第115話 一体感を味わうのがたまんない

 リッド君の家へ向かう途中、一軒の家から男の子が出て来た。

 体格から察するに、リッド君と似たような年齢だと思う。

 そんな彼へリッド君が声をかける。


「やぁ、カッツ! 今日も泥遊び?」

「おう、リッド、もちろんだ!」

「お友達かい?」

「うん! アレス兄ちゃんにも紹介するね! 泥遊びが大好きなカッツだよ!!」

「カッツだ、よろしくな! そういえば『アレス兄ちゃん』ってことは、もしかして兄ちゃんがリッドの師匠か?」

「アレスだよ、こちらこそよろしくね。それと、師匠と言えるほどじゃないけど、リッド君に魔法を教えていることは確かだね」

「へぇ、それなら俺っちにとっても師匠ってことになるな!」

「ん? どういうことだい?」

「俺っちもリッドに魔法を教えてもらっているからな、師匠の師匠は俺っちにとっても師匠ってことさ!! ついでに言うと、村の子供はみんなアレス師匠の弟子ってことになるな!!」

「みんな!? リッド君……凄いことになってるね……」

「えっと……魔法の練習をしてたらさ、教えてっていう子が多くて……それならってことでみんなで練習してたらさ……そうなっちゃった」

「そ、そうなんだ……いや、魔法の練習をするのはいいことだと思うよ、うん」

「俺っちはもともとそんなに魔法に興味がなかったんだけどな。でも、泥遊びをしていると母ちゃんが服の洗濯が大変だっていっつも怒るんだ。そのことをリッドに話したら『それなら魔纏が役に立つかも』って言ってさ、教えてくれたんだ」


 そう言ってカッツ君は服の部分にだけ魔纏を発動する。

 見たところ魔纏に厚さがほとんどなく、殴ったら簡単に割れるレベルだ。

 正直、防御として考えるなら紙装甲もいいところではあるが、泥をはじく程度なら余裕ではある。

 そのため、この程度の魔纏でも泥遊びで服を汚さないようにするって目的自体は果たせそうだ。


「おお、それなら汚れずに済みそうだね。でもなんで服の部分だけなんだい?」

「手足についた泥なら水ですすげばすぐ落とせるだろ? そして俺っちはなるべく素手で泥に触れていたいんだ。土の匂いなんかも直に感じていたいし、音も直接耳に届けたいんだ。色だってそうさ、魔纏を通すとほんの少しだけど違うんだぜ?」

「え? そうなの?」


 魔纏を通すと色が違って見えるとか初めて聞いた。

 試しに顔の部分の魔纏を解いてみて、周囲の物を見てみるが正直違いがわからん。


「リッド君はわかる?」

「……う~ん、わかんない」

「俺っち、噓は言ってないぞ!」

「いや、たぶんカッツ君の感じた通りなんだと思うよ。ただ、その違いが微妙すぎて、俺たちにはその差が捉えきれないんだ」

「うん! オイラもそう思う!!」

「信じてくれたならそれでいいよ」

「というかむしろ、普通の人にはわからない差を感じ取れるカッツ君が凄いってことなんだと思うよ」

「うん! カッツ凄い!!」

「やめろよ、照れちまうだろ」


 そうやって恥ずかしそうにするカッツ君の頭をなでて……ついでだからリッド君の頭もなでつつ思う。

 魔纏……もっと言えば、魔力には微かにだが色があったってことだな。

 正直、完全に無色透明だと思ってた。

 ……あ、学園に戻ったらエリナ先生に聞いてみようかな?

 ついでだから、焼肉のときロイターたちにも話題として振ってみるか……みんななんて言うかな、返答が楽しみになってきた。

 ただ、ファティマ辺りは「そんなの当然でしょ?」みたいな反応をしそうではあるが……まぁ、それはそれ。


「それにしても、魔纏が服の部分だけなのはわかったけど、カッツ君は本当に泥遊びが好きなんだねぇ」

「もちろんさ! 泥に触れていると感じるんだ、俺っちもこの大地の一部なんだって。この一体感を味わうのがたまんないんだ!!」

「ふむ、一体感か……なるほど、とってもいい感覚だね!!」

「おお! 師匠もわかってくれるのか!?」

「えっと、その師匠というのはやめとこうか……『兄ちゃん』で、ね?」

「そうか? ならリッドと同じようにアレス兄ちゃんにしとくよ」

「ありがとう。それで一体感についてだったね、俺の場合は魔力との一体感を重視しててさ、おそらくそれはカッツ君の大地との一体感と同じか類似したものだと思うんだ」

「へぇ、そうなのか」

「うん、だからこれからもカッツ君はその感覚を大事にして行くといいと思う。きっと魔法を学ぶ上でも役に立つと思うし」

「おう! わかった!!」

「一体感か……オイラも頑張る!!」

「うん、その意気だ!!」


 なんというか、ここにも有望そうな子がいたなって感じ。

 まぁ、カッツ君の場合は戦闘職ってよりは生産職寄りだろうなとは思うけどさ。

 ……いや、もっと言うなら芸術家って感じかな?

 ただ、これだけ大地への親和性が高いのなら、一流の地属性魔法の使い手に育ちそうだなぁと期待したくもなるね。

 そうしてカッツ君の泥で作った作品をいくつか見せてもらったが、なかなかの出来栄えだった。

 今はただ土をこねて作っただけの器等でしかないが、そのうち焼き物なんかに移行していくかもしれない。

 ……将来的には陶芸家として名を馳せたりして。

 そんなことを思ってみたりもした。

 あと、魔纏があれば十分かもしれないが、一応浄化の魔法も教えてあげた。

 泥遊びの合間にでも練習してくれればと思う。

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