第189話 盲点だったな

 週末明けの今日は地の日。

 昨日と一昨日の二日間は、スケルトンナイトのお姉さんに剣術指導でみっちりしごいてもらった。

 お姉さんと一太刀一太刀攻防を交わすたび、一段一段自分がより高みへと上り詰めていっている手応えがあり、まさに至福のときといえる時間を過ごさせてもらった。

 また、今では体に巡らせる魔力量を多くするのにもすっかり慣れ、眼だけではなく基本的な身体能力も高めて稽古に励んでいるため、自分としては上達スピードも、なかなかいいセンいっているのではないかと思っている。

 それに、せっかくお姉さんが教えてくれているのだから、こちらとしても高いレベルの集中力で臨んでいることはいうまでもないだろう。

 加えて、移動中なんかのちょっとした時間には、脳内でお姉さんのイメージとひたすら模擬戦なんかもしている。

 そのため、もしこの世界にステータスが表示されるのなら、そろそろ脳内模擬戦のスキルが生えてきてもおかしくない頃ではないかと思う。

 ちなみに、脳内模擬戦の効果としては、脳内でイメージした相手と対戦経験を積むことができる。

 なお、どこまで精密で具体的なイメージとなるかはスキル保持者のレベルに依存する……って感じかな?

 ……ここまでいっておいてなんだけど、原作ゲームにこんなスキルは存在しない。

 これはあくまでも、俺の勝手な独自設定ってやつだね。

 こういった、「俺ならこんな設定を考えちゃうね!」って感じのノリ、みんなも好きでしょ?

 そんな感じで、俺の物理戦闘能力も少しずつ上昇していっているというわけ。

 ただ、うちのパーティーメンバーとの模擬戦では、いまだに勝利を収められていないのは残念なところではある。

 まぁ、俺がレベル上げに勤しんでいるあいだ、みんなは何もしないでそのままでいる……そんなことがあるわけないからね。

 それでも、その差は徐々に縮まってきているんじゃないかという感覚はあるんだ。

 だから焦らない、じっくりと確実に、それでいい。

 それにまだ、お姉さんの剣術を習得したというレベルには程遠いのだ。

 だからこそ、まだまだ伸びしろだらけといえる!

 フフッ、燃えるねぇ! 楽しいねぇ!!

 というわけで、朝食を済ませて授業へ向かう移動中にこんなことを考えていたのだった。

 もちろん、並行してお姉さんと脳内模擬戦をやりながらね!!

 さて、ここからはエリナ先生の授業だ。

 意識を剣術仕様から授業仕様に切り替えよう。

 そうして今日も、エリナ先生の授業という極上の時間を過ごすのだった。


「授業が終わる頃には張り出しが済んでいると思うけれど、野営研修中にみんなが収集した物品の成績評価が終わって、パーティーごとの順位が掲示されているから確認しておいてね。それと提出された物品について、各パーティーでどう扱うか話し合っておくこと。学園が適正価格で買い取ることもできるし、冒険者として活動している生徒や商人と付き合いのある生徒はそちらに売却することもできる、そんなふうにいろいろな選択肢があると思うから、各パーティーでよく話し合ってちょうだい」


 ほほう、野営研修の結果発表か。

 フッ、「根こそぎのアレス」はその名に恥じぬよう、アレコレ収集して回ったからな、結構自信があるんだ。

 ただ、二日目の午後からがな……あのくだらん男のせいでね……

 でもまぁ、それ以外の時間はかなり根こそぎでいったったから、きっと大丈夫さ!

 そんなわけで、授業が終わりを告げた。

 エリナ先生、今日もステキでした。

 この後、直で結果を見に行ってもいいんだけど……おそらく混んでるだろうから、今はやめとくか。

 それにさ、腹内アレス君が「そんなもの、あとでよかろう?」とおっしゃっているからね。

 というわけで、俺は食堂へ移動。

 まぁね、大半の奴は掲示を見に行く……そんな中で、俺はほかの奴とは違う行動をとる……フフッ、これもクールといえるかもしれんね。

 ……と思ったけど、食堂へ直通ボーイズも結構いるな。

 おい! お前らは結果が気にならんのか!?

 なんて思わなくもなかったが、それはそれ、まずはご飯だ。

 そうしてお昼をいただいていたら、結果を見てきた生徒も食堂に来たようだ。


「おう、結果を見てきたぞ」

「ふぅん、そっかぁ、なんも集めてないうちのパーティーはどうせ最下位だろうから見に行かなかったよ、ねぇ?」

「そうとも! オレたちとは遠い世界の話だから!」

「そ、そうか……でもまぁ、そういうパーティーも結構あったみたいだぞ?」

「うむ、収集物なしのパーティーの名が並んでいるのを見て、我は情けないと思ったものだがな」

「あ、あはは~僕らは文系貴族だからさ、そういうのは……ねぇ?」

「そうとも! オレたちは肉体派じゃないのさ!」

「おいおい……あんまそんなこといってたら、後期のクラス替えで落とされるんじゃないか?」

「うむ、その可能性はあるな」

「ま、まぁ、その辺は学科で頑張る! みたいな?」

「そ、そうとも……が、学科で……」

「まったく、お前らも少しは運動しとけっての。まぁ、それはいいとして、今回の野営研修な、ファティマちゃんのパーティーが1位だったぞ」

「そして、シュウのパーティーが2位で、王女殿下のパーティーが3位だったな」


 あらら、見に行く前に結果がわかっちゃったよ。

 へぇ、俺たちのところが1位か……やったじゃん。


「ふぅん、ファティマちゃんのところがねぇ……でもなんで?」

「そうとも! オレはてっきり王女殿下のところが1位かと思ってた!」

「なんというか……なぁ?」

「ああ……なんというか、な」

「なんだよぉ、もったいぶんなくてもいいじゃ~ん」

「そうとも! 焦らすのよくない!」


 そうだそうだ!

 早くしないと、俺が食べ終わっちゃうぞ!


「いや、なんかな……確かに王女殿下のところも質、量ともに高水準だったんだけどな……ファティマちゃんのところはとにかく量がヤベェんだよ」

「まぁ、オークを中心にジェネラルなんかも討伐しているので、質もなかなかではあった」

「しかもあそこ……モンスターの素材だけじゃなくて、薬草や木の実に建築資材……とにかくなんでも収集しててな……特に薬草は最下級だったみたいだけど、それでも物凄い大量だったからな」

「へ、へぇ……でもなんか、しょぼくない?」

「そうとも! 大量の薬草とはいえ、たかが最下級じゃないか!」

「まぁ、正直我も、オークキングを狩ったシュウのパーティーこそが1位に相応しいのでは……などと思わなくもなかったからな……」

「いやいや! そうはいっても、あの量はヤベェって!!」

「まぁ、それは認めるがな……」


 ふむ、決め手は俺が丹念に魔力を込めて鍛え上げた薬草たちだったか。

 フッ、実際にきちんとできたのは初日だけだったんだがな……とはいえ、どんなもんだい!

 おっと、クールさを忘れてはいかんな。

 それにしても武術オタクのメガネめ、オークキングを狩ったとは、なかなかやりおる。

 ……ん? 武術オタク?

 おぉ! 武術オタク!!

 そうか! スケルトンナイトのお姉さんのこと、メガネに聞けば何かわかるかも!!

 俺としたことが、盲点だったな。

 メガネというナイスな気付きを与えてくれた君らにも礼をいわねばな、ありがとう。


「あっ! あの人がこっち見た!」

「そうと……も?」

「う~ん、やっぱ大量の薬草って……魔力操作狂いの仕業なんだろうな……」

「おそらく……な」

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