第582話 いきなり

「それじゃあ、またあとで」

「おう、またな!」


 約1時間のランニングを終えてファティマと別れ、自室に戻る。

 そしてまた、シャワーを浴びる。

 こうして再びサッパリしたところで、朝食をいただきに中央棟の食堂へ。

 ……中央棟ということは、そう、今日もどこぞの令嬢とご一緒って感じだ。

 まあね、勇気を出して誘ってくれたんだからさ、それに答えないのも悪いもんね。

 ま! 今日もしっかり魔力操作の素晴らしさを語って「私も、もっと魔力操作をやってみよう!」なんて思ってもらえたら嬉しいね。

 そんなことを思いつつ、待ち合わせ場所に到着。

 そんでもって、お相手の女子を待っていると……


「……おい、聞いたか?」

「聞いたって……何を?」


 俺の姿を見て、またヒソヒソ話を始めた男子たちがいる。


「ほら、あの魔力操作狂いのことだよ」

「う、う~ん……あの人のウワサっていっぱいあるからさ、どれのことか分かんないよ」

「ああ、それもそうか……」

「それで今度はあの人……何をやったの?」

「ああ、それがな……昨日の夕飯時にあの野郎、ロイターに『お前は世界一美しい』とかって、いきなり告白をブチかましてたんだとよ……」

「……は? えっ!? う、う~んと、それってどういうこと?」

「どういうことってお前……ホントは想像できてんだろ?」

「え、えぇ……ウソでしょ……いや、確かに仲いいなって思ってはいたけどさ……」

「まったく、あの野郎……ファティマ様っていう本物の美の極致が近くにいるっていうのに、何考えてんだよ……」

「う~ん……ファティマちゃんは、どっちかっていうとカワイイだと思うんだけどなぁ……」

「あぁ!? テメェ……ファティマ『様』だろ? そんで、気安くカワイイとかいってんじゃねぇ!!」

「えぇ……キレるポイントそこぉ!?」


 ああ、そういえば昨日、この世界がロイターに定めたであろうイケメン補正について語ったんだっけか……

 それにしても……相変わらずウワサってやつは、伝わっていく中で凄い変化を遂げるなぁって感じだよ。

 まあ、途中でいろいろ盛りたくなっちゃう奴とかもいるんだろうしなぁ……


「……あの、そのお話……もう少し詳しくお聞かせ願えませんでしょうか?」


 そこで、女子4人のグループがウワサ話に興じる男子たちに声をかけた。


「は? その話って……ファティマ様は世界一美しいって話か?」

「たぶん、違うんじゃないかなぁ……」

「ファティマとか、あんなチビ女のことなんかどうでもいいのよ! 私たちが求めているのはロイター様とアレス様の話!!」

「そうよ! アンタたち今『アレス様がロイター様に愛の告白をした』って話をしてたでしょ!? こっちは、その話をもっと詳しく聞かせろっていってんの!!」

「……モタモタしてると、千切るわよ?」


 ファティマを「チビ女」呼ばわりとか……正気か?

 まあ、ファティマのことだからその程度の言葉、全く意に介さないだろうけどね……

 それにしても、あのファティマ推しの男子……ワザとなのかしらんが、ちょいと察しが悪くないかね?


「あぁッ!? テメェら、今なんつった!? ファティマ様を貶しやがったら、許さねぇぞ! コラァ!!」

「僕としては、将来の約束的な契るのほうがいいなぁ……」

「どうでもいいことをゴチャゴチャと……いいから、早くロイター様たちの話をしなさいよ!!」

「そうよ! これだからトロい男はイヤなのよ!!」

「……みなさん、あまり声を荒げるのはやめておきましょう? 私たちはお話を聞く立場なのですから……ね?」

「仕方ないわね……」

「ま、まあ、アンタがそういうなら……」

「あなたも、気分を悪くさせてしまってごめんなさいね?」

「チッ……わーったよ」


 お、冷静な子がいたおかげで、丸く収まったってところかな?

 ただ、その女子たちの中で1人、目線の違う子がいた……


「……ふぅん? あなた、私と契りたいの? そうね……考えてあげなくもないわよ?」

「えッ!! ホントですか!? ぜひ!!」

「でも私、弱い男に興味ないの……分かる? だから、そうね……この模擬戦期間中に、強いところを見せてちょうだい」

「ハイ! 分かりました!! 見ていてください! これから僕、全身全霊でもって闘っていきますから!!」

「そう……楽しみにしてるわ」


 なんか、突如として新しいカップルが誕生しそうな勢いである。

 とはいえ、あの男子……約束どおり強いところを見せられるだろうか?

 正直、俺が今まで見てきた模擬戦の中で、あの男子らしき者が名勝負を繰り広げていたって記憶がないんだよな……

 ……いや、これをきっかけとして、あの男子は目覚めるのかもしれない。

 うむ……少しばかり注目しておくとするか。


「……俺が聞いた話は、こんぐらいだ! もういいだろ?」

「ええ、とっても貴重なお話を聞かせてくれて、ありがとうございます」

「やはり、ロイター様にはアレス様こそふさわしい……」

「そうよ! あの2人の組み合わせこそ至高なのよ!!」

「あら、そっちの話も終わったみたいね……それじゃあ模擬戦、頑張ってちょうだい」

「ハイ! 頑張ります!!」


 こうして話は一段落といったところか……


「お待たせして申し訳ありません、アレス様!」

「いや、俺も今来たところだ」


 まあ、俺がちょっとばかり早く到着していただけだからね。

 というわけで、待ち合わせしていた女子が来たので、食堂へ。

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