第581話 少し寂しく感じたのは本当のこと
部屋から出て、いつもの朝練コースへ向かう。
そして、ほぼ同時ぐらいのタイミングでファティマも来た。
「よう! 今日も元気に走っちゃう感じか!?」
「おはよう……そうね、日課だもの。それにしても、今日もまた機嫌がいいわね?」
「おう、そうなんだよ! いやぁ、昨日風呂から上がって、解散するときにセテルタが面白いことを言い出してな!!」
「面白いこと? それがエトアラさん関係の話だとするなら食傷気味なのだけれど……なぜなら、昨日もあれからエトアラさんがいろいろとセテルタのことを語ってきてね……パルフェナと私は、その話に相槌を打つだけでも一苦労だったわ」
「ほう! 俺としては、そっちの話もメチャクチャ興味深いところだ!!」
「……私は今さらながらに、もう少しゆっくりあの2人を結びつけるべきだったかと内心考えていたところよ」
走り出しながら、昨日の大浴場にて男女で別れたあとの話を始めた。
そんでもって、人の惚気話を聞くっていうのは、なかなかに根気を必要とすることかもしれないからね……
そういう俺も、エトアラ嬢とセテルタっていう姉弟的カップルの話じゃなきゃ、ウザく感じていたかもしれんし……
しかし、何事にも余裕たっぷりな、あのファティマさんがぼやくとは……
「……ふむ、ファティマさんといえど、計算ミスをすることもあるんだなぁ?」
「あら、私は計算ミスだらけよ?」
「……えっ!?」
そんな……常に一段高いところから周囲を見回しているように見える……あのファティマさんが!?
あ、いや「身長的に、一段ぐらいじゃ目線一緒じゃね?」とか、そういうツッコミはナシの方向で……ね?
「……アレス?」
「ひゃぃっ!? 私がそう思ったわけではありません! ただ、みんなに注意喚起しただけですからッ!!」
ほら! そうやって人の心が読めちゃうファティマさんが計算ミスとか、あり得ないでしょ!!
「みんなって……はぁ、まあいいわ……それで、全てを完璧に見通すことなどできないから、情報を集めたり必死に頭を使って考える……その際に計算ミスをすることなんてしょっちゅうよ」
「そ、そうか……」
といいつつファティマのことだから、辛口な自己採点をしているだけって気もするけどね。
俺がファティマの立場で自己採点をするなら、たぶんオールオッケーにするだろうなって思うし。
でもまあ、それだけ自分に厳しいファティマだからこそ、信頼感バツグンの実力者っていう雰囲気を放つようになっているんだろうなぁ。
「……最初の話と外れてきたわね……それで、セテルタはなんといっていたのかしら? まさか本当にエトアラさんの話をずっとしていたわけではないのでしょう?」
「おっ、そうだったな! それがな……」
そうして、夢の中で集まろうぜって企画をやってみた話をした。
「そう……また私たちに内緒で面白いことをしていたのね?」
「えっ? いや、そんなつもりじゃないんだ! あのときはもう風呂から上がって解散する直前で、なんとなくの流れでそういう話になったってだけなんだからさ!! タイミング的に誘えなかったのは仕方ないだろう!?」
「ふふっ……冗談よ」
「えぇ……ファティマさん、冗談キツイよ……」
「でも、少し寂しく感じたのは本当のことだもの……」
「そ、そうか……まあ、タイミングさえ合えば、そのときは忘れず誘うよ!」
「ええ、ありがとう」
そのときファティマが見せた笑顔に、ふと前世の妹が重なって見えた。
そういえば、ファティマにもお兄さんやお姉さんがいるって話だっけ……おそらく、それによってファティマに妹って感じがしたんだろうなぁ。
そして同時に、前世の妹に悲しい思いをさせて申し訳ない気持ちが湧いてきた……まあ、これはふとしたときに湧いてくる感情なので、今初めてってわけじゃないけど。
「……本当に冗談の気持ちのほうが強いから……そこまで深刻に受け止めなくていいわよ?」
「あ、いや……うん」
……おっと、ファティマを心配させちゃいかんね!
とりあえず、今回の企画について結果を述べておくとでもするかね?
「……それでな、実際に見た夢なんだけど……なんとなく誰かとワイワイしていたような気はするんだけど……それ以上のことはよく覚えてないって感じだったんだ……ロイターたちはどうだったかまだ聞いてないから分かんないけど」
「そう……それなら、完全に失敗というわけでもなさそうね? 初めてにしては、なかなかいい結果だったように思えるわ」
「お! ファティマもそう思うか!? いやぁ、あれが誰だったか分かんないけど、割といいセン行ってたような気もするんだよな!!」
「ふふっ、そうね」
「というわけだから! あとでみんなの結果を聞くのが楽しみって感じなんだ!!」
「そうねぇ……ロイター辺りなら、普通にあなたが夢に出てきたというかもしれないわね?」
「ああ、そういえばアイツ、割と頻繁に夢の中で俺と模擬戦をしてるっていってたもんな……あり得るかも……」
「………………それが女子たちのあいだで一番人気の組み合わせ……という話だものね」
「……ん? 何かいったか?」
「いいえ、なんでもないわ」
……俺は難聴系だ……うん、難聴系異世界転生者!
そういうわけだから、ファティマの呟きは聞こえなかった! そういうことにしておこう!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます