第481話 真剣に聞いてますよっていう態度

 朝練を終え、自室に戻ってきた。

 この際、平静シリーズ効果もしくはファティマ効果により、女子たちから声をかけられることなく済んだ。

 そんなことを思いつつ、シャワーを浴びてポーションを飲む。

 そうして一息ついたところで朝食へ向かう。

 今のところまだ、お誘い攻勢が本格化していないこともあってか、今回も男子寮の食堂を利用できた。

 そして周囲の声に耳を傾けてみると……


「今日からまた、本格的に授業が始まるね」

「前期は比較的座学が多かったが、後期からは実技の時間も増えていくみたいだからな、気を引き締めて行かねばならんだろう」

「俺としちゃあ、じっと座ってセンコーのクソつまんねぇ話を聞くよか、実技のほうがずっとマシだぜ!」

「まあ、ぶっちゃけ教え方の下手な先生の話を聞くより、自分で本を読んで勉強したほうが早かったりするからねぇ……」


 ……そのような会話の聞こえたほうに視線を向けてみたが、特に知らん奴らだった。

 もし奴らが俺と同じクラスで、とっても素晴らしいエリナ先生の授業を貶しているのだったらガツンといっとくところだった……フン、命拾いしたな!

 といっておきながら、俺も前世の頃は先生の合う合わないとかはそれなりにあったからね、あまり人のことはいえないかもしれない。

 そう考えると、この世界で俺のクラスの担任がエリナ先生で運がよかったといえるだろう……たとえそれが破滅の未来を予定された悪役への転生だとしてもね。

 ま、そう思えるのも、この世界が原作ゲームの強制力とでもいうべき理不尽かつ不可解な現象が今のところ特に見当たらないからっていうのもあるかな。

 いや、まだ原作ゲームのシナリオを内容的にも時間的にも全て消化していないから、これからどうなるかは分からんけどね。

 ……てなことをつらつらと考えつつ、朝食の時間は過ぎていった。

 そして教室に移動中のこと……女子からお声がかかった。

 というわけで今日も、お昼は女子とご一緒することになりましたとさ。

 まったく……こういう状況、前世で来いよなぁ! そしたらヒャッホーだったのにさぁ!!

 まあ、前世だとさ、原作アレス君のもともと持ってた高スペックな肉体や地位がないから、まったくもってお呼びじゃなかっただろうけどね……

 やべぇ、自分でいってて切なくなってきた……

 なんて沈んだ気持ちは、授業でエリナ先生の顔を一目見ただけで一瞬で回復できたけどね!

 さすがエリナ先生、ありがとうございます!!

 そうして幸せな授業が終わったところで、中央棟の食堂へ移動。

 その途中で約束していた女子と一緒になり、食堂の席に着く。

 さて……昨日教えてもらったヴィーン式女子との会話術を実践するとしましょうかね。

 さあ、俺の無口力……とくと味わうがいい!

 とはいえ、話をちゃんと聞いてないと思われるのも人としてよくないだろう。

 であるならば、相手のほうをちゃんと向いて、真剣に聞いてますよっていう態度を作っておくか。


「……」

「あの……アレス様?」

「……?」

「えっと……そんなに見つめられると、照れちゃいます」

「……!!」


 おい! 話が違うぞ、ヴィーン!?

 というかこの子、自意識過剰じゃね?

 俺……無口なだけじゃなくて、無表情なんだよ!?

 ええい、ヴィーン式はやめだ! 今の俺には使いこなすことができん!!

 かくなる上は……!!


「……今の状況で、君はよどみなく魔力操作をできたかな?」

「えっ……?」

「我々は魔法を扱うとき、どんな状況でも心を乱すわけにはいかない……そうでなければ魔力操作が上手くいかず、いつもより余計に魔力が必要になったり、イメージより威力が弱まったり……最悪発動しないことだって考えられる」

「えっと……えっ?」


 相手の女子が「急に何いってんの?」って困惑顔を浮かべ始めた。

 よし、ここだ! 一気に畳みかけるぞ!!

 そうして、小一時間ほど魔力操作について語って聞かせた。


「……まあ、俺も今回は少々不意打ちみたいなことをしてしまったと認めるところだ。そして、こんなふうに偉そうなことをいっておきながら、俺だってまだまだ平常心が足りず、簡単に心を乱してしまう……だが、だからこそ! 常日頃から魔力操作の練習をしておかなければならないといえるのだ!!」

「……はい……そのとおりなのでしょう」

「おおっ、分かってくれるか!」

「……はい……なんとか」

「よかった……俺の言葉が届いたのだな……」

「……はい……魔力操作は大事……胸の奥に刻み込まれました」

「ならばよし!!」


 若干、返事のリズムが一定に感じなくもないが……きっと脳内が情報の洪水状態になっていて、今は必死に整理しているところなのだろう。


「フッ、魔力操作の奥深さはまだまだこんなものではないし、俺も学んでいる途中だ……そんな俺でよければいつでも相談に乗るつもりだからな、気軽に声をかけてくれ!」

「……はい……ありがとうございます」

「うむ、それでは君の魔力操作ライフがよきものとならんことを願って……ではな!!」


 そうして、俺は今日も軽やかにその場をあとにするのだった。

 でもさ、俺の話が朝食の場で聞いた「センコーのクソつまんねぇ話」よりマシだったらいいんだけど……どうだろうね。

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