第167話 ダンジョン産のモンスター
抱き締めた俺の腕の中で、命の灯が燃え尽き、黒い霧となって消えたゴブリン。
その儚さにしばし、思いを馳せていた。
そして足元には、ゴブリンが残した魔石と……薄汚い腰布。
これもギルドのオッサンが言うにはダンジョンの仕様で、モンスターを討伐すると魔石が残り、運がいいとプラスアルファでアイテムのドロップがあるらしい。
なので、おそらくこの薄汚い腰布は、ゴブリンによるドロップアイテムなのだろう。
……しかしながら、こんな薄汚い腰布を欲しい人なんかいるのかな?
まぁ、あのゴブリンは逃げずに全力で俺にぶつかって来てくれた素晴らしい奴だったからね、そのまま放置するのも忍びないし、記念に回収しておこう。
ただ、そうはいってもばっちいのは確かなので、浄化の魔法は必須だね。
というわけで、頑固な汚れがあっては不衛生なので、何度か連続で浄化の魔法をかけ、キレイな布って思えるレベルになったところで回収した。
そして改めてこれは、名も知らぬ勇敢なゴブリンの遺品なのだなぁと思うと、少しばかりの切なさが込み上げてくる。
……いや、モンスターを討伐するたびにこれじゃあ、先が思いやられるね、割り切っていこう。
それから、俺の魔力を感じて逃げ出さないのは、このゴブリンが特別だったのか、それともダンジョン産のゴブリン共通なのかという点については気になるところなので、早速試してみよう。
というわけで、魔力探知により周囲を探る。
ダンジョンの構造的には、わりとオーソドックスなダンジョンというべきか、洞窟……もしくは石製の壁に囲まれた迷宮って感じ。
そんなダンジョン内を探ると、3階へつながる階段へはほぼ一本道で、時々小部屋みたいな空間が認識される。
それでゴブリンのほうだが、ダンジョン産のゴブリンはどうやら、俺の魔力が気にならないようだ。
まぁ、討伐したら黒い霧になって消えるってことからも、ダンジョン産のモンスターっていうのは、外のモンスターとは違うってことなのかもしれないな。
なんというか、よりゲームっぽいというか、データっぽいっていうか……
そんなふうに考えれば、外でモンスターを狩るよりも心置きなく狩れると言えるかもしれない。
……よっしゃ、狩りまくりだな!
とはいえ、死体が残らないので、ゴブリンの大量納入ができなさそうなのが、残念なところではあるね。
それはともかくとして、そろそろダンジョンの攻略を再開するとしますかね。
そう思いながら、階段へ向かって歩き始め、その途中で俺の姿を見たゴブリンが次々に襲いかかってくる。
……ああ、逃げ出されないっていうのは、こんなに嬉しいものなんだね。
それと、俺がこのダンジョンで出会った最初のゴブリンに対しては、向かってきてくれた驚きと喜びにより、そのまま棒立ちで棍棒の振り下ろしを魔纏で受け止めてしまったが、その次のゴブリンからはそんな一撃を許さず、しっかり回避したり、反対にこちらが先に攻撃を加えたりした。
また、ここがまだ2階だからというのもあるだろうが、毎回ゴブリンは単体で出てくる。
おそらく複数で出てくるのは3階以降といったところなのだろう。
そんなことを思いながら進んでいき、ようやく3階につながる階段に着いた。
ここまでで回収した魔石は12個だが、腰布は最初のゴブリンの1枚だけ。
……あんな薄汚い腰布ごときでも立派なドロップアイテムなんだぞって感じだろうか。
俺の場合は浄化の魔法を使えたので、回収することもできたが……ほかの冒険者はどうしているのだろうか。
正直、そのまま放置って可能性もあるよな。
……この先進んでいくうちに、地面にたくさん布が落ちてるみたいなことがあったりして。
まぁ、そうやって地面に放置したとしても、しばらくするとダンジョンに吸収されるみたいなんだけどさ。
そうしたくだらないことを考えつつ階段を上り、3階に到着。
3階に関しては、2階とさほど変わらず、若干ダンジョンの構造が複雑になったかなってぐらいで、ゴブリンは2体ずつ出てくるって感じだった。
とまぁ、こんな調子で4階、5階……って感じでどんどん進んでいったが、基本的にはそれまでの階と同じ傾向で、徐々に構造の複雑性が増すことで迷路感がより強くなっていき、出現するゴブリンは1階ごとに1体ずつ増えていくとともに、ナイトやマジシャンが混じるようになっていった。
しかしながら、迷路感が強くなったところで、俺には魔力探知という強い味方がいるからね、次の階へつながる階段がアッサリ見つかるんだ、これはマジで楽。
一応念のため、ギルドで発行している地図も購入してはいたのだが、今のところ出番はない。
また、階が進むごとにほかの冒険者パーティーの姿もちらほらと目につくようになっていったが……まぁ、特に関わることもなく、そのままスルーした。
やっぱさ、「獲物を横取りする気か!?」とか言われでもしたら面倒だなって思っちゃうからね。
ちなみに、今のところ宝箱には縁がない。
いや、正確に言えば宝箱自体はあったんだけど、既に空っていうね……待っていればそのうちダンジョンさんサイドが気を利かしてアイテムを補充してくれるのかもしれないが、まぁ、そこまでしなくてもいいかなって思ったので先に進んだ。
それから、モンスターのドロップアイテムのほうは、ゴブリンナイトがちょっとマシそうな剣を、ゴブリンマジシャンが魔力武器っぽい杖をドロップしたって感じで、あとは安定の薄汚い腰布。
こうして魔力探知のお世話になりながら、次々と階を上っていき、ついに10階に到着。
小規模ダンジョンであるここでは、ここがラストの階。
ちょっとした小休止をかねてポーションを一本ゴクリ。
「……さぁ、ボス部屋! 元気に行ってみようか!!」
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