第166話 ヘイ、ボーイ!
冒険者ギルドのテント……まぁ、出張所と言うべきか、そこからすぐそこって感じのダンジョン入口前に立っている門番的な男に軽く会釈なんかをしつつ、入口に入っていく。
ついに、異世界に来て初めてのダンジョンアタック開始というわけだね。
そんな感慨に耽りながら、ダンジョン1階の広間を見渡す。
やっぱ、ダンジョンっていうのはファンタジーあるあるとして、時空が歪んでいるのか、外からの想像より広いね。
それと、ギルドのオッサンの説明によると、1階にモンスターはいないらしい。
あるのは転移陣のみ。
そしてこの転移陣であるが、小規模ダンジョンではボス部屋から1階に帰って来るときにのみ使える。
そのため、逆に1階から直接ボス部屋に行くってことはできない。
ただこれは、小規模ダンジョンならではの仕様である。
というのが、我々人類が勝手に決めた小規模ダンジョンの基本的な定義は「10階以下に最終ボスがいるダンジョン」ってことになっているのだが、10階より先に階があるダンジョンには、10階刻みで転移陣が使用できるようになっているのだ。
なので、小規模ダンジョンより規模の大きなダンジョンでは、転移陣の使用により11階からとか、21階からスタートみたいな感じでダンジョンに挑戦できるわけだ。
ああ、もちろん、自力でその階層に到達できた奴だけに許された特典みたいなものなんだけどね。
この辺、もとがゲームだからっていうのもあるんだろうけど、わりとサービスがいいなと思っちゃうよね。
そんなことを思いながら、なんとなく転移陣を眺めていたら、急に輝きだした。
そして、少し間をおいて5人の冒険者たちが転移陣に姿を現した……ボスを倒して帰って来たんだね、おつかれさん。
「なぁ、リーダー、そのレイピアだけどよぉ、やっぱ売んないで、俺らで使わねぇか?」
「う~ん、まぁ、確かに売るのはもったいない気もするが……俺たち5人とも基本殴打か斬撃で戦ってるだろ? レイピアみたいな刺突武器は今まで使ってこなかったし、慣れるまで苦労しそうだぞ?」
「……おそらくだが、そのレイピア、魔法武器だ……そのため、魔法の不得意な、俺たちでは、扱いきれん」
「え~? うっそぉ!?」
「まぁ、それはそうでしょうなぁ、装飾も凄いですし、なんかそういう雰囲気もありますものなぁ」
「な? だから言っただろ?」
「……リーダー、言われるまで魔法武器だってことには気付いてなかったんじゃねぇか?」
「……い、いやぁ、知ってた! 知ってましたぁ!!」
「え~? ホントかなぁ~?」
「まあまあ、ここはリーダーを信じてあげましょうぞ?」
「しゃぁねぇなぁ」
ボスの討伐報酬としてレアドロップでもあったのだろう。
なんか5人の冒険者たちの雰囲気が、和気あいあいとしていい感じだ。
このあとは酒場に直行! 美味い酒で乾杯!! ってところかな?
……まだ、昼ちょっと前だけどさ。
そんなふうに冒険者たちの姿を眺めていると、やはりダンジョンには夢が詰まっているのだろうと思ったものだった。
……さて、俺もそろそろ本格的にダンジョン攻略に取り掛かるとしますかね。
そうして、2階へと続く階段を上っていく。
「ふむ……ここからが本番だな」
なんて、雰囲気たっぷりに言ってみた。
とはいえ、ギルドのオッサンの話では、そこまでヤベェモンスターは出ないらしい。
ただし、稀にゴブリンキングが出るから、その点には注意せよとのことだった。
……まぁ、今の俺にとってゴブリンキングなんてそこまでの脅威でもないんだけどさ。
というか、ビビって逃げられる可能性のほうが高いし。
そして、今回のダンジョンアタックで使う魔法は、基本的に魔纏と魔力探知だけにしておこうかなって思う。
まぁ、不測の事態を避けるために魔纏は欠かせないし、魔力探知で効率的に探索を進めようとは思うのだが……それ以外は俺の物理戦闘力の強化のためって感じだ。
なので今回、格闘メインで攻略していこうと思う。
あと、トレントブラザーズはお休みになりそうかな?
ああ、でも、魔力を込めずに使うっていうのならアリか……とりあえず、その辺は攻略しながら様子を見てって感じになりそうだね。
そんなことを思いながら、早速魔力探知でモンスターを探しているのだが……ひとつ妙なことがある。
明らかに反応はゴブリンなのに、俺の魔力を感じて逃げ出さないのだ。
俺も冒険者のあいだで「ゴブリン狩り」と呼ばれる程度には、ゴブリンというものをよく知っているのだ、そのゴブリンの魔力の感じを間違うはずがない。
……とりあえず、接近を試みるか。
そうしてゴブリンらしき反応のあった場所に向かってみたところ、やはりゴブリンだった。
この瞬間、ゴブリンと目が合った。
「ギギャ!? ギギィッ!!」
お! おぉ!? 俺の姿を発見したゴブリンが、逃げずに突っ込んで来る!!
思いっきり棍棒を振り上げて、全速力で向かって来る!!
なんだろうこの気持ち、すっごくテンションが上がって来る!!
「ギッギャァ!!」
なんとなく、ゴブリン語で「獲ったァ!!」って言ってそうな、そんな気合の乗った棍棒の一撃が、助走を付けて飛び上がったゴブリンから振り下ろされる。
その棍棒と俺の魔纏の衝突音が辺りに響き渡るが、この程度で俺の魔纏が突破されるわけもない。
反対にゴブリンが握っていた木製の棍棒が根元から折れ、その先は少しの距離を飛び、今は虚しく地面を転がるのみ。
そして肝心のゴブリンのほうは、飛び上がった勢いそのままに、俺にぶつかる。
近頃ゴブリンに逃げられまくっていた俺としては、こうして向かってきてくれたことに嬉しさが込み上げてくる。
そのため、なんとなくそのままの流れで、思いっきりハグをしてあげた。
「ギャッ!! ギギィッ!!」
「ヘイ、ボーイ! そんなに恥ずかしがるなよ、男同士だろ?」
「……ギギ……ギ…………ッ………………」
あれ? 最初は恥ずかしかったのか、少しばかりの抵抗があったが、急にゴブリンから力を感じなくなったぞ?
なんて思っていたら、ゴブリンが黒い霧となって消えていった。
「は!? え!?」
……そういえば、ギルドのオッサンが「ダンジョンのモンスターは、討伐すると黒い霧となって消える」と言っていたな。
……ということは……そういうことなのだろうか……
「……ゴブリンよ、俺とのハグは死ぬほど嫌だったのか?」
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