第180話 同じ場所にいてくれよな!!

 魔石とバターナイフを回収しながら、今の出来事について考えてみる。

 まず、スケルトンは光属性の魔力を浴びるとダメージを受け、それが一定量に達すると魔石を残し黒い霧となって消える……つまり討伐となる。

 それがスケルトン本来の生態なのだろう。

 そしておそらく、バターナイフスケルトンはダンジョン産モンスターとして再出現する気がする。

 たぶん、ダンジョン的にはそういう設定なんじゃないだろうか。

 すると彼は……未来永劫バターナイフを握りしめてダンジョン探索者に特攻をかますということなのだろうか?

 ……なんというか、生前の記憶っていうのがあくまでもそういうデータなだけで、オリジナルは既に転生を果たしていることを祈るばかりだ。

 じゃないと……いたたまれないからさ。

 でも、それだとあの廃教会のスケルトンたちはどうなんだって気もしてくる。

 あれもダンジョン側が用意した演出でしたってことなら気楽でいいんだけどね。

 まさか本当に、ダンジョンに魂が囚われていた……なんてことないよな?

 それだと恐ろしすぎるぞ……

 うぅむ……ゴブリンダンジョンではそこまで気にならなかったことなんだけどなぁ……

 やっぱスケルトンだと、もとが自分と同じ人間っていう感覚がどうしても残っちゃうんだろうな。

 とはいえ、もし仮に彼がダンジョンに魂を囚われた存在なのだとしても、俺の光属性の魔力を拒否し、スケルトンで在ることを選択したとも考えられるのか。

 むしろ、彼にとっては大きなお世話だった可能性もあるわけだ。

 よかれと思ってのことだったが……これも俺の独り善がりだったのかもしれないな。

 ……ほらな、この辺からしてやっぱ、俺は他人を導けるような大層な人間じゃないってことだ。

 まったく、あのうさんくさい導き手は勧誘する相手を完全に間違えてるね、改めて確信した。

 ……ふぅ、あの廃教会の一件からいろいろ考えさせられたけど、俺のやるべきことはシンプルに強くなること、それだけだ。

 まぁ……「聖者様」なんていわれて、ちょっと意識してしまった部分があったのは否定できないけどさ。

 というか、モンスター側からすると、俺は真逆な存在なはずだよね。

 さて、考え事はこれぐらいにして、探索に戻るとしよう。

 そしてまた城の方角に向かっていると、前方からボロボロで撤退中って感じの冒険者5人が歩いてきた。


「くっそ、いてぇよぉ~これ、骨折れてんじゃねぇ?」

「いいから黙って歩け、ゴチャゴチャいっても痛みは変わらん」

「ハァ、途中まではいい感じだったんですけどね……」

「……あれがうわさのスケルトンナイト……かもしれないわね」

「えぇ!! やっぱりぃ!?」

「うるせぇ! 傷に響くだろぉが!! うっ、いってぇ~」

「あっ、ごっめぇ~ん」


 ……スケルトンナイトだと?

 しかも、やたらと強い奴のことらしいな……少し話を聞かせてもらおうか。


「すまんが、もしかしてあんたら……うわさのやたらと強いスケルトンナイトと戦ったのか?」

「あぁ? なんだテメー、だったらなんだってんだ!?」

「おい、落ち着け」

「そうですよ、短気はいけません」

「……確証はないけど……たぶんそうだと思うわ」

「うん! あれはヤバかったよね~」

「そうか……もしよかったら、そのときの話を聞かせてくれないか? お礼といってはなんだが、回復魔法で怪我を治してやる、どうだ?」

「あぁ!? こちとら装備の修理か買い直しで金欠確定なんだからな! わけわかんねぇ押し売りでもしてぇなら、失せな!! いてて、大声出したら傷に響いちまった……」

「まったく、お前は少し黙ってろ……それでこのとおり、俺たちには余裕がない……本当に俺たちが戦ったスケルトンナイトの話だけで回復魔法をかけてもらえるのなら、頼みたいところだが……」

