第703話 手応え

『……おや? せっかく一撃を決めたというのに、ゼネットナット選手の様子が妙だぞ? スタンさん、これは一体どうしたことでしょう?』

『ふぅむ……ゼネットナットさんは、自身の一撃に納得がいっていないようですね……これはもしや……』

「……おかしい……もともと小柄なヤツではあったが……それにしたって、手応えが軽過ぎだ……」

「手応え……そうね、そこが課題だわ」

「……ッ!!」

『なんと、なんとォッ! ファティマ選手、何事もなかったかのようにゼネットナット選手の後方から姿を現したッ!! また、時を同じくして、倒れ伏したファティマ選手の姿が霧消していくッ!?』

『やはり……』

『……やはり……といいますと?』

『はい……どうやら我々は、ファティマさんに幻影魔法を見せられていたようです』

「うぉぉぉぉぉぉッ!?」

「スゲェ! さすがファティマちゃんだ!!」

「ファティマちゃ~ん! 僕、思いっきり引っかかっちゃったよぉ~っ!!」

「へへっ……俺は最初っから気付いてたけどな?」

「おいおい……動揺するどころか、大泣きしといてそれは無理があるだろ……」

「ち、ちげぇって! 俺は……そう! たとえ幻影でも、ファティマちゃんが傷付く姿を見て、思わず涙がこぼれちまったんだよ!!」

「まあ、そういわれると確かに……心に強い痛みを感じたもんなぁ……」

「とにもかくにも、ファティマちゃんが無事でよかったよ……本当に……ぐすっ……」

「おい、改めて泣くんじゃねぇよ……こっちまでつられて涙が溢れてきちまうだろうがよぉ……うぅっ……」

「ただまあ、よくよく考えたら……あのファティマさんが、ワンパンで沈むわけないもんな?」

「当然だ! ファティマ様は最高なんだ、その辺の有象無象ごときに傷付けられるわけがなかろう!!」

「つまり! 究極美少女ファティマちゃんは、幻影魔法も究極だったってことだな!!」

「やはり……ファティマちゃんこそ、我が天使……」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」


 意気消沈していたファティマヲタたちが、再び元気を取り戻したようだ。

 まあ、そっちはいいとして……


「なんで! なんでぇぇぇぇっ!?」

「まったく、幻影魔法だなんて……ふざけたマネをしてくれたわね……」

「チィッ! やっぱり、クソ女はどこまでいっても、クソ女ね!!」

「ほ~んと、ファティマったら……性格悪いわよねぇ?」

「できることなら、あの自信に満ちたツラ……引っ叩いてやりたいわ……」

「はぁ~あ……つまんな……」

「そんな……ダメよ……あの子に一番似合うのは! 苦悶に満ちた顔のはずなのにッ!!」

「……イラつくことではあるけれど……アンタのいったとおりだったわ」

「ね、だからいったでしょ? まだ分かんないってさ……なんか、変だなぁって思ったのよねぇ……」

「それにしても、ゼネットナットさんもたいしたことないわね……キッチリ決めてよ……」

「とはいっても、まだ負けたわけじゃないんだし? こっからファティマをボコってくれたら、それでいいんじゃない?」

「そうそう! それにゼネットナットも、これでさらにマジになって殴りかかってくれれば、それはそれでアリってもんよ!!」

「まっ! 直情的な彼女のことだからさ、キレて大暴れしてくれそうよね!!」

「期待……してるわよ……」


 ファティマアンチの令嬢たちは不満タラタラって感じだ。

 でもまあ、ファティマからしたら、どうということでもないのだろうけどね……


「うむ、ファティマさんがあの程度で負けるわけがないからな……そして、実に見事な幻影魔法だ」

「それに……たとえ幻影魔法でなかったとしても、回復魔法で早々に回復していたでしょうからねぇ?」

「うん、まだ魔力も残ってるみたいだし、確実に回復できていただろうね!」

「さすが、ファティマさんだぜ!」

「ファティマさんの魔法運用能力の高さ……大いに学ぶところがありますねぇ!」

「僕も、ファティマさんを見習って、もっともっと魔法を上手く扱えるようになりたい……」

「……ああ、同感だ」

「ファティマちゃん! そのまま自分のペースで頑張れぇっ!!」

「そうだな! お前のテクニカルなところを見せてやるといいぞ!!」


 まあ、俺たち夕食後の模擬戦メンバーは、誰一人としてファティマが負けたとは思っていなったってわけだね。


「オメェ……ノコノコ姿を現しやがって、なんのつもりだ? せっかくの不意打ちのチャンスを棒に振ったぞ?」

「そうねぇ、あえて言葉にするなら……不意打ちで勝負を決めてしまうと、あなたの心に未練が残りそうだったからってところかしらね?」

「あぁ!? 未練だと? んなもん、あるわけねぇだろ!!」

「さぁて、どうかしらね? それはそれとして……五感の鋭い獣人族のあなたに、どこまで私の幻影魔法が通用するか試させてもらったのだけれど……まだ課題はあるものの、それなりに上手くいったようで嬉しいわ」

「クッ! また舐めたことを……なら、これでどうだァッ!!」

『ゼネットナット選手! 急速に距離を詰め、ファティマ選手に拳を振るうッ!!』

『速い!! ……が、再び幻影のファティマさんだったみたいですね……』


 ふむ、ゼネットナットはファティマを捉えることができるか……それができなければ、体力が尽きて終わりって感じだろうな。

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