第356話 ファッションリーダー

 夕食時、今日の道路工事の話題を義母上が振ってきてくれた。


「今日は大活躍だったみたいね?」

「いやぁ~それほどでもありませんよ、地属性の魔法をチョチョイとやっただけなのですから」

「ふふっ、そのチョチョイとやれる人がどれだけいるかってところね」

「そうですね、きっとエリナ先生なら余裕でしょうし……宮廷魔法士団三番隊隊長のドミストラ隊長や……あとは王国騎士団九番隊隊長のミオンさんとかもやれちゃう気がしますし……」

「あはは、アレスの判断基準は元宮廷魔法士団のエースに、魔法士団や騎士団の隊長なんだもんなぁ、恐れ入るとしかいいようがないよ」

「それにセス……今挙がった隊長の方々も、同じ隊長の中でも実力者といわれている方たちよね?」

「うん、マイネのいうとおりだね……ただ、ミオン隊長のほうは『若干性格に難アリ』って先輩たちにいわれてたけど……」


 ……まあ、ミオンさんはちょっと性格的に軽そうに見えてしまうからなぁ。

 とはいえ、俺のようにお姉さんセンサーを持たぬ不心得者には、その芯の部分のよさには気付けないのだろう……残念なことだ。


「そうだったんだ、私たち女子のあいