第275話 お時間よろしいでしょうか?

 朝食を終え、レミリネ流剣術の練習を午前10時頃までみっちりとこなした。

 そして、シャワーを浴びて身嗜みを整え、エリナ先生の研究室へ向かう。

 さて、エリナ先生は在室だろうか……そう思いながらドアをノックする。


「どうぞ」

「失礼します」

「あらアレス君、いらっしゃい」


 在室だったようで、研究室に入るとエリナ先生は笑顔で迎えてくれた。


「突然お邪魔してしまいましたが、今お時間よろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ……というか、私もアレス君に話したいことがあったから、ちょうどよかったわ」

「おお、そうでしたか」


 エリナ先生からも俺に話があったとは……はて、なんだろう?

 俺がそう思っているあいだに、エリナ先生はお茶の準備を始めた。

 やった! エリナ先生とティータイムだ!!

 ……まあ、話題がマヌケ族のことになってしまうのは微妙だけどね。

 そうしてお茶の準備ができたところで、お話がスタート。


「ではまず、アレス君の話から聞かせてもらおうかしら」

「はい、話というのはBクラスのヴィーン・ランジグカンザが率いるパーティーのことなのですが……」

「やっぱり……」

「えっ、やっぱり?」

「私の話もそのことだったのよね……アレス君の話も、ヴィーン君たちの仲違いに魔族が関わっているのではないかってことだったのではない?」

「はい、そのとおりです」


 気軽に「おや、奇遇ですねぇ」っていえるような場面ではないよな……

 しかし、エリナ先生もマヌケ族の話を出してくるってことは、やっぱり奴らの関与があったってことで確定かな?


「アレス君も感付いているみたいだけれど、魔族が関わっていたわ」

「ああ、やはり……」

「関わっていた魔族自体は既に排除してあるから、その点についてはひとまず安心してもらうとして……狙いはソイル君で、ランジグカンザ家に入り込んでいろいろと画策していたみたいね」

「ソイルが孤立して精神的に弱ったところで……という感じでしょうか?」

「そうだったみたいね」


 排除って、やっぱり始末したってことなんだろうなぁ……

 それと、ソイルが狙われた理由はたぶん原作アレス君と同じで、保有魔力量の多さに目を付けられてって感じかな。

 加えて、原作ゲーム内では言及されていなかったけど、もしかしたらソイルもストーリーの裏側で知らないうちに犠牲になっていた可能性があるわけか……

 そう思うと、ソイルが助かって本当によかった。

 また、今回のことでソイルの周囲も警戒を強めるだろうし、何より今のソイルなら簡単にやられることはないという期待がある。

 このように考えると、マヌケ族が再度ソイルを狙うのは難しくなるはずだ。


「そういえば、ヴィーンたちからは闇属性の魔法の気配はなかったように思うのですが……」

「そうね、魔族側も思考誘導の魔法を使用していなかったわけではないみたいだけれど、どちらかというと言葉による誘導がメインだったみたい……それにここ最近、学園内で思考誘導による暗躍を何度か阻止されているのも影響しているでしょうし」

「ああ、そんなこともありましたね……」


 いつだったかの、思考誘導の指輪を使っていた敵意君がそれだろう。

 それから、言葉による誘導っていうのも原作アレス君と同じで、使用人に擬態したマヌケ族が言葉巧みにあれこれ適当なことを吹き込んだんだろうな。

 それで、ヴィーンはそこまでガッチリってわけじゃなかっただろうが、取り巻きの2人は思いっきり誘導に乗せられてしまったってところか。

 ……そんな感じでいろいろあったが、とりあえず関与していたマヌケ族を始末できたということなら、ソイルに関するマヌケ族問題はクリアと見てよさそうかな。


「あと、魔族の話とは変わるけれど、ソイル君が再び自信を持って魔法を使えるように勇気づけることができたのはお見事だったわね」

「いえいえそんな! 私は少しソイルの背中を押しただけですよ、それにパーティーメンバーたちの協力があったからこそで、私だけでは無理だったはずです」


 ……正確にはソイルのケツを蹴っただけ、というべきかもしれないけどね。

 加えて、ロイターたちがいたからこそっていうのも本心から思っていることだ。

 いや、エリナ先生に「謙虚なアレス君」と思ってもらえたらという気持ちが全くないといえばウソになってしまうだろうが、それはそれ。


「そうね、そういった仲間の存在のありがたさを素直に感じることはとっても大事なこと、これからもその気持ちを忘れずにね」

「はいっ! しかと心に刻んでおきます!!」

「ふふっ、よろしい」


 そのときのエリナ先生の笑顔はとても輝いていて、まぶしかった。

 ああ、俺はこの笑顔を見るためにこの世界に転生してきたのだろうな……なんて思ってしまうぐらいの笑顔。

 こんな感じで、その後も試験準備期間にどのような訓練をしていたかとか、ソイルがどのようにして自信を取り戻していったのかとか、そうした話をしながら楽しい時間を過ごした。

 ちなみに、お昼もエリナ先生の手料理をごちそうになった。

 それはもう、これ以上ない幸せな時間だったね。

 そうしてお昼ご飯を食べ終わったところで、名残惜しいがロイターたちとの約束があるからね、お暇しなくてはならない。

 というか、本当はエリナ先生も忙しかったはずだよな……


「お忙しい中、長々と居座ってしまい申し訳ありませんでした」

「そんなこと気にしなくて大丈夫よ、私も楽しい時間を過ごせたし」

「そういってもらえると、ありがたいです……そして、お昼ご飯もごちそうさまでした、とても美味しかったです」

「ふふっ、お粗末さまでした」

「それでは、失礼します」

「ええ、またね」


 こうしてエリナ先生の研究室を後にし、最高の気分のまま待ち合わせ場所へ移動する。

 よっしゃ、冒険者ギルドで大量に納品だ!

 久しぶりに驚かしたる!!

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