第274話 迫真の演技

「おはようキズナ君! 今日も素晴らしい枝ぶりだね!!」


 というわけで本日風の日、前期試験も終わって気分的にちょっとのんびりした感じ。

 ちなみに、今日明日……というか今週はもう学園は休みとなる。

 まあ、昨日の運動の試験、完走した奴は12時間も走り通しだったからね。

 それに、前期試験に向けていろいろ無理してきた奴もいただろうし……そういう頑張り屋さんたちへ学園側からの試験お疲れさんという意味合いの配慮ではないかと思う。

 そんなことを思いつつ着替えを済ませ、いつもの朝練コースへ向かう。

 そこには運動着姿のファティマがスタンバっている。


「おはよう、その様子だと、あのあとしっかり食事を取れたようね?」

「よう、その点については当然だな」

「結構」


 ファティマ母さんによる食習慣チェックを無事パスできたようだね。


「それはそうと、昨日で試験は終わったが、お前も早朝ランニングを継続か?」

「ええ、特にやめる理由もないし、いい習慣は続けてもいいかと思ってね」

「そうか、ならば早速! 今日も行ってみっか!!」

「ふふっ、そうね」


 こうして、今日も並んでランニングを開始する俺たちだった。


「そういえば、昨日のヴィーンにはビックリだったな? いや、もともとアイツはソイルに対してさほど敵意を持ってる感じではなかったけどさ」

「そうねぇ、あなたが初めて私たちの前にソイルを連れてきたときの弱気な態度から考えて……もしかするとヴィーンは、『このまま一緒にいたら、ソイルはずっと弱い自分に甘えたままになってしまう』とでも思ったのかもしれないわね」

「ああ、いわれてみれば、俺たちはソイルにかなり強引に意識改革を促したかもしれないもんなぁ」

「でしょう? 口下手なヴィーンとケンカ腰な取り巻きの2人では、おそらくソイルはいつまでも萎縮したままだったと思うし」

「なるほど、それをヴィーンは自覚していたからこそ、断腸の思いでソイルを追い出したというわけか」

「……あくまでも私の想像でしかないけれどね」

「それなら、そういえばいいのにって感じだけど……その辺がヴィーンの口下手さというわけか」

「あとは、甘さを見せてしまわないよう、あえて冷たくしたとも考えられるわね」

「そいつは迫真の演技だな……」

「もしかしたらずっと無口でいたのも、ボロを出さないように必死で口を噤んでいた結果だったりしてね」

「本当にそうだったとしたら……なんというか、カワイイって感じがしてしまうな」

「当のソイルからすれば、カワイイでは済まなかったでしょうけれど……」

「まあ、そうだろうなぁ……でも、なんだかんだいって、ソイルは前期試験であれだけの実力を発揮できたわけだから、これでよかったのかもしれないな」

「ええ、そうね」


 とまあ、こんな感じで会話を楽しみながら、今日の朝練を終えた。

 そして部屋に戻ってシャワーを浴び、ポーションを飲んでしばしゆったりとくつろぐ。

 これは試験の準備に忙しかった反動なのか、無意識に一つ一つの動作がのんびりしたものとなってしまっているね。

 ま、それも少しすればまたエンジンもかかってくるだろうし、重く考えず優雅に過ごすとしようじゃないか。

 そんなことを思いつつ、朝食をいただきに食堂へ。


「やったぁ! 今日から、自由だぁ! これでボクを縛るものは何もない!!」

「まあ、今日ぐらいはいいのかな」

「おや、走るのを継続するのではなかったのか?」

「そうだなぁ、ここでパッタリやめちまうと、そのままズルズルいっちまいそうだしな……よっしゃ! 腹ごなしにいっちょ走りに行くか!!」

「ゲッ! ウソでしょぉ!? ボクはやだよ、やんないからね!!」

「あはっ、ざ~んねん!」

「フン、逃げられると思わぬことだ」

「そういうこった!」

「なんでぇ~!? い~や~だ~誰か助けてぇ~!!」


 そんな嘆きの言葉を叫びながら、クラス落ち覚悟……していたがそれはもうなさそうな奴は仲間たちに連行されていった。

 あの賑やかな4人組……将来は走りのスペシャリストとなっていたりしてな。

 また、あちらこちらで、試験が終わってホッとした表情の学生たちが「これからどうする?」といった会話を楽しんでいるようだ。

 まあ、それは俺も一緒なわけだが、一応今日の予定としては、昼からロイターたちパーティーメンバーのみんなで冒険者ギルドにモンスター素材の売却に行くことにはなっている。

 森の中ランニングしているとき、ついでに狩ったモンスターが大量にいるからね。

 そんなわけで、午後からはそれでいいのだが、午前中をどうするかだな……

 う~ん、そうだな……ここ最近はレミリネ流剣術の練習に充てる時間がかなり限られていたからな、まずはそこからかな?

 あ、そういえば、ソイルの件にマヌケ族が関与していたかもしれないって話をエリナ先生にしようと思ってたんだった。

 でも、試験の成績を付けるのに忙しいかな?

 ふむ……とりあえず行くだけ行ってみて、忙しそうだったら日を改めるって感じにするか。

 よし、そうしよう!

 それじゃあ、まずはほどよい時間までレミリネ流剣術の練習をして、10時ぐらいになったらエリナ先生の研究室に行く! 決定だ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る