第583話 歯切れが悪いようだが……

「……なるほど、そうなんですね!」

「ああ、だから君にとっても損にはなるまい」

「はい、アレス様がそうおっしゃるなら、私も魔力操作の練習にもう少し力を入れてみようと思います!」

「そうか! その言葉を聞いて嬉しく思う!!」

「いえいえ、こちらこそ私のために貴重な時間を割いていただき、ありがたく思います!」

「……さて、話も一段落したところで、そろそろ運動場に移動するとしようか」

「はい、お名残り惜しいですが……」

「まあ、途中まで一緒に行こう……そして、魔力操作についてなど何か相談したいことがあったら、遠慮せずいつでも来るといい」

「ありがとうございます! ぜひそうさせていただきます!!」


 今日、朝食を共にした女子は、なかなか聞き上手といった感じだろうか。

 なんとなく、気持ちよくしゃべらせてもらったって印象だ。

 ……といいつつ、俺はいつも自分のターンが来たと思ったら、相手のことなどお構いなしでマシンガントークをしがちだけどね。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、運動場までの道のりを軽い雑談を交えながら移動した。

 そうして運動場に到着。


「着いたな……それじゃあ、素晴らしい魔力操作ライフを楽しんでくれ!」

「はい! そして『目指せ! 平静シリーズ!!』……ですね!?」

「そうだ! 普通の魔力操作で物足りなくなったら、いつでも来るといい! 待ってるぞ!!」

「はい! ……必ず!!」


 その「必ず!!」という言葉に、とても強い意思が宿っていたように思う。

 ふむ……そう遠くないうちに、この子に平静シリーズをプレゼントする日が来るかもしれないね……楽しみだよ。


「よし、あとは今日の模擬戦も頑張ってくれ!」

「はい! 頑張ります! そして私も、模擬戦でアレス様の雄姿を拝見すること、とても楽しみにしております!!」

「おう、それじゃあな!」

「はい! それでは、失礼致します!!」


 こうして、別れてそれぞれのクラスの集合場所へ向かった。

 そして、Aクラスの集合場所へ向かうと、ロイターたちが集まっていた。

 また、そこにはクラスの違うヴィーンたちやセテルタの取り巻きたちもいた。


「おはよう、皆の衆! そして集合時間まで少しあるとはいえ、この時間に集まっているのは珍しいな?」


 といいつつ、見当はついている。

 おそらく、夢の中で集まるって企画の結果を発表し合っていたのだろう。


「おお、アレスか……まあ、お前も見当がついていることだとは思うが、昨夜の夢の話をしていた」


 ……やっぱりねって感じ。

 とまあ、そんなわけで挨拶もそこそこに、それぞれの結果を聞く。


「俺は、夢を見たかハッキリと覚えてないんだよなぁ……まあ、もともとあんま夢を見る方じゃなかったけどな!」

「う~んと、僕はですね……誰かは分からないですけど、なんとなく何人か人影のようなものは見たような気がします」

「……私も似たようなものだった」

「フフッ……僕はその点! ちょっと凄いですよぉ! なんとぉ! 夢の中で剣を振っていたのですからねぇッ!!」

「ほう! それは凄いじゃないか! やったな!!」


 ハソッドの結果に、思わず感嘆の声を上げてしまった。


「……まあ、幸か不幸か、アレスさんは夢に出て来ませんでしたけどねぇ」

「オイ、ハソッド! 『幸か不幸か』ってどういうことだよ!?」


 そのやりとりに、周囲は苦笑いを浮かべる。


 そして、トーリグはちょっと残念だったね。

 また、ソイルとヴィーンも惜しいところまではいってたんじゃないかって感じだ。


「……あれ? でも、ハソッド……お前、誰と剣を振ってたんだ? それはつまり、模擬戦をしてたってことだろ?」

「そ、それは……あ、あははぁ……実は……独りでしたぁッ!!」


 それを聞いて、一瞬「ダメじゃん!」って思いかけてしまった……


「まあまあ、覚えていなかっただけで、実はこの中の誰かと対戦していたのかもしれないでしょ?」


 そこで、セテルタのフォローが入った。


「確かになぁ、セテルタのいうとおりかもしれん……それで、セテルタはどうだったんだ?」

「僕? うん……僕はね……その……ね……」

「……? セテルタよ、歯切れが悪いようだが……どうしたんだ?」

「いや、その……あはは……みんなゴメン! 僕は夢の中でエト姉とお茶してましたァァァァッ!!」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁッ!?」


 思わず、ズッコケた……


「あの、大変申し上げにくいのですが……我々も、セテルタ様と同様に……」

「はぁッ!? お前らもだとォ!?」


 どうやら、セテルタの取り巻きたちも、エトアラ嬢の取り巻きたちとお茶をしていたらしい……なんてこったい。


「……それで、アレスさんはどうだったんですか? ちなみに僕は、ヴィーンさんやソイルさんと同じように、誰かいたなぁってぐらいでした」


 セテルタをフォローするつもりか、ここでサンズが自分の結果を発表しつつ、俺に話を振ってきた。


「うん? 俺か? そうだな、誰かは分からんが……模擬戦らしきことはしていたっぽい」

「おおっ、さすがアレスさん! いい感じだったみたいですね!!」

「まあなぁ……ただ、そこまでハッキリとした夢じゃなかったから、その辺は微妙だった」

「でも、そこまでいけば、あと一歩といったところでしょうね」

「うむ、そうかもしれんな……それであとはロイターだな、どうだった?」

「ああ、私か……皆の結果を聞いたあとだと、少し気恥ずかしくなってくるのだが……」

「ん? 夢を見れなかったのか? トーリグも似たようなもんだったみたいだし、そんな気にすることもないだろ?」

「そうだぜ、ロイターさん! なんも恥ずかしくねぇよ!!」

「……いや、そうではないんだ……私はな……明瞭な夢を見たのだ」

「おぉっ! そいつはスゲェ!! そんで? そんで!?」

「う、うむ……それでな……私は、夢の中で……アレス、お前と模擬戦をしていた……」

「アッ! エッ!? そ、そうなの……?」

「ああ……ひたすら剣術を主体とした模擬戦を続けていた……おそらく、昨日の風呂場での話が夢に影響したのだろうな……」

「ふ、ふぅん……そんな感じ……だったんだね……」

「……ハァ……だから気恥ずかしくなるといったのだ」


 ……ですよね。

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