第190話 事実
昼食後、脳内模擬戦を繰り広げながらお腹を休める。
それが一段落したところで早速、武術オタクのメガネにスケルトンナイトのお姉さんのことを聞きに運動場へ向かった。
メガネは、俺が素振りなどの鍛錬をしているときによく姿を見せるからな。
これから運動場で、お姉さんに習った剣術の型稽古をしていれば、ひょっこり現れるであろうよ。
というわけで、運動場へ到着。
しかしまだ、メガネは運動場にいないようだ。
「……フッ、まだまだ想定内……どうせ型稽古をしていれば現れる……はず」
そう呟いて、型稽古を始める。
しばらくしたら、やはり現れた。
フフッ、わかりやすいメガネだ。
そう思いながらキリのいいところで型稽古を中断し、少し離れた場所にいるメガネのもとへ移動した。
「お前に尋ねたいことがある」
「おやおや、アレス君のほうから話しかけてきてくれるだなんて、珍しいこともあるものですね……というよりも、こうして直接会話をするのは初めてでしょうか」
「おそらくな」
「なるほど……それだけ尋ねたいことが重要なことのようですね……わかりました、僕の知っている範囲でよければお答えしましょう」
「ありがとう、助かる」
まぁ、武術オタクのメガネにすらわからないとなれば……スケルトンナイトのお姉さんについて知るのは絶望的といえるかもしれんね。
それはともかくとして、俺はスケルトンダンジョンで出会ったお姉さんのことを説明し、図書館で調べたことなんかも交えて知っているか尋ねてみた。
「……アレス君が出会った女性というのは、おそらく『救国の剣聖女・レミリネ』だろうと思います」
「……救国の……剣聖女?」
「はい、そうです」
一発で答えが出てくるあたり、やっぱ武術オタクは伊達じゃないね。
そして、スケルトンナイトのお姉さんの名前は「レミリネ」というのか……凛とした感じがして、お姉さんにピッタリの素敵な名前じゃないか。
ただ、なんというか……二つ名がヤベェんだけど……
しかも、救国の剣聖女とまで呼ばれていたのなら、歴史に名前が残っていてもおかしくないであろうに……なんで調べても見つからなかったんだ?
「……アレス君が疑問に感じるのも、もっともなことでしょう」
いや、疑問はまだ口に出していなかったんだけど……いくらか表情に出てしまっていて、それを読まれたかな?
まぁ、それはいい、これからしてくれるであろう説明のほうが大事だ。
「アレス君の調べたとおり、レミリネはイゾンティムル王国民です。そして彼女は元々平民で、圧倒的な剣の才により王国騎士として仕官することとなりました」
「スケルトンの体であれだけの剣の冴えを見せていたのだからな、まぁ、当然といえるだろう」
それにしても、元平民だったか……装備がほかのナイトと比較してくたびれた感じがしていたのも、その辺に理由がありそうだな。
……平民上がりの騎士への嫌がらせ、たぶんそんなところだろう。
「おそらく、既にお察しのこととは思いますが、彼女は元平民だったこと……そして、イゾンティムル王国において女性初の騎士ということもありまして、周囲から強烈な嫉妬を受けました。また、かの王国は貴族主義も強かったため……」
「周りは敵だらけだったってところか?」
「……そうなってしまいますね」
うわぁ、レミリネ師匠、そんな状況でよく騎士になれたな……
いや、それほどまでに圧倒的な強さだったというわけか……となると、より一層周囲からの嫉妬がマッハだったんだろうな……
「そして、アレス君も知ってのとおり、当時の国王及び軍部は度々周辺国に戦争を仕掛けていました」
「そのようだな」
「その戦争も、最初のうちは先代の蓄えた富を背景に多くの軍資金をつぎ込み、勝利を重ねていました。そのような状況下で、平民上がりの女性騎士に活躍の機会を与えたくなかった王国騎士団の上層部は、彼女を王都守備隊の隊長に任命しました」
「なるほど、出世と見せかけて、武功を立てる機会を奪ったわけか」
「はい、そのようです……それに、上層部の意識の中には、他国へ攻め込むことしかなかったようですからね……彼女を閑職に追いやったと思っていたことでしょう」
「……ふむ」
どんだけだよ……
なんか、こういう話を聞いてると、先日の王国騎士に採用されなかった小娘のことが微妙に思い出されるぞ。
このカイラスエント王国で似たような扱いを受ける小娘……そんな姿が想像できてしまう。
でも、この国なら、そんなことはない……はず、と思いたい!
