第576話 庇うポジション

 魔族のズミカ……学園生活を送る中で目にする機会がそれなりにあるんだけど、やっぱり魔族特有の青白い肌が目立つからさ……その都度、微妙に反応しちゃうんだよね。

 まあ、魔族の正体を隠してないし、魔力の感じ的に人間族に対する害意みたいなものがないから、そこまで極端に警戒はしていない。

 それに、あのコモンズ学園長が責任を持って保護しているっていうのも要素としては大きいね。


「おいおい、ズミカって……その、あれだろ……?」

「ああ……インセクト喰い……だったはず……」

「ひゃぁ~っ! あのゲテモノ女か!?」

「言い方! ああいうのだって、れっきとした料理なんだからさ!! ………………自分も食べたいとは思わないけど」


 お前さん……最後にボソッといった言葉で台無しだぞ?

 小声過ぎて、ほかの奴には聞こえてないかもしれんけど……

 ……ああ、俺? まあね、アレス君は地獄耳だからさ!


「……いや、みんなのいってることも分かる……あの子の趣味、ちょっと変わってるなっていうのは……僕も思っていることだから……」

「あ、いや、なんというか……スマン……でも、魔族かぁ……」

「そうだなぁ……最近は人魔融和っていわれるようになってきてるけど……やっぱ、二の足を踏むよなぁ……それに、根本的な価値観とかも違いそうだし……」

「そもそも、ゲテモノなんか喰いたくねぇよ! 魔族の味覚はどうなってんだよ!?」

「あ、それなんだけどね、別に魔族みんなが好んでインセクトを食べてるわけじゃないみたいだよ? えぇと、確か……ノエとかっていう平民の子の影響って話だったと思う」

「うん……友達のノエさんが特に好物みたいで……」

「ふ、ふぅん……まあな、つるんでる奴の影響っていうのは、良くも悪くも受けるものだろうからな……」

「しっかし、それでインセクト喰いにまでなるんだから……やっぱ、もともとそういう素質はあったんだろうなぁ……」


 まあ、見た目こそパンチが効いてるかもしれないけど、実際に食べてみたら美味しいってことはあるだろうからね……

 それに、結局は調理する人の腕次第みたいなところもあるだろうし……

 そういえば……ゴブリン肉の調理法を研究している人とかもいるんだっけ……

 なんか、俺が街の冒険者たちにゴブリン狩りとかいわれているとき、そんな話も聞いたような気がする……


「それにしても、平民だって!? まったく、碌なことをしないな!! これだから平民は……というかお前も! 貴族としての誇りがあるなら、平民とか、変な女にうつつを抜かしてんなよ!!」

「また、そんな言い方して……そういうの、あんまりよくないよ?」

「うん、ノエさんだって、話してみたら爽やかで気のいい子だったよ?」

「ゲェ! 平民と仲良し!? もう、信じらんない!! 残念だけど、俺たちの友人関係はここまでみたいだ……お前が目を覚まさなければな!!」

「おいおい……何もそこまでいうことないだろ?」

「ああ、それに今年はそういうことをいうのは特にマズい……あの平民に対してやたらと寛容な魔力操作狂いがいるからな……奴にキレられても知らないぞ?」

「確かに……正直、この学園に入る前までは、あの人が一番そういうこといいそうだなって思ってたのにね……」

「君との友人関係を終わらせたくはないけど……でも、ズミカさんたちとも仲良くやっていきたいって思ってる……いや、別に恋人とかそういう関係になることができているわけじゃないけど……」

「ハァ!? 恋人になりたい!? お前、正気か!? ……マジで頼むよ……俺をこれ以上失望させないでくれ……」


 なんだろう……彼は平民に下剋上でもかまされたのだろうか?

 そう思ってしまうぐらい、嫌い過ぎだろって感じ。

 ……ああ、でも、本来ならこれぐらいの感覚が貴族のスタンダードだったかもしれない。

 原作ゲームにも、そういう描写があったと思うし……もちろん、原作アレス君がその筆頭扱いだった……まあ、原作ゲームの都合ってやつだね。

 それで、士爵家という下位貴族ながらも主人公が平民を庇うものだから、原作アレス君と余計にバッチバチになるって感じだったかな?


「……ほら、大きな声を出すから……奴もこっちを見てるぞ?」

「そうみたいだな……なんにせよ、この学園内で平民を悪くいうのはやめとけ」

「そうだよ……それに今年入学した平民の生徒たちって、あの人の影響を受けているのか、例年より優秀っていうか頑張る人が多いみたいだからね……あんまり舐めてると痛い目を見るよ? 現にこの模擬戦中にも、平民と侮って負けた人がいるぐらいだし……」

「いつか……地位や種族、それから趣味なんかも互いに尊重し合えるような日がくればいいなって……僕はそう思うよ……」

「うっわ! 頼んでもないのに、語り出しちゃったよ!! マジ変なのに毒され過ぎ!!」

「分かった分かった……もう、それぐらいにしとこうな?」

「ああ……それに奴の視線がビリビリくるし……」

「そうそう、怒られる前に……ね?」

「なんか……僕のせいで……みんな、ごめん……」

「フン!」


 なんか、いつのまにか平民生徒を庇うポジションが主人公君から俺に変わってたっぽい……でも、別にこれといった行動はしてないんだけどね……

 ……あ! これが「やれやれ……」っていう、異世界転生者特有のあれだな!!

 フフッ……やったった!!


「……あ、あの笑顔……マズいぞ!!」

「ほら、お前も! マジでそこまでにしとけ!!」

「あ、あ……い、いろいろスイマセンでしたッ! 俺……じゃなかった……私が全て! 間違っておりましたァ!!」

「あ~あ、いわんこっちゃない……」

「……なんだかなぁ」

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