第273話 心ゆくまで語ってただけ
運動の試験が終わったところで、腹内アレス君から「終わったのならメシ!」という要求があり、大慌てで食堂へ移動し食事を開始。
昼と夜の2食分を待たせてしまったことになるわけだからね……お詫びの意味も込めて、今日はいっぱい食べちゃう!
そうして、俺がこっちの世界に転生してきてすぐの頃を思い出させるような勢いで大量に食べていく。
とはいえ、今でも一般的な食事量からすれば、かなり多いほうだけどね。
「やはり、ここだったか」
「思ったとおりでしたね」
「あはは……」
そこに、ロイターたち男子3人がやってきた。
「ああ、(腹内アレス君の)我慢の限界だったからな」
「まあ、お前らしいとはいえるな」
「ちなみに、ファティマさんたちは女子寮の食堂で女子会だそうです」
「えっと、ファティマさんからの伝言で『しっかり食べるように』っていってました」
「そうか」
俺の行動、めっちゃ読まれまくってるね……
まあ、それはともかくとしてロイターたちも合流し、さらに食事を楽しむこととなった。
「……アレスさん、アレスさんのおかげで僕は……最高の結果を出すことができました……本当に、本当にありがとうございます」
「そんなことよりも、今は食え!」
「そうだな……それに、アレスはあくまでもきっかけで、今回の結果はソイルの頑張りによる部分が大きいだろう」
「そうですよ、ソイルさんは自力で才能を開花させたのですから」
「ロイターさん、サンズさん……ありがとうございます……そしてここにはいませんが、ファティマさんやパルフェナさん……皆さんには本当に助けられてばっかりで……」
「おい……俺は『食え』といったはずだぞ?」
「はい……はい、食べます……」
こうしてソイルは涙を流しながら、料理を口に運び続ける。
その姿を見ていると、ふいに泣き虫グベルのことが思い出された。
……そういえば最近、あんまり会ってないよな。
まあ、グベルとエメちゃんは2人でパーティーを組んで、ゼスの馬車の護衛をしながらあっちこっち行ってるみたいだし、俺は俺で試験の準備に忙しかったからなぁ、仕方ないといえばそれまでか。
とりあえず、これからしばらくは俺も時間に余裕が持てるだろうし、そのときまた会えたらって感じだな。
そんなことも思いつつ食事を続け、ようやく腹内アレス君が満足してくれたようだ……久々に物凄い量を食べたね。
「まあ……今日は12時間も走り続けたからな……」
「そうですね……体が欲していたのでしょう……」
「は、はは……」
基本特盛ボーイズなロイターとサンズをして、引かせてしまう量を食べてしまったわけだ。
でも、1食でこんなに食べるのは、今日が特別だからね!!
そう腹内アレス君に言い聞かせながら、しばらくの食休みを挟み、大浴場へ移動することに。
「ソイル君! 今日の走りも凄かったね!!」
「と~っても、カッコよかったよぉ!」
「うんうん、私もすっかりソイル君にメロメロ~」
「あ、どうも……」
大浴場への移動中、すれ違う小娘どもに何度も声をかけられ、キャーキャーちやほやされているソイル。
だがその反応は、戸惑いがあるとはいえ、かなり淡泊なものといわざるをえない。
そういえば、朝ご飯を食べているときも、ソイルがあんまり嬉しそうにしていないのがムカつくとかいってる小僧がいたよなぁ。
この様子を見れば、確かにそんなふうに思ってしまう奴がいてもしょうがないって感じはしてくるね。
そして、お姉さんに対してまでそんな態度なら、俺も指導を入れるべきかと考えるところだが……
当のソイルは、さっきの食堂でも料理を盛り付けてくれたお姉さんに笑顔を絶やさず丁寧な対応だったところを見るに、お姉さんに対する態度はきちんとしているようなので、その必要もないかと判断した。
それと、今までソイルに対して大なり小なり侮った態度を見せていた小僧どもだが、魔法と運動の2つの試験の様子から舐めたらアカンと認識を改めた奴がチラホラと出てきたみたいだし、その方向性はこれからも続いていくことだろう。
そんなわけで、大浴場で風呂に浸かっているあいだも、ソイルがこれから体験するであろう苦労話が中心となった。
「えっと……とりあえず、前期が終わるまでの朝と昼は全部埋まっています……夕食はアレスさんたちと一緒だからと断りましたけど」
「そうか……まあ、私たちと同じような感じだな」
「そうですね……明日からは試験の準備だからという理由も使えなくなりますし」
「はは……そうですね……」
……まあ、その点に関しては、俺には心配のない話だね。
いやぁ、奇行子を続けておいてよかったな~
これ、本心だからね?
「それにしても、令嬢たちからのアプローチに対して、ソイルさんがあまり嬉しそうにしていないのは不思議だといわれていますが、やはり苦手ですか?」
「私も昨日から時々それは耳にするな」
「俺も同じく……で、どうなんだ?」
「えっと、それは……う~ん、なんといえばいいのかな……確かに、急な変化だったので驚いてはいますけど、たぶん今までの僕だったら、もっと有頂天になっていたかもしれません……でも、アレスさんに年上の女性について語ってもらったことによって視野を広く保つようにしたからなのか……なんとなく、あんまり浮ついた気持ちにならないんですよね……もしかしてアレスさんは、こういうことも見越して僕に話をしてくれたんですか?」
「……さあ、どうだろうな」
一応クールに、含みのある返事をしておいたけど……ごめん、そこまで考えてなかった。
単純に、お姉さん大好きって気持ちを心ゆくまで語ってただけなんだ。
そこで、ロイターとサンズは苦笑いを浮かべている。
たぶんこいつらは、その辺のところを読めているんだろうなぁ。
しかしソイルは、「さすがです!」って感じでキラキラした目をしている……ここがまだアレス検定3級ってところなんだろうなぁ……なんてね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます