第415話 聞いてるのかい!?

「ここでセーフティーゾーンか……確か、このダンジョンは20階までだったよな?」

「はい、そのはずです」

「ふむ……今日のところはここで一晩休むとするか」

「賛成」

「そうだねぇ、行こうと思えば最後まで行けちゃうかもしれないけど、別に無理することもないもんね!」

「ええ、それに10階のボス部屋に出てきたユニオンスライムのように、特別なスライムが20階のボスとして出てこないとも限りませんもの、休めるときに休んでおくべきですわ」

「では、野営の準備をいたしましょう」


 というわけでここ、スライムダンジョン17階のセーフティーゾーンで一泊することにしたのである。

 まあ、魔力操作とポーション……あとスライムダンジョン特製のお菓子で体力的には万全だから、ノムルのいうように一気に20階まで行こうと思えば行けるだろう。

 だが、時間的にもう夜になってしまっているので、体のリズムとして一回寝といたほうがいいかなって感じ。

 あと、今まではお菓子でごまかせてたんだけど、腹内アレス君がさ……ね、分かるでしょ?

 そしてこういうときでもないと、野営研修のときに購入した野営セットの出番もないだろう。

 といいつつ、それらの設営作業をギドたちに取られてしまったんだけどね……

 そんなわけで、暇つぶしも兼ねて脳内でアレコレ考え事をしているのさ。

 その一環として、ここまで来るまでのあいだに出てきたスライムについて語っちゃおうかな。

 そんでまあ、予想どおりというべきか、15階から順番にスライムマジシャン(風)(光)(闇)が出てきた。

 なんというか、いいほうに解釈すればダンジョンさんの優しさだっていえるんだろうけど……正直、手抜きを疑いたくなっちゃうよね?

 だってさ、攻撃手段も各属性のバレットを撃ってくるだけなんだよ?

 超絶ワンパターンって思わずにはいられなかったね。

 でもまあ、属性をひととおり網羅しているわけだし、それも階ごとに別れているので、修行の場としては意外とアリといえるかもしれない。

 いや、そういう発想の奴が今までいなかったから、放置され気味ダンジョンだったんだろうけどさ……

 というか、俺たちレベルだから割と余裕を持ってここまで来れたが、一般的な冒険者にはやっぱキツかったかもしれん。

 ああ、それとやっぱりドロップ品のことは語っとこうかな。

 一応、かつて「暴食のアレス」と呼ばれていたような気もする腹内アレス君の存在意義的にもさ、その点について言及しないわけにはいかないと思うからね。

 そんなこんなで、お菓子系のドロップ品についてだけど、14階はフルーツポンチが出てきた。

 たぶん、ダンジョンさん的には寒天とか白玉あたりがスライム要素なんだと思うね。

 そして15階はババロアだった。

 いや、いいんだけどさ……なんか、ここにきて急に前世の給食のメニューっぽくなってきたなって感じ。

 ああ、でも、フルーツポンチやババロアが給食で出てきたのって、俺が通ってた小学校や中学校だけなのかな?

 というのも、その当時は給食のメニューなんてどこでも一緒だと思ってたんだけど、実は地域ごとに違うし、なんだったら給食のないところだってあるって話でしょ?

 俺自身そこまで食にうるさくはないつもりだけど、それなりに給食大好きマンだった自負はあるからね、その話を知ったとき「給食のない世界線」なんて信じられない! って思ったもんさ。

 ……なんか、思いがけず給食トークでアツくなっちゃったね。

 ま、それだけ俺は給食大好きマンだったということさ。

 そして話を戻して、16階は大福だった。

 正直さ、給食シリーズに移行したとき焔菓子のネタ切れを疑っちゃったよ。

 でも、ここで焔菓子を出してきた辺り、ダンジョンさん的にも緩急を付けたかったのかなって……そう受け止めようって思ったんだ。

 ちなみに、俺は前世で豆大福はイマイチだと思ってたんだけど……今回改めて食べてみたら、美味しかった。

 なんか、豆独特の塩加減が子供の頃はあまり好きじゃなかったんだけど、今は悪くないなって感じ。

 やっぱ味覚っていうのは大人になるにつれ変わるって聞くし、豆大福を美味しく感じた俺は、ちょっぴり大人の仲間入りを果たせたってことかな?

 そんな自分の成長にささやかな喜びを感じつつ……17階のドロップ品、これである!

 なんと、ここにきてザ・王道ともいうべき、プリンが登場したのだ!!

 なんていうかさ、もったいつけ過ぎじゃね? って感じ。

 普通、プリンは9階までに出してしかるべきだろうって、俺はそう思うね!

 ねぇ、ダンジョンさん! 聞いてるのかい!?


「アレス様、野営の準備が終わりましたよ?」

「……おう、そうか」


 俺がプリンの出番についてダンジョンさんに心の中で異議申し立てをしているあいだに、もろもろの準備が終わっていたようだ。


「アレス様もなかなかお忙しい様子でしたので、声をかけるのを控えようかと思いましたが、スープが冷めてしまうのもどうかと思いましたので……」

「……うむ、気にせずともよい」


 こんにゃろ、俺がどうでもいいことを考えてたのに気付いてて、あえて畏まった言い方をしてやがるな! このスマイルは絶対そうだ!!


「……クッ! じゃんけんに勝ちさえすれば、わたくしがアレス様を呼びに行けたものを……」

「ここ一番ってときに、ギドは無類の勝負強さを発揮するよねぇ?」

「あのドヤ顔……いつか曇らせたい」


 なんか、不穏なことをいってるぞ……

 ま、まあ、ここはとりあえず夕食をいただいてゆっくり休もうじゃないか! うん、それがいい、そうしよう!!

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