第702話 ここぞというときのための防御手段

『突いてよし、蹴ってよし! ゼネットナット選手、その身体能力の高さを活かして、怒涛の攻めを展開!! 対するファティマ選手は防戦一方! これは、先ほどまでと完全に立場が入れ替わってしまった格好だァッ!!』

『ゼネットナットさんに流れが移ったようにも見えますが……かといって、ここまでくるのに体力をそれなりに消耗しているので、ここできっちり勝利を決めきれなければ、再度ファティマさんに闘いの主導権を握り返されてしまうでしょう』

『なるほど! ゼネットナット選手にとって、まさにここが正念場というわけですね!? そしてファティマ選手としては、ここを耐えきれば逆転のチャンスが巡ってくるわけですから、我慢のしどころですね!!』


 まあ、ファティマだって日頃から俺たちと魔法なしの模擬戦を何度も重ねてきているわけだからね、そう簡単にやられることはないはず。


「ハハッ! 思ってたより、頑張るじゃねぇか!!」

「それはどうも」

「なんだよ、さすがにこの状況じゃ憎まれ口を叩く余裕もないってところか?」

「別に……あなたこそ『無駄口を叩いていたせいで、体力が持ちませんでした』となっては、お話にならないわよ?」

「んなもん! オメェに心配されるまでもねぇよッ!!」

「それは結構」


 現状としては、未だ有効打が決まっているわけではないものの、ゼネットナットが押しているのは確かだ。

 また、体力を消耗してはいるが、ゼネットナットは攻撃を繰り出すうちに気分がどんどんノッてきているようで、打撃のスピードとキレが増していっている。

 そのことをファティマも認識しているようで、攻撃を捌きながら距離を広げようとしているみたいだが……


「……逃がすかッ!!」

「それなら……」

「喝ーッ!!」

「あら、そういうこともできたのね? やるじゃない」

「……フゥ…………ハン! 躱すしかできねぇとはいってねぇかんな!!」

『一撃一撃と圧力が増していくゼネットナット選手に対し、さすがに接近戦の不利を感じたらしいファティマ選手は距離を取ろうと下がったり、牽制の魔法を放ったりしましたが! どれも効果はいま一つだッ!!』

『気迫のこもった魔力をぶつけることで、ファティマさんの魔法を相殺しましたか……ただし、そう連発できるものではないはず……』

『なるほど、ここぞというときのための防御手段というわけですね!?』

『ええ、おそらくは……』


 まあ、原作ゲームの設定的にも獣人族は身体能力の高さにステータスが振られているので、魔力は控えめだもんね。

 そんなわけで、プレイヤーがゼネットナットをパーティーに加える場合、素早さが上昇する装備をさせて回避力を上げるか、魔法防御力の高い装備をさせるって感じになるだろう……そうしないと、魔法攻撃力の高い敵を相手にしたとき戦線離脱を余儀なくされる可能性があるからね。

 そして原作ゲームをプレイ中、たまに「ゼネットナットは、気力で魔法を防御した」みたいなテキストが表示されて魔法を喰らわなかったことがあったけど、ああいう感じでガードしてたんだねぇ……


「さてと、オメェとの試合もなかなか面白れぇもんだけど、アタシもあんまりのんびりばかりもしてらんねぇかんな! そろそろ決めさせてもらうぜ!!」

「そう……でも、あなたにできるかしらね?」

「できるかじゃねぇ! やるんだよッ!!」

「ふふっ、素晴らしい意気込みだわ」

「ここにきて、まだそれだけの減らず口が叩けりゃたいしたもんだといってやりたいところだが……それもこれで終わりだッ! オラァァァッ!!」

「…………う……ッ……」

「「「ファティマちゃんッ!?」」」

『……なんと、なんとッ! ついに、ゼネットナット選手の一撃がファティマ選手を捉えたァァァァァァァァァッ!!』

『ファティマさんがとっさに展開した障壁魔法を突き破るとは……なんとも恐ろしい威力の一撃ですね……』

『……そしてファティマ選手、ゆっくりと崩れ落ちる……これはもう、決まってしまったか?』

『一応、まだポーション瓶は割れていないようですが……』

「そんな……ファティマちゃんが……信じらんねぇ……」

「チクショウ! なんてことしてくれてんだ、この獣人女がよォ!!」

「なんでッ! なんでなんだァッ!?」

「こんなのウソだ! ウソだといってくれェェェッ!!」

「ファティマちゃん……ぐすっ……」


 ファティマヲタたちに絶望感が広がっていく……


「でかしましたわ! ゼネットナットさん!!」

「やったッ! ザマ見ろ、このクソ女!!」

「もう! アガるなんてレベルじゃないわね!!」

「あぁっ……顔を魅せてちょうだい! あの子の苦悶に満ちた顔をッ!!」

「まさか、本当に一発決めてくれるとは……ゼネットナットさんも、侮れない方ねぇ……」

「あの凛々しさ……同性ながら、憧れてしまいそう……」

「まあ、その辺のふがいない男共よりは、よっぽどゼネットナットのほうがイケてるかもね?」

「特に、あそこら辺でメソメソしてる男子たちとか論外だし?」

「あははっ! 確かにぃ~!!」

「う~ん、でもさ……スタン君のいうとおりポーション瓶は割れてないし、審判の先生も勝者を宣言してないわけだからさ……まだ分かんないんじゃない?」

「……はぁ? 何、サガることいってんのよ!? あんなん、完全に失神ものでしょ!!」

「つーかさ、お腹を貫通しなかっただけマシで……今頃ファティマの内臓はグッチャグチャなんじゃないのぉ?」

「うっわ、かっわいそぉ~! ……ぶふっ!!」

「かわいそうとかいって、メッチャ笑っちゃってんじゃ~ん!」

「まあ、ウケるのは確かだもんねぇ?」


 フゥ……これぞまさしく「ぬか喜び」というものだろうなぁ……そうだろ、ファティマ?

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