第763話 君たちには無限の可能性が秘められている

 さて、表彰式が終わってしばらく経ち、会場内の混雑も一段落してきたので、そろそろリッド君たちに会いに行くとするかね。

 昨日は思いがけない負傷などをして俺に余裕があるかどうか分からなかったので、約束していなかった。

 だが、今日と明日は大丈夫だろうとの判断から、一緒に夕ご飯を食べる約束をしていた。

 というわけで、一応念のため闇属性で雰囲気を隠しながら移動を開始する。

 まあね、これでも武闘大会1年生男子の部優勝者だからねぇ! ドヤァ!!

 なんて一発、ドヤ顔をかましてみたが……やっぱりね、昨日で俺もそれなりに有名人になってしまっただろうからさ……街中で人々から握手とかサインなんかを求められちゃう可能性もあるでしょ?

 そうした混乱を避けるため、俺なりに配慮しとこうと思ったってわけなんだよ。

 とはいったものの……誰からも気付かれずスルスルと街中を歩けてしまったら、それはそれで切なくなってしまいそうだからね……

 そういった無用なメンタルダメージを回避するためにも、俺だってことを隠しながら移動するのは正解だろう。

 でもまあ、おそらくそういうことを気にしながら街中を移動する期間は数日……長くても、せいぜい来週いっぱいぐらいまでだろうなぁ。

 今はほら、武闘大会の観戦者たちが学園都市に集まっているけど、しばらくしたら自分の家に帰って行くだろうからね。

 といいつつ、学園都市に引っ越して来ている熱心なファンとかもいるみたいだけどさ。

 ただ、そういう熱心なファンの人数も、学園都市全体の割合から見ればごく一部だろう。

 それに本物のファンであれば、相応にマナーもいいんじゃないかと思うし。

 ……というか、よく考えたら……平民が貴族の子女に気安く声をかけるのって、かなりハードルの高い行動だったかもしれない。

 場合によっては「俺様は貴族だぞ!」ってキレられるかもしれないわけだし……

 まあ、武闘大会で好成績を残せるレベルの学生ならある程度人格も整ってそうだから、そんな瞬間湯沸かし器みたいなキレ方をしないとは思いたいけどね……

 そんなことをああだこうだと考えているうちに、リッド君たちが宿泊している宿屋に到着した。

 そうして食堂に向かえば……


「アレス兄ちゃん! 武闘大会の優勝おめでとう!!」

「おおっ! アレスのアニキだ!!」

「アレスお兄様! お待ちしておりましたわ!!」

「アレスあにぃ! 昨日は凄かったね!!」

「おうとも! オレなんか、今まで生きてきた中で一番燃えた1日だったね! マジで!!」

「アレス兄のおかげで、あんな凄い大会を観ることができた! 最高だったよ、ありがとう!!」

………………

…………

……


 俺の姿を見た瞬間、リッド君たちのテンションが上がった。

 こんなふうに喜んでもらえると、俺としても嬉しい限りだ。

 また、そんな子供たちへ、俺と同じようにギドやアレス付きの使用人たちも温かい眼差しを向けている。

 ちなみにだけど、食堂の中でもここは個室のため気兼ねなくおしゃべりができる上、あらかじめギドが防音の魔法をそれとなく展開していたようなので、ほかの客たちに迷惑がかかることは一切ないといえるだろう。


「それにしても……アレス兄ちゃんの魔纏が突き破られたときは、本当に驚いちゃったよ……」

「ああ! ウソだろって思った!!」

「うんうん、あのときはボクも焦ったなぁ~」

「あのシュウって人! マジでスゲェよな!?」

「確かにな! 俺もあんなパンチを打ってみてぇって思ったもんだぜ!!」

「だけど……そのあとの全身血だらけでボロボロになるっていうのは、ちょっとね……母ちゃんが心配しそうだし……」

「だよなぁ……そう考えるとやっぱ、アレスのアニキみたいに魔纏を極めたいところだ」

「そうはいっても、今の私たちじゃ魔力が足りないからねぇ……もっと魔力操作を練習して、魔臓を大きくしなきゃって感じかなぁ?」

「違ぇねぇ! もっともっとやんなきゃだ!!」

「でもさ、でもさ! 俺っちたちはまだまだ子供なんだし! このまま頑張ってれば、大人になる頃には魔臓もイイ感じにデカくなってんじゃね!?」

「そうですわね! でしょう? アレスお兄様!?」

「うん、もちろんだよ! 頑張ったら頑張っただけ魔力は応えてくれるんだ! それに、なんたって君たちには無限の可能性が秘められているんだからさ!!」


 さすがに、アレス君並の保有魔力量になるにはどれだけの努力が必要かってことまでは分からない。

 ただ、ここにいるみんな、学園に入学する年頃までに貴族並……少なくとも士爵家、それどころか男爵家レベルの保有魔力量に達するのは可能だと思っているし、努力次第ではそれ以上だってじゅうぶん狙えるだろう。


「よっしゃ! 俺はやるぜ!!」

「ボクも!!」

「私も!!」


 そんな感じで俺の同意を受け、子供たちの目が輝き、声も弾む。


「でもま! 俺としては、魔法だけじゃなくて剣術とかの物理戦闘も磨いときてぇな!!」

「うん、あのシュウって人……ホントに凄かったもんね……」


 ふむ……俺がやられかけたということもあってか、やはりシュウの強さはインパクトがあったようだ。


「物理戦闘といったら! 今日準優勝だったバンディンとかって人もスゲェよな!?」

「ああ、あの人ね……なんか、一度絡みついたら二度と放してもらえないって感じで! すんごくヤバかったね!!」

「私……あのムキムキなのも併せて、ちょっとその……イヤかも……」

「まあ、男の僕でも……ちょっとキビシイなって思っちゃったからねぇ……」

「それに対戦相手の中には、幸せそうな顔で失神してた人もいたのが、ちょっとコワかったよね……」


 さっき見たばっかりで記憶が鮮明だったからというのもあるだろうが、あのムキムキお兄さんの戦闘スタイルは子供たちに刺激が強かったようだ。

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