第806話 最大の障壁になってやればいい!

 平民の縁談に横槍を入れる貴族……うん、その部分だけを抜き出してみると、なかなか横暴に聞こえてくる気がするね。

 でも……横暴でいいじゃない!

 なんたって、俺は悪役のアレス・ソエラルタウトだぞ!?

 いや、まあ……最近は、そこまで悪役ムーブをしてたかっていうと……どうなんだろう……

 一応、それなりに態度は傲慢キャラで過ごしていたとは思うんだけどね……

 とにかく、ここはいっちょ! 傲慢さを前面に出して行こうじゃないか!!


「それにワイズよ……トードマンごときに何を遠慮する必要がある? その者がミカルという娘を真に愛しているというのなら、全力でお前に抗えばいいだけのこと! それだけの覚悟がない男に、この先ミカルという娘を守って行けるわけがなかろう!! 違うか!?」

「確かに……アレス殿のおっしゃるとおりだ……」

「ハハッ! ここはひとつ、お前という貴族が最大の障壁になってやればいい! それで尻尾を巻いて逃げ出す男なら、託す価値なしだ! 先ほど見定めろと言ったのは、そういうことだ!!」

「私が、最大の障壁に……」

「ひゃぁ~っ! そんなん、トードマンなんかには無理でしょ……」

「トードマンどころか……貴族相手に意志を貫きとおせる平民など、ほとんどおらんだろうな……」

「しかも、相手は子爵子息だぞ? 士爵ぐらいなら多少は抵抗できたかもしんねぇけど……」

「うん、ムチャもいいとこだね……」


 フフッ……だからこそ、最大の障壁になり得るのさ……


「なんとなく、最近のアレスさんって穏やかなイメージがあったけど……そういえばこういう人だっけ……」

「とはいえ、学園入学前に比べたら……まだまだ穏やかだと言えるんじゃないか?」

「そう……かも……」

「あの頃は、マジで恐ろしかったもんなぁ……」

「うんうん……下手に目が合ったらどうしようって、震えてた記憶があるよ……」

「俺たち貴族身分の人間ですらビビるほどだったんだから……多少勢いがある程度の商家なんか、問答無用で潰されててもおかしくなかっただろうな……」

「そう考えると……見定めるってチャンスをくれるだけ、じゅうぶん優しいと言えるだろう……たとえそれが、貴族に歯向かうって無謀なチャレンジだとしても……」

「まさに、命懸けのチャレンジ……」

「でもさ……トードマンがミカルちゃんのために、そこまでできたとしたら……凄い根性だよね?」

「ああ! それこそ『本物の男』だって言えるだろうよ!!」

「ふむ……ここでトードマンの真価が問われるというわけだ……」

「まあ、それだけ覇気のある男なら、商会だって見事に運営していけるかもな?」

「並の男とは、肝の座り方が違うと言ったところか……」

「う、う~ん……それはそれで逆にハイリスク、ハイリターンの博打みたいな事業にばかり手を出そうとするかも?」

「そっか……もともとトードマンは勝負師かもしれないんだもんね……?」

「まっ! そういうトコも含めて、見定めて来るってこったろ?」

「なるほど!」


 そして、ここは言い出しっぺの俺も……


「同志ワイズよ……これは俺が言い出したことだからな! 俺もお前とともにトードマンという男を見定めに行くとしようじゃないか!!」

「……なッ!! アレス殿も!?」

「アッ……こりゃ、トードマン終了のお知らせだね……」

「だなぁ……その辺の平民、それも放蕩三昧のヘナチョコごときがアレスさんの魔力圧に1秒だって耐えられるわけがねぇ……」

「失神確実……」

「いや、そんなものでは済むまい……場合によっては、二度と目を覚ますことがないかもしれんぞ?」

「でも……意外とそのほうがトードマンの一族は喜んじゃったりして?」

「まあ、事業が好調だったからよかったものの……おそらくトードマンの放蕩ぶりには、一族の者もそれなりに手を焼かされただろうからなぁ……」

「まだバレてないだけで、エグい借金を抱えてたりしてね……?」

「うへぇ……ないとは言い切れねぇ……」

「借金で済むぐらいならまだマシで……ヤベェ連中ともつながりがあったりして……」

「トードマン……お前、さすがにそんな奴じゃないよな……?」

「……分っかんねぇぞぉ? そういう連中からすりゃあ、トードマンなんか喰い応えたっぷりのオイシイ獲物に違いないからな!!」

「えぇ……ギットギトに脂ぎったトードなんか食べたいの?」

「君はそう言うかもしれませんが……トード料理で有名な地方だってありますからねぇ……」


 一瞬、腹内アレス君が反応しかけたが……トード料理は、ちょっと悩むみたいだ……

 まあね……俺としても、前世感覚的にカエルを積極的に食べたいとは思わないからなぁ……


「アホ、そりゃ例えだろうが……お前も、無駄に話に乗ってんじゃねぇっつぅの!」

「とにもかくにも、本人の精神的な面だけではなく……そういった状況もしっかり確認する必要があるだろうな……」

「……よし、ワイズ! 俺も一緒に行くぜ! そもそも、この話のきっかけは俺でもあったしな! それになんたって、俺たちは親友だからよ!!」

「ケイン……」

「それなら、俺も!」

「僕も行くよ!」

「どれ、ちょっくらトードマンのツラを見に行ってみますかね?」

「へへっ! オレのことも忘れてもらっちゃ困るなぁ?」

「この流れ……乗るしか!」

「おいおい……あまり多過ぎても、かえって邪魔になるだけだろう? ここは、アレスさんとケインに任せておいたほうがよかろう」

「「「えぇ~っ……そんなぁ!?」」」

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