第117話 心の奥底ではこの感じを求めていた
夕方になり、今日の村歩きはここまでとして、リッド君の家に戻ることにした。
この村歩き中、前回俺がゴブリンの討伐に来ていたことを覚えていた村人が結構いて話しかけてくれた。
そのうちの数人が、俺の見た目がだいぶ変わっていたので一瞬違う人かとも思ったらしいが、リッド君と一緒にいたことで俺だと確信するに至ったそうだ。
どうやらこの村では、俺とリッド君はセット扱いなのかもしれないね。
それから、あのときの俺はまだ愛されボデーの結構なぽっちゃりさんだったからね、違う人かと思われてしまうのも仕方ないかなって感じだ。
……ごめん、あのとき言ってた愛されボデーって正直なところ冗談というか、俺なりのギャグのつもりだったんだよね……
それが、意外とギャグで済んでいなかったっていうかさ……
「アレス兄ちゃん、難しい顔してどうしたの?」
「ん? いや、ごめん、この前来たときと俺の体型、結構変わってたでしょ? リッド君はよく俺だとすぐわかったなって思ってさ」
実際そうなのである、リッド君だけでなく、ナミルさんや茶葉屋さんのお姉さんもわりとすぐ俺だと判断出来ていたし。
そういや、門番的な男も気付いていたな……いや、門番の場合は仕事柄そういうのに敏感であるべきなのかな?
「え~オイラはアレス兄ちゃんだって一目見ただけですぐわかったよ?」
「へぇ、そうなのかい?」
「うん! それに魔力の感じとかはそのまんまだったし……あ、でも前より感じ取りづらかったかな?」
「おお! そこに気付くとは、やるねぇ! 実はつい最近、魔力の隠蔽っていうのを新しく覚えてさ、リッド君にもあとで教えてあげるよ」
「わぁ、凄そう!」
リッド君の目がキラキラと輝いていて、ウキウキしているのがよくわかる。
素直で可愛らしいので、思わずまた頭をなでてしまったね。
「アレス兄ちゃん、くすぐったいよぉ~」
「ふふふ」
「あ、そういえば、アレス兄ちゃん! 数日前ぐらいかな、魔力探知の練習をしてたときなんだけどね、なんか嫌な感じのする魔力があっちの方に集まっているのを感じたんだ……たぶんあれはモンスターじゃないような気がするんだけど……」
そう言って南西の方角を指さすリッド君。
ふむ、嫌な感じの魔力とな?
まぁいい、確認してみればわかることだろう。
「あっちの方角だね……リッド君、調べてみるから、ちょっと待っててね」
「うん!」
そうして魔力探知を発動する。
徒歩で片道数時間といったところか?
確かに、嫌な感じのする魔力の持ち主が1カ所に集まっているな。
そしてリッド君の言う通り、あれはモンスターじゃないね……一発小突きたいって感じがしないし。
……もしや、これは異世界テンプレ! 盗賊ってやつじゃないか!?
フッ、どうやら俺にもようやく盗賊を討伐する機会がやってきたってことかもしれないな。
まぁ、こっちの世界にきて既に人間……と呼ぶに値しないかもしれない人形師を1人始末しているからな……
その辺のメンタル的な抵抗感はそこまでじゃない、その点については心配ないハズ。
それに、ロイターとの決闘を経験したことで、絶妙な手加減も身に着けたからな、生け捕りも可能だと思われる。
とはいえ、まだ盗賊と決まったわけではないからな、現場に行ってみての判断が必要だ。
う~ん、勝手に動こうかとも思ったが、一応村長には「正体不明の悪そうな雰囲気の存在が集ってるから様子を見て、場合によっては始末か捕縛してくる」って話をしとくかな?
そうしてリッド君を先に家に帰し、村長に話をしに行ったところ、捕縛は明日ということになった。
始末するだけなら俺1人でも余裕ではあるが、捕縛ともなると人手がいるだろうとのことで何人か集めるとのことだ。
まぁ、村としても他人任せにばかりするのも気が引けるといったところかもしれない。
あと、捕縛した後の収容場所の準備もしなきゃって感じかな。
こうして明日の打ち合わせを終え、リッド君の家へ。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、夕飯の準備が出来ているので食べましょう」
「はい、いただきます」
そうしてナミルさんの手料理をいただく。
ああ、これだよこれ……おふくろの味って感じがしてホッとする。
腹内アレス君もじっくりと味わって食べるつもりのようで、いつもより大人しい。
「やはり、ナミルさんの料理はとても美味しいです」
「でしょ!!」
「ふふっ、まだまだたくさんありますから、しっかり食べてくださいね」
「はい、ありがとうございます!!」
「オイラもいっぱい食べる!!」
「あらあら」
前世での家族の団欒を思い出すような、暖かい雰囲気に包まれながらの夕食だった。
今回ソレバ村に来たのは、リッド君の成果を見に来たというのもあるが、心の奥底ではこの感じを求めていたのかもしれないな。
その後は、食後のデザートとして茶葉屋のお姉さんにもらったハーブのパウンドケーキを3人で食べた。
俺が持ってきたクッキーは後日リッド君とナミルさんで楽しんでくれればと思う。
それから、今日もリッド君と一緒にお風呂に入り、背中を流し合った。
この触れ合いも、俺に癒しを与えてくれるって感じがするね。
そして寝る時間までリッド君に、先ほど予告した魔力の隠蔽等の俺が新しく学んだ魔法について教えてあげた。
ただ、回復魔法はまだ早い気がするのでやめておいた。
前世的感覚で言えば大学生の俺でもかなりメンタルにダメージがあったからさ……
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