「おい! 大将! こんなわけわかんねぇ奴のいうことなんか信じんのか!? いちち」

「ああ、そのつもりだ」

「……余裕がないのは確かですからね」

「マジかよ……」

「……そうねぇ……このボウヤのいうこと、信じても大丈夫そうよ?」

「えぇ~ホントにぃ~?」

「あとから追加料金を請求するなんてこともないから安心してくれ、俺は話を聞きたいだけなんでな」

「それじゃあ、まずワタシに回復魔法をかけてみてくれるかしら? 話はそれからよ」

「わかった」


 正直なところポーションをあげてもよかったんだが、これは他人に回復魔法をかける練習のチャンスかもしれないと思ったんでね。

 見たところ一番の重傷で骨折程度だったからさ、そんなに時間もかかるまい。


「……へぇ、若いのにたいしたものねぇ、もう治ったわ」


 まぁ、一番軽傷そうに見えたし、そんなもんだろうね。

 それにしてもこの人……美人だと思うんだけど、俺のお姉さんセンサーが働かないんだよな……故障か?


「じゃあ次! わったし~」

「おっと、そうだったな……」

「ん~どったの?」

「いや、なんでもない」


 こうしてパーティー全員に回復魔法をかけた。

 渋っていた一番重傷そうな奴も、最終的にはおとなしく回復魔法の世話となっていた。

 まぁ、自分でいうのもなんだが、「なんだコイツ?」ってなるのも仕方なかったと思うから、そこは気にしない。

 そしてようやく、やたらと強いスケルトンナイトのお話である。


「途中までは順調にダンジョン探索ができていたのだ」

「そうそう、あんにゃろうが出てくるまではな!!」

「そんなこといってぇ~弱そうだからって油断して突っ込んでったのはアンタでしょ~?」

「はぁ!? 油断なんかしてねぇ! 俺はいつでも全力全開だ!!」

「まあまあ、2人ともそれぐらいにしておきましょう……それでですね、あのスケルトンナイト……ナイトの特徴を備えてはいたのですが……スケルトンということを加味しても、ほかの個体より全体的に装備がくたびれた感じがありましてね……正直弱そうに見えたのは確かなんですよ」

「もぉ~ボロっちぃってハッキリいっちゃえばいいじゃ~ん」


 個体差といえばそれまでなんだろうけど、装備がボロいスケルトンナイトってわけね……いじめられてたのかな?


「なるほど、それが見た目に反してかなりの実力者だったというわけだな?」

「……そうねぇ、スケルトンだからか知らないけど、パワーはそんなになかったんだけど……技量が凄かったわね……たぶん、なんらかの剣術を使ってた、そんな動きだったわ」

「ああ、こちらの攻撃は的確に回避され続けたからな……まったく、信じられんことだよ」


 お! ここで古流剣術のお出ましというわけか、いいねぇ。

 とはいえ、この冒険者たちがそんなに重傷じゃなかったことからすると、そのスケルトンナイトは避け専って感じ?


「ふむ……だが、結局はパワー不足ということに繋がるのかもしれんが、回復魔法をかけたときの印象からすると、そいつから受けたダメージはそこまででもないように感じるのだが?」

「……そういわれてみれば……でも、武器なんかは破壊されましたし、見てのとおり装備はボコボコですからね……懐には大ダメージですよ」

「あんにゃろう、ぜってぇ遊んでやがったんだ! マジでクソ野郎だぜ!!」

「ホントぉだよねぇ~あの弓、お気に入りだったんだけどなぁ~」

「まぁでも……殺されなかっただけマシだったとはいえるのかもしれん……」

「……あれがボス部屋じゃなかったのは、本当に助かったわ」


 確かになぁ、原作ゲームの仕様だからの一言で済まされそうだけど、ボスを倒すまで出られないボス部屋っていうのは、現実になると物凄く厄介だな。

 しかしながら……武器や装備の破壊で勘弁してくれるスケルトンナイトは不殺の誓いでも立ててるのかね?

 それってダンジョン的にはオッケーなのか?

 う~ん、謎だ。

 ま、その辺は考えても仕方ないことか……ダンジョンマスターでもいれば答えてくれるんだろうけど、原作ゲームにはそういう存在は設定されてなかったからね、たぶんいないだろう。

 そんなわけで、冒険者たちにどこで戦ったのかを聞き、現場に向かうことにした。

 まぁ、当然のことながら、「挑むのはやめとけ」といわれたのはいうまでもない。

 でも、俺は行く、そのために来たのだから。

 いろいろ寄り道はしたが、ようやくスケルトンナイトと対戦だ! ワクワクしちゃうね!

 だから……お願いだから同じ場所にいてくれよな!!

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