第188話 何かしらの理由があったんだろうな

 飯屋に入ってみての印象としては、どこにでもある普通の飲食店って感じかな。

 そして、お店自体が広いこともあるけど、まだ昼前だからかお客さんも少なく、比較的ゆったりとした雰囲気。

 そんな感じで店内を見回していると、昼から酒を美味そうに飲んでいるオッサンが目についた。

 まぁ、今日は闇の日……前世的にいえば土曜日だし、たぶん大丈夫な感じなのだろうな。


「いらっしゃいませ~お好きな席にどうぞ~」


 そう声をかけてきたのは、店主の娘さんかバイトかは知らんが、人懐っこい雰囲気の店員だ。


「こちら、メニュー表になりま~す。お決まりになりましたら、お声がけくださ~い」


 ふむふむ、焼き魚定食に、ハンバーグ定食……

 なるほど、定食メインの店というわけか。

 おお、生姜焼き定食もある!

 生姜焼きといえば……ソレバ村でナミルさんに作ってもらったのを思い出すよ。

 あれは美味しかったなぁ。

 おそらくだけど、今ここで生姜焼きを食べたら「ナミルさんのと違う」とか思って、辛口評価をしちゃいそうだから今日はやめとこう。

 それじゃあ何にするかだけど……ほう、オークステーキ定食か……いいねぇ、悪くない。

 特に「スタミナ満点!」と一言コメントが付いているのがそそるじゃないか。

 それに、昼食を終えたら今日もまた、スケルトンナイトのお姉さんの剣術指導を受けに行くのだ、元気フルチャージで臨むのがスジというものだろう。

 よし、オークステーキ定食……君に決めたッ!

 お、ちょうど近くを定員が通りかかったな。


「すまんが、注文を頼みたい」

「は~い、どうぞ~」

「オークステーキ定食で」

「サイズはいかがいたしますか~」

「もちろん、ビッグサイズで」

「かしこまりました~」


 さて、あとはオークステーキ定食が来るのを待つだけ。

 よ~し、ガッツリ食べるぞ~

 その後少しして、到着。


「お待たせしました~オークステーキ定食で~す。熱いのでお気をつけくださ~い」


 オークステーキが立てるジュージューという音が! 野性味あふれるオーク肉の香りが! 俺の感覚器官を刺激してやまない!!

 ハハッ、腹内アレス君もボルテージが上がってるね!

 いいよ、いいよ~よっしゃ! それじゃあ、いただきます!!

 そうしてまず一切れ、オークステーキをいただく。


「……フフッ、やるじゃないか」


 さっぱりとした酸味のきいたタレがオーク肉の濃厚な味をより引き立ててくれる。

 正直、注文した段階では「そうはいっても定食……専門店のものじゃないよね?」みたいな感覚がまったくなかったといえばウソになる。

 だが、マジで美味い。

 そんな少々侮った気持ちがあったことを、心の中で店主に詫びた。

 そうして、美味しい昼食を楽しんでいたところ、沈んだ雰囲気を身に纏った奴らがぞろぞろと店に入ってきた。

 まぁ、まだ少し早いとはいえお昼だからね、人が増えるのはわかるよ。

 でもさ……なんでこいつら、こんな暗い顔してるんだ?

 そんなにお腹減ってんのか?


「チクショウ! 今年も駄目だったぁ!!」


 なんか、意気消沈団の一人が、急に叫び出して机を叩いた。

 それを合図としてか、周りの奴らも次々と愚痴をこぼし始める。

 聞こえてくる話によると、どうやら今日は王国騎士団入団試験の結果発表があったみたいだ。

 そういえば、今月入団試験があったんだっけ?

 なんか朧げながら、そういう話をどっかで聞いたような気がする。

 そんな彼らの様子から察するに、不採用だったようだね。

 そのためか、これからみんなでヤケ酒を始めるのだろう。

 ただ、もう少し注意深く彼らの表情を伺ってみると、顔色に濃淡があって、実はさほどへこんでないように見える奴もいたりする。

 多分あの辺は、記念受験組だね。

 そして、「ふむ、自信はあったのだがな……」とかいってる奴は、実力試し組かな。


「クソッ! なんでなんだ! なんで俺が採用されないんだ!! 俺は! 俺は王国騎士になるため! 全てを捧げてきたというのに!!」

「まあまあ、そう落ち込むなって! また来年頑張りゃいいだけのことじゃねぇか」

「そうそう、僕らもなんだしさ、また来年、ね! そんで今日のところは飲む、決まり!!」

「うぅっ……くっそぉ……」


 店に続々と増え続ける意気消沈団の中で、とりわけ重いことをいってる奴がいるなと思ったら……以前解体講習で出会った神経質君じゃないか……

 そうだ、思い出したぞ、確かソートルの酒場で受験するっていってたよな、意識高めな雰囲気で。

 でもそうか……神経質君、残念だったな。

 ただ、こんなこといっていいのかわかんないけど、神経質君は騎士団みたいな集団行動を求められるような場所には向いてないような気がするんだよな。

 ……あ、でも、周りの仲間はいい奴らっぽいし、ぱっと見は神経質そうだけど、あれで結構好かれる人柄だったりするのかも。


「あぁッ! もうッ!! 私が採用されないのは『女』だからなのか!?」

「いや、そんなことねぇって」

「じゃあ、なぜだ!? 私はほかの男より、剣の腕も上だ! 何より! 採用が決まった奴と試験中に模擬戦で当たったが、それにも勝利したんだぞ!?」

「それはわかんねぇけど……たぶん、ほかになんか理由があったんだろ」

「だから! その理由が! 私が『女』だったから! これしかないだろ!!」

「そんなことは、ないと思うが……」


 ああ……あっちの小娘も荒れてんな。

 本人としてはなかなかの腕自慢のようだが……一緒にいる男のいうとおりで、採用されなかったのは何かしらの理由があったんだろうな。

 だって、現役の王国騎士にはミオンさんっていう女性騎士がいるからね。

 女性だからという理由で不利になるのなら、九番隊隊長という隊長職に抜擢なんかもされないだろう……しかも、あの若さでね。

 それに、エリナ先生だって元ではあるが、宮廷魔法士だったわけだしな。

 エリナ先生は謙遜して否定しているが、宮廷魔法士団のエースとされていた事実もあるんだ……これは俺のゲーム知識だけど。

 ああでも、エリナ先生とミオンさんの場合、貴族家出身っていうのはあるのか……

 う~ん、その辺はちょっと微妙なところかもしれないな。

 ……そうだ、騎士といえばスケルトンナイトのお姉さんも、たぶん生前は騎士だったんだよな。

 じゃないと、スケルトン「ナイト」にはならんだろうし。

 そう考えれば……古代国家ですら女性騎士がいたのだから、やはり現代において女性を理由に不採用はないんじゃないかと思うね。

 ま、実際のところどうなのかは、よくわからんがな。

 とりあえず、彼氏なのかは知らんが、君がしっかり心のケアをしてやるんだぞ!

 そんなわけで、こんな感じで昼食を済ませた。

 なんというか、オークステーキ定食はとっても美味しかったんだけどね……空気感がさ……

 そんなことを思いつつ、これからスケルトンナイトのお姉さんによる剣術指導が俺を待っている!

 気持ちを切り替えて、行くぞ!!

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