第168話 ギアを上げてこうぜ!!

 ダンジョン10階の広間を横切り、「ここにボスがいますよ」とでも言うような厳かな雰囲気を放つ扉の前まで来た。

 これから始まる死闘の気配に気分が高揚してくるのを感じる。

 そんな想いを抱きながら扉を開き、部屋の中へ入る。


「……ほう、どうやら俺は運がいいようだ」


 ボス部屋の中にいたのは、いかにも高級ですと言いたげな椅子に座って、偉そうにふんぞり返っている王冠に赤マント、そして豪華な杖を持ったゴブリン……おそらくゴブリンキング。

 そして、その周りにはゴブリンにしては高級そうな鎧に身を包んだゴブリンジェネラルが1体と、それに比べれば幾分粗末な鎧のゴブリンナイトとローブを纏ったゴブリンマジシャンがそれぞれパッと見では数えられないぐらい勢ぞろいしている。

 ……なんというか、ゴブリン国の謁見の間って感じだね。

 これがたぶん、ギルドのオッサンが注意しろと言っていたゴブリンキングなのだろう。

 ……とはいえ、ここってボス部屋だからなぁ、注意したところでどうしようもない気もするんだよなぁ。

 だって、原作ゲームではボス部屋に一度入ったら、ボスを倒すまで外に出られなかったからさ……あ、でも、こっちではどうなんだ?

 そう思って後ろを振り返ってみると、扉が消えていた……やっぱりね。

 ここで「音もなく扉が消えた!?」ってリアクションしてあげようかとも思ったけど、それがゴブリンたちに通じずスベったらハズいのでやめといた。

 ……「笑えやコラァ!」って逆ギレ気味にゴブリンたちにゲンコツをかまして回るのもアリだったかな?

 まぁ、それはともかくとして、こっちの世界でもボスを倒すまで外には出られないようだ。

 ……しかしながら、俺レベルになると今さらゴブリンキングって感じにもなってしまうが、一般的な冒険者だとヤベェんじゃないの?

 いや、ゴブリンキング1体だけなら囲んでボコればいけそうだけど、周りにもウジャウジャいるからさ、数的にしんどいような気がするんだ。

 正直、小規模ダンジョンなんて初心者用のザコダンジョンっしょ? って心のどっかで思ってたんだけど、舐めたらアカンみたい。

 ……でもなぁ、学園都市最寄りなだけあって、原作ゲーム的には序盤で攻略できるダンジョンだったと思うんだけどなぁ。

 とはいえ、ここで俺が中途半端にほかの冒険者の心配をしても無意味だろう。

 とりあえず、ここにいるゴブリンどもをボコボコにするだけ。

 一応ここでも、俺自身の訓練のため、格闘メインでいこう。

 ……そんな感じのことを、ゴブリンキングがゴブリン語でギャーギャー言っているあいだに考えていた。

 いや、たぶんゴブリンキング側としてもさ「ここまでよく来たと褒めてやるが……お前の命もここで終わりだ」みたいなことを威厳たっぷりに言ってたんだと思うよ? 知らんけど。

 さて、あちらさんのありがたいお言葉も済んだみたいだし、そろそろ戦闘開始って感じかな?


「それじゃあ、早速!」


 そう言いながら、ダッシュで一番近くにいたマジシャンに飛びヒザをお見舞いする。

 そして着地と同時に、そのまた近くにいたナイトを足払いで転ばせ、倒れたところで顔面を踏み抜く。


「ほら、ジッとしてないで!」


 俺の勢いに飲まれて棒立ちになっていた奴に気合を入れてやろうと横っ面をひっぱたいてやるが……そのまま頭が飛んで行ってしまった。


「おお! ナイスキャッチ!! そんな君にはグーだ!!」


 飛んで行った頭をたまたまキャッチした奴がいたので、顔面にグーでいったったら、爆ぜた。


「……その両手の中にある頭を代わりに載せとくといいんじゃない?」


 なんてアドバイスをしてみたものの、既に黒い霧。


「さぁさぁ、もっともっとギュンギュンにギアを上げてこうぜ!!」


 身近にいた奴から手当たり次第にひたすら殴る! 蹴る!

 こうして、男のダンスにしばらく興じていたが、さすがにゴブリンも無限にいるわけがなく、気付けばジェネラルとキングのみ。

 そのことに向こうも気付いたようで、ジェネラルが覚悟を決めた顔で剣を構え、突撃してくる。

 俺の心臓を狙った剣の切っ先をかわして、その際ガラ空きとなったジェネラルの胴を拳でブチ抜く。


「……ゴ……ゴボァ」

「……なかなか気合のこもった、素晴らしい突撃だった」


 そう一声添えたところで、ジェネラルは黒い霧となって消えていった。


「……さて、そろそろキングの出番だぞ?」

「……ギャ」


 そんな短い返事とともに、椅子から立ち上がるキング。

 ……やっぱキングともなるとデケェな。

 ノーマルゴブリンだと、人間族の子供と似たような大きさだが、コイツはオーガ並みのサイズ感がある。

 まぁ、ジェネラルもまあまあデカかったけどさ。

 そして、豪華な杖から装飾のほとんどない武骨な剣に持ち替えるキング。


「へぇ……それがお前の本気モードの剣って感じかな?」

「……ギギャ」


 そういえば、ゴブリンキングと戦闘するのは初めてだった気がするな。

 ……それを飛び越えてヒーローと闘っちゃったからね!

 あのときよりも俺自身レベルアップしているはずだし、ヒーローより弱いだろうキングの攻撃が俺の魔纏を突破できるとも思えん。

 ゆえに、キングも格闘メインでいこう。


「ゴブリンキングよ……俺の物理戦闘力向上の糧となってくれ」

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