だって、下位貴族の主人公君が王女殿下と結ばれるシナリオが用意されている国なのだからさ!
……とはいえ、彼は勇者の力に目覚める特別な男で……しかも下位とはいえ、貴族家の人間だしなぁ。
まぁ、それはともかくとして、話の続きだ。
「……それで、救国の剣聖女にはどうつながっていくんだ?」
「それはですね……イゾンティムル王国軍が大量に兵士を動員した外征中に、隙をついてほかの隣国がガラ空きの王都を狙ったことがきっかけとなります。そのときは、ほとんどの兵士が出払っており、防衛戦力は王都守備隊のみで……」
「まさか……その守備隊だけで他国の軍相手に王都を守り切ったというんじゃ……」
「はい、そのまさかです……しかも、王都守備隊の隊員は退役間近の老兵ばかりだったようで……」
「そんな……」
えぇ……それってもう……独りじゃん。
どこまでだよ……信じらんねぇよ……
「彼女の奮戦により他国の軍は損耗が激しく、最終的に退却に追い込まれました。これにより王都の防衛に成功したとのことでしたが……」
「でしたが?」
「その防衛戦で、彼女は命を落としたそうです……が、どうやらそれは戦闘によるものではなく、味方による暗殺だったようなのです」
「え!?」
「彼女は、何度も繰り返される他国との戦争に、強く反対していたそうですからね……」
「これを機に発言力が増すのを危惧した奴が……ってことか?」
「真相はわかりませんが……おそらく」
なんだよそれ……せっかく国を守っても意味ねぇじゃんかよ……
なんて国だよ! 最低最悪のゴミ国家じゃねぇかよ!!
「……その後、彼女は単なる戦死した騎士の一人として王国から扱われました。しかし、彼女と日々接する王都民は彼女の働きぶりやその人柄を愛していましたし、他の地方でもモンスター被害が出るたび彼女が何度も救援に駆けつけていたことから、地方の民にも慕われていました。その結果として『救国の剣聖女』と呼ばれ、王国中の民から敬愛を集めました」
「ああ、なるほどな、そうつながるわけか……だが、どの資料にもその名前がないことはどう説明する?」
「今お話しした防衛戦あたりから、王国民の戦争反対への機運が本格的に高まり、もともと戦争を反対していたレミリネがその象徴とされるようになっていきました……アレス君、どうか怒りを鎮めて聞いてもらいたいのですが……王国はこれを徹底的に弾圧しました……そして、戦争反対の象徴とされていたレミリネの名もその存在ごと抹消し、その名を口にした者も粛清されてしまいました……これが歴史に名前が残っていない理由となります」
「な……」
……もう、なんもいえねぇ。
「……なお、この話はレミリネを慕う旧イゾンティムル王国民によって密かに語り継がれてきたものなので、信憑性にはいささか疑問符がついていました」
「……そうか」
「ですが、アレス君の話と……何より、アレス君が今おこなっていた剣術の型稽古にレミリネが見えましたので、この話は事実だったのだと確信に至りました」
「……は? 見えた!?」
「はい、アレス君の剣にはレミリネの剣が宿っていますよ……まだ、うっすらとですがね」
「……そう、か……ははっ、そうなんだ……な」
俺の剣には、レミリネ師匠の剣が宿っている……か。
これは、もっともっと頑張って、レミリネ師匠の剣を本当に継承してみせなきゃだな!!
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