第696話 堪えていたものが溢れてしまった
どうやら、ノアキアに対するファティマの決勝進出を前提とした物言いが、獣人族ヒロインであるゼネットナットのプライドを刺激してしまったようだね。
そこで思わず、2人の会話に割り込んで来たって感じだろう。
「ええ、私の3回戦の相手であるゼネットナット・ウォルフね……忘れていないから、安心してくれていいわ」
「ふん、名前を知ってる程度じゃ認識が足りねぇな! なぜなら決勝に上がるのは、このアタシだからだ!!」
「ふふっ、素晴らしい意気込みだわ……もっとも、それぐらいでなければ私の糧となってくれそうもないものね……」
「なんだと!? 舐めたことばっか抜かしやがって!!」
「あまりキャンキャン吠えないほうがいいわね、子犬が虚勢を張っているようにしか感じられなくなってしまうもの……ああ、ごめんなさい、あなたは狼の獣人だったわね?」
「……くくっ、くくくくく……面白れぇ! このアタシに向かって、平然とそこまで挑発の言葉がスラスラ出てくるなんてな! いいぜぇ……舞台に上がったら、ボッコボコにしてやんよ!!」
まあ、ファティマさんも平静シリーズのご愛用者だからね……あれによって、メンタルの安定もシッカリと鍛えられているのさ!
まったくもって、平静シリーズはなんて素晴らしいアイテムなんだ!!
といいつつ……ファティマさんの気の強さは、生まれ持っての気質かもしれないけどね?
オリハルコンのメンタルを持つ少女……それこそが、ファティマ・ミーティアムなのである! ジャジャンッ!!
なんてことを心の中で思っていると、ファティマが一瞬ジロッと視線を向けてきた……
そして、ロイターが俺の肩に手を置き、首を横にゆっくりと振っている。
ついでにいうと、サンズも苦笑いを浮かべている。
コイツら……人の心を読み過ぎじゃね?
「さて、どちらが決勝の舞台に上がって来るのか……楽しみに観戦させてもらうとするわね? それじゃあ、頑張ってちょうだい」
しばらく黙って2人の言い合いを見守っていたノアキアは、そういいながら自分の席に戻って行った。
また、タイミング的に入れ替わりといった感じで、パルフェナも戻って来た。
「ただいま……って、ピリピリした雰囲気になってるけど……どうしたの?」
「おかえり、そしてこれはそうね……単に、お互いの健闘を祈り合っていたといったところかしら」
「まっ! そんなトコだな!!」
「へぇ、そうだったんだねぇ……うん! それなら、お互い悔いの残らないよう、いい試合をしてきてね!!」
「もちろんよ」
「ああ! いわれるまでもねぇ!!」
ほうほう……女子は女子で、いい感じにライバル関係が構築され始めているようだね!
そうやって切磋琢磨し合える相手がどんどん増えていくのって……この上なくステキなことだよね!!
「ふむ……我々も負けてはおれんな」
「ええ、ロイター様のおっしゃるとおりですね。それから、パルフェナさん……結果は残念なものとなってしまいましたが、心震える見事な闘いぶりだったと思います、お疲れ様でした」
「ああ、惜しかったよな!」
「ええ、あと少しだったと思うんですがねぇ……」
「パルフェナさんの闘いぶりを観て、僕ももっと頑張ろうって思いました!」
「……武技では上回っていた、あのまま攻めきれていれば勝てていたはず」
「そうそう! あれはホントに惜しかったよねぇ~!!」
「この経験を糧として、より一層魔力操作の取り組みを強化し、なおかつ武技も磨いていくぞ! 大丈夫、俺たちも一緒だ!!」
「みんな……ありがとう……うん、うん……私……もっと頑張る!」
ここでパルフェナは、堪えていたものが溢れてしまったのだろう……目から涙がこぼれた。
「それと、ファティマちゃん……決勝に行けなくてごめんね……」
「そうね、残念な気持ちがないといえばウソになってしまうけれど……とりあえず、あなたの受けた借りは私が決勝できっちりと返してくるわ」
「うん……私のぶんも、思いっきり闘ってきてね……」
再度ファティマが決勝進出を前提とした言葉を発したことで、ゼネットナットが文句をいいたそうな表情を浮かべていたが……パルフェナに気を遣ってか、黙ったままだった。
「……ファティマ・ミーティアムさん、ゼネットナット・ウォルフさん……3回戦第2試合が始まりますので、準備をお願いしますっ!」
そして、呼び出し係の人が2人を呼びに来た。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「ふん! 勝つのはアタシだけどな!!」
「さっき、キャンキャン吠えるのは控えたほうがいいと教えてあげたでしょう? もう忘れたのかしら?」
「うっせぇ!!」
そんなこんなで俺たちの激励を受け、ファティマたちは舞台に向かって行った。
また、なんだかんだ言い合いながら2人並んで舞台に向かう姿を見て、意外といいコンビになっていくかもなって気がした。
まあ、明らかにゼネットナットのほうがデカいから、デコボコ感ハンパないけどね。
とはいえ、それはパルフェナとファティマが並んだときも同じだったか……
おっと! この辺でサイズ感について考えるのはやめておこうか……またファティマに睨まれてはかなわんからな……
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