来たのか……自分自身の鍛錬はしなくていいのか?」

「ああ、この時間だけは特別だ、彼らから見て学ぶことも多いからな……もちろん、それ以外の時間はしっかりと自分の鍛錬にあてているさ」

「ふぅん、なるほどね」


 ……ほう、見学というわけだね?

 まあ、それ以外の時間は鍛錬しているということなら、ちょっとした息抜きも兼ねてって感じかな?


「……お前のほうこそ、いいのか?」

「俺? いやぁ……一応武闘大会に参加希望は出してるんだけど、そこまで本気じゃないっていうか、本戦に残れるとは思ってないっていうか……とりあえずそんな感じだからさ、こうやってノンビリ観戦してるってワケ」

「……そうか、てっきり彼らの技を見て学ぼうとしているのかと思っていたぞ? あとは、そうだな……もし彼らと当たった場合の対策を練ろうとしていた……なんて意欲的なことも考えられるか……」


 フッ、俺たちは秘密特訓をしているわけじゃないからね……見放題で対策し放題って感じだろう。


「オイオイ、お前みたいな真面目君と一緒にしないでくれ……俺はどっちかっつーと娯楽よ、ゴ・ラ・ク! 分かる? それに対策ったって、仮にあいつらの技とか、その組み立てを完璧に理解できたとしても『頭では分かっているのに、身体が追い付かない……』ってことになるだろうしな……やっぱそこんトコロあいつら……特に魔力操作狂いとかロイターみたいなあの中でもさらに上位層は、ちょちょいと対策できちゃうその辺の奴らとは違うんだよ……残念ながらな……」


 いいねぇ……「頭では分かっているのに、身体が追い付かない……」って思われるの、カッコいいじゃないか……

 でもまあ、俺もレミリネ師匠に稽古を付けてもらっているとき、「ここに攻撃が来る!」って分かっても、防御できないことが数えきれないほどに何度もあったからね……しかも今なんか、自分でイメージしたレミリネ師匠を相手に模擬戦をしているわけだから、どんな攻撃が来るか分かるはずなのに、防御し切れてないからね……


「……そこまで卑下したものでもないだろう……といいたいところだが、事実として彼らと我々の実力差は大きいからな……」

「だろ? ぶっちゃけ、トーリグとかハソッド……それから最近はセテルタの取り巻き共もか、あいつらよく心が折れねぇなって……そっちのほうが感心しちゃうね」

「確かに……毎日のように実力の差を、自分の身で体験しているわけだからな……」

「そうそう、そういうこと」


 ……なんて諦めにも似た言葉を発しながら観戦している男子たちだが……チラッと見た感じ、完全に諦めているわけではなさそう。

 なんか言葉とは裏腹に、目は真剣そのものだからね……

 それに、娯楽だなんだっていっておきながら、こうやって熱心に俺たちの模擬戦を見に来ているところを見るに、おそらく彼らの中にも諦めきれないアツい気持ちがあるのだろう。


「キャーッ! ロイター様の華麗な剣捌き、とってもステキ―ッ!!」

「ソイルきゅん! 負けないでぇーっ!!」

「……あんなふうにキャーキャーするだけでいい女子たち……少しうらやましくもあるよな?」

「ああ、多少はな……だが、我々は男だ……甘えるわけにはいかんさ……」

「ふぉぉぉっ! ファティマ殿! 可憐で超絶カワイイ! まさに最高ですぞぉぉぉぉっ!!」

「なんの! パルフェナ嬢こそ至高なりッ!! 見よ! あの造形美ィィィィッ!!」

「……ああいう感じに振り切れてる男っていうのも……まあ、うらやましい……かは微妙だなぁ……」

「え、えぇと……とりあえず、性別は関係なかった……ということなのだろう……」


 ……そうだね、いろいろなタイプの奴がいるもんね?

 そして、彼らのほうは娯楽っていうか、完全にアイドルのイベント会場みたいになってるね。


「……なあ、次はアレスさんの番だぞ?」

「おう! よっしゃ、一発やったるか!!」


 ここで俺の出番が回ってきた。

 そして、今回の対戦相手はハソッド。


「……ここは一つ、お手柔らかにお願いしますねぇ?」

「さてな、それはお前次第ということになるだろう……」

「……分かりました……全力で行かせてもらいますよぉ!!」

「おっしゃ! 受けて立つ!!」

「よし、2人とも準備はいいみたいだね! それじゃあ……始めッ!!」


 対戦前に軽くハソッドと挨拶的な言葉を交わし、今回審判を務めてくれるセテルタの号令の下、模擬戦が開始される。


「まずは先手、いただきですよぉ!」


 その言葉とともに、ファイヤーボールが飛んでくる。


「効かんな」

「そんなこと、分かってますよぉ!」


 俺が迫りくるファイヤーボールを斬り崩しているあいだに、ハソッドは距離を詰め、剣による突きを放ってくる。


「……ふむ、タイミングはいい感じだな?」

「それは、どうもっ! ですが、まだまだいきますよぉ!!」

「ほう、ほう……うむ、なかなか鋭くていい突きだ!」


 二度、三度と続けて突きを繰り出してくるハソッド。

 それに対し俺は、一つ一つ丁寧に木刀を合わせていく。


「ハソッドの奴……初っ端から飛ばしてるなぁ……」

「おそらく勝敗を度外視して、やれるだけのことをやっておく……という心境なのだろうな……」

「なるほどね」

「それにしても……彼の防御はどうすれば崩せるのだろうか……」

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