第503話 だいぶ昔に通り過ぎてしまったよ

 エトアラ嬢を慕う令嬢との朝食を終え、授業へ向かうところ。

 今日の授業は実技で、剣術等の武術訓練のため、運動場へ移動となる。

 まあ、来月には武闘大会なんかも控えているからね、それに向けて鍛錬を積んどけっていう意味でもあるのだと思う。

 ちなみに、この武術訓練の授業内容としては半分自習みたいなものである。

 というのが、先生が指導してくれるのは王国式剣術で、希望者はその指導を受け、既に特別な流派の教えを受けているとかいう場合は、その流派の練習時間に当てることができるためである。

 もちろん別な流派を習っている場合でも、この王国で主流となる剣術への対策に、あえて授業で王国式剣術の指導を受ける者もいる。

 さらにいえば、自分が習っている流派の技を秘匿するためっていう奴なんかもいるだろうね。

 そんなふうに、様々な理由によって王国式剣術の指導を受ける奴と自主練習をする奴に別れる。

 そこで俺はというと、別にレミリネ流を秘匿するつもりなどはないのだけど、王国式剣術の指導を受けることにした。

 まあ、既にソエラルタウトの実家で兄上や護衛をしてくれたお姉さんたちに教えてもらったりはしているんだけどね。

 ……でもさ、せっかくエリナ先生が教えてくれるんだから、指導を受けなきゃもったいないでしょ!?

 それに、そもそもとして個人的に自主練習はほとんど毎日してるんだしさ。

 ……ああ、エリナ先生って元宮廷魔法士、それもエースと呼ばれていただけあって魔法が凄いってイメージが先行しがちだけど、物理戦闘も超一流なんだ。

 フッ……やっぱね、原作ゲームにおいても1周目で仲間にできないのは伊達じゃないのさ! 強過ぎるからね!!

 とはいえ、エリナ先生を仲間にできても一切レベル上げをさせないで、ほかのキャラをひたすらレベル上げしまくれば、さすがにそのうちステータスの能力値が逆転することもあるだろうと思う。

 いや、俺はそんな愚かなことをするわけないが、ほかのプレイヤーは普通に自分の好みのヒロインを育てるものだし、そういうことも予想される。

 そんなわけで、エリナ先生のありがたいご指導を真面目に、そして心を尽くして受けるのであった。


「それじゃあ、今日の授業はここまでとします。王国式剣術の指導を受けた生徒は、教えたことが身に付くようしっかりと反復練習しておくように、そして個人練習をしていた生徒も、さらに実力を伸ばせるよう練習に励んでちょうだい。では解散」


 ふぅ……今日のエリナ先生もステキだったなぁ。

 エリナ先生の指導だと、こうスッとね、集中状態に入れるんだよ。

 ……まあ、もしかしたら俺自身、朝練のときにファティマがいっていたことや、朝食のときにエトアラ嬢を慕う女子にいわれたことを一時棚上げしてたっていうのもあるかもしれないけどね。

 なんてことを考えつつ少しばかりぼーっとしていたら、セテルタが話しかけてきた。


「やあ、アレス、お疲れさん」

「おう、セテルタもお疲れ」

「昨日のことだけど、僕のせいでいろいろと周りから余計なことをいわれるようになってしまって、済まなかったね」

「いやいや、別にセテルタが気にする必要なんかないさ。それにこの学園の理想としては、自分自身の意思で友や愛すべき者を選べってことだったろう?」

「うん……理想はそうみたいだね」

「なら問題ないさ、俺はセテルタを友と呼ぶことに躊躇するつもりもないし」

「ありがとう、改めてそんなふうにいわれるとちょっと照れてしまうけど、嬉しいよ。そして僕もアレスを友と呼ぶことにためらいはないつもりさ」


 うん、なんか分かんないけど、セテルタって爽やかな感じがするんだよなぁ……エトアラ嬢に対してだけはコワいけど。

 あ、そうだ、ちょうどいい、このタイミングで……


「そんでさ……」

「うん? なんだい……?」

「セテルタ、魔力操作は好きかい?」

「……急にキリっとした表情で何を言い出すかと思えば、フフッ……そうやってアレスは魔力操作をみんなに勧め回っているみたいだね?」

「もちろん! こんなにやればやるほど見返りの大きいものってなかなかないと思っているからな」

「そこまで莫大な保有魔力量というある種の才能に恵まれて、さらに努力しようっていう姿勢には頭が下がる思いだよ。ああ、それで『魔力操作は好きか?』という問いに対する僕の答えは、そうだなぁ……たぶん、君が期待するようなレベルで好きとはいえないかもしれないね……でも、それなりに練習を積んできたという自負はあるかな? まあ、どちらかというと両親や家庭教師に強制的にやらされていただけともいえるけどね、アハハ」


 まあ、最低限の魔力操作能力があれば、あとは魔力のゴリ押しでオッケーというのが割と多くの貴族たちの見解みたいだからね。

 それにしても、セテルタはなかなか正直な男だねぇ。

 しかしながら「頭が下がる思い」とはね……


「いやぁ、俺としても好きでやっているだけだから、そんなふうに褒められると少し恥ずかしいね。でも、そっか……嫌いじゃないんだな?」

「うん、嫌いとかそういう段階は、だいぶ昔に通り過ぎてしまったよ」

「そっかそっか……なら、そんなセテルタにプレゼントがある!」


 これはセテルタに平静シリーズをプレゼントすることに決めた瞬間だった。

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