第181話 一手御指南

 冒険者たちから聞いたやたらと強いスケルトンナイトと遭遇した場所に、ギルドのお姉さんからもらった地図を確認しながら向かった。

 そして、聞いていた場所とは少し離れた空き地のような場所で、沈みかけの夕日に黄昏ているスケルトンナイトを発見した。

 なんとも絵になる姿ではあるが、果たして夕日に何を想っているのだろう。

 それから、先ほどの冒険者たちがいっていたように、スケルトンであることを考慮に入れても、確かに装備がくたびれているように見える。

 その見た目から、おそらくうわさの個体で間違いないだろう。

 そんなスケルトンナイトが夕日から俺に視線を移した。


「お初にお目にかかります、私は……あなたの生きた時代に存在していたかはわかりませんが、カイラスエント王国ソエラルタウト家次男、アレス・ソエラルタウトと申します。このたびは誠に勝手ながら、あなたの優れた剣術の評判を聞き及び、一手御指南願いたく参上致しました」


 実は、スケルトンナイトを見た瞬間、俺のお姉さんセンサーに反応があったのだ……つまり、故障などしていなかったということだね。

 そこで、スケルトン相手にすら作動する俺のお姉さんセンサーってどうなん?

 なんて思わなくもなかったが、俺のお姉さんセンサーは高性能だっただけのこと……そういうことにしておきたいと思う。

 また、そういう意識を持って改めてスケルトンナイトを観察してみると、男の骨格よりかは幾分きゃしゃなようにも見えるし、女性らしいたおやかな雰囲気も感じられる。

 そして、相手がお姉さんなのだと思えば、自然とカッコつけたくなるというもの。

 そのため、原作アレス君としては本来苦手で、俺自身もあまり慣れていないながら敬語で挨拶をした。

 それに対し、スケルトンナイトのお姉さんもカタカタと歯を打ち鳴らして何かをいっているが、それを正確に理解することはできない……が、おそらく挨拶の返事をしてくれているのだろうことは、なんとなくわかる。

 律儀な人だな……そう思うと、俺の中で印象がさらによくなる。

 挨拶を済ませたあとスケルトンナイトのお姉さんは、俺の希望に応えるためか、剣を構えてくれた。

 このとき、オレンジ色に照らされたスケルトンボディはとても凛々しく、美しかった。

 ……いかんいかん、見惚れている場合じゃなかった、戦闘に集中だ!


「……お聞き届けいただき、ありがとうございます。それでは……参ります!!」


 そう一声かけ、一気に斬り込む!

 しかし、それはひらりと回避され、反撃の一閃が飛んでくる。


「……くっ!」


 間一髪回避に成功……といいたいところではあったが、魔纏にかすってしまった。

 おそらく魔纏がなければいくらかダメージを負っていたかもしれない。

 この一瞬の攻防で理解した、スケルトンナイトのお姉さんは、うわさどおりの強者なのだと。

 いや、そんな控えめな評価では足りないかもしれない……

 そうして何度も斬り込むが、当然のように回避され、そのたびに厳しいお返しを頂戴する。

 ならばとフェイントを交えてみるもアッサリと見抜かれ、的確に対処されてしまう。

 ……フフッ、こうでなくっちゃ! 燃えてきたぜ!!


「もう一本! お願いします!!」


 しかし、依然として有効打を入れるには程遠い。


「まだまだ! もう一本!!」


 何度やっても、軽くあしらわれて終わってしまう。

 基本的に魔法は魔纏と体力を補うための魔力操作しか使っていないとはいえ、まさかここまでとは……

 俺自身、剣の腕が未熟なのは認識しているつもりではある。

 だが、そうはいっても、もう少しいけるはずだという気持ちもあったのだ。

 それがどうだ、まさに完封といえる状況。

 最近痩せてきたこともあり、そこまで極端に汗をかくこともなかったのだが、久しぶりに全身から滝のように汗が流れている。

 でも……これでいいんだ! これでこそ、ここに来た価値があるというもの!!


「俺は今、最高に充実している!!」


 その後しばらくして夕日が沈み、世界が夜に変わろうかというとき、スケルトンナイトのお姉さんはおもむろに構えを解き、剣を鞘に収めてしまった。


「……? どうかなされたのですか?」


 そう問いかけたとき、スケルトンナイトのお姉さんは何かを告げ、闇に溶けるように姿を消した。

 ただそれは、ダンジョン内でモンスターを討伐したときのような黒い霧となって消えるのとは趣が違う。

 その証拠に、魔石も残っていない。


「……どうしたんだろう? ダンジョン内のモンスターには活動限界でもあるのかな?」


 広場でポツンと独りになってしまった俺は、そんな呟きを漏らすことしかできなかった。

 う~ん……自分に都合よく解釈するとすれば、「今日のレッスンはここまで」って感じだったのかな?

 まぁ、そろそろ学園に帰んないといけない時間だっていうのも確かなんだよね。

 ただ、そのことをスケルトンナイトのお姉さんが配慮してくれたっていうのもなぁ……そんなんありえるの? って思っちゃうし。

 とりあえず、ロイターたちとの模擬戦に遅れるわけにはいかないから、今日のところはさっさと帰るとしようか。

 それにしても、剣の腕前ではスケルトンナイトのお姉さんにまったく歯が立たなかったな……

 でも……勝ちたいな。

 ……スケルトンナイトのお姉さんに勝ちたい……いや、勝つんだ! 必ず!!


「また来ます! そのときはまた、よろしくお願いします!! それでは本日のご指導、誠にありがとうございます!!」

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