悪役転生者は自由人～原作ゲームのシナリオを無視して行動したいと思います～

第704話 冷静さ

「……チィッ！　どこ行きやがった!?」

「ここよ」

「ちょこまかしやがってッ!!」

「ふふっ、相変わらず見事な瞬発力といったところかしら……そんなあなたに問題、私は幻影でしょうか？」

「しゃらくせぇッ!!」

『素晴らしい反応速度を見せるゼネットナット選手ですが……未だファティマ選手の実体を捉えることができません！』

『どうやら、ゼネットナットさんは頭に血が上ってしまっているようですね……ここらで冷静さを取り戻せなければ、ファティマさんの術中にハマったまま終わってしまうでしょう……』

「……次に間違うと、爆発する仕掛けにしてみたわ……これで多少は緊張感を持てるのではないかしら？」

「あぁッ!?　んなもんにビビるアタシじゃねぇッ!!」

「残念、不正解」

「……ッ!?」

『爆発！　爆発だァッ！　一撃を叩き込まれたファティマ選手を中心に爆風が広がるゥゥゥゥッ!!』

『幻影魔法にウインドブラストを仕込んだというわけですか……実に器用な魔法運用をしますね』

「………………ふぅ……っぶねぇ……危うくポーション瓶を割られちまうところだったぜ……」

「あら、とっさにポーション瓶を庇うだけの理性は残っていたようね？　結構なことだわ」

『ゼネットナット選手、爆発によるダウンこそ免れたものの完全に防御しきれたとはいえず、いくらかダメージを負ってしまったようです！』

『あの程度のダメージで済んでいるということは……おそらくウインドブラストの威力を控えめにしてあったのでしょう』

『なるほど！　確かにファティマ選手の実力であれば、もっと威力の高いウインドブラストにすることも可能だったでしょうからね!!』

「……ふぅぅぅっ……変な話だが、今の爆発で頭の中がクリアになった気がするぜ……」

「それは重畳」

「そしてオメェを捉えるには、五感を研ぎ澄ませる必要があるみてぇだ……正直めんどくせぇけど、仕方ねぇ……」

　ほう……これまではゼネットナットから発せられる魔力の感じが荒々しいものだったが……どんどん澄みきったものになっていくじゃないか……

　原作ゲームでゼネットナットをパーティーに入れるとしたら、余計なことを考えずにとにかく攻撃コマンドを選択し、ガンガン攻めさせるべしってイメージだった。

　そのため、この世界でも切り込み隊長みたいな感じの子かと思っていたけど……それなりに冷静な面もあるみたいだね？

「………………よし……今なら分かるぜ！　オメェは幻影だな!?」

「お見事……ふふっ、やっと正解することができたわね？」

　そうして幻影のファティマが消え、別の地点にファティマが姿を現した。

『おぉっと？　ついにゼネットナット選手！　ファティマ選手の幻影魔法を見破ったようだ!!』

『魔力探知に秀でていれば見抜くことも可能だったとは思いますが、五感を集中させただけでそれをやってのけたとは……さすが獣人族というほかありませんね』

　そうだね、俺レベルで真面目に魔力操作の練習に取り組んでいる奴なら可能だっただろう……少なくとも「なんか変だぞ？」っていう違和感を持つことぐらいはできたんじゃないかな？

　とはいえそれができるのも、こうやって観客として外から観察することに集中できるからこそっていうのはあると思う。

　これが、あの舞台の上で闘いながらってなると、難易度が上がるだろう。

　まあ、普段ではあり得ないぐらいの集中力が発揮できて、むしろ戦闘時のほうが分かるって奴もいるだろうけどさ。

「これでもう、幻影魔法はアタシに通用しねぇぜ？　つぅわけで！　そろそろ覚悟しなッ!!」

「あらあら、この程度で勝ったつもりになるとは……いささか気が早いのではないかしら？」

「ハン！　いいたいことはそれだけか？　それなら、とっととおねんねしなッ!!」

「いいえ……冷静になることの重要さを実感できた、まさにここからが本題よ」

「……ハァ!?　ここからが本題……だと!?」

「ええ、そうよ……あなた『獣化』はもう、できるわよね？」

「……ッ!!」

　ああ、獣化ね……原作ゲームでもあったなぁ……

　獣人族だけの特別なスキルっていえばいいのかな……攻撃力が跳ね上がる代わりに数ターン後行動不能になるって感じだったはず。

　それで確か、攻撃力の上がり幅と数ターン後っていうのがどっちもランダムで、そのときによって変わった気がする。

　まあ、俺はそういうランダム要素があんまり好きじゃなかったから、基本的に通常攻撃を重ねていくって戦闘スタイルだったけどさ。

　それはそれとして……どうやらファティマさんは、ゼネットナットに獣化を要求するつもりのようだ。

「もしかして……『まだできない』なんていわないわよね？」

「あ……あったり前だろ！　舐めんな!!」

「それなら、やって見せてちょうだい……それも、冷静さを保ったままでよ？」

「なッ!?　冷静さを保ったまま獣化だと!?　ムチャをいうんじゃねぇッ!!」

　確かにムチャだ、獣化っていうのは理性というリミッターを外して攻撃特化になる……いわゆるバーサーカー状態になるってことなんだからな……

　しかしながら、もともと身体能力に優れる獣人族が……獣化によって極限まで身体能力を高めた状態で冷静に戦闘を組み立てることができれば……それはマジで凄いことになるぞ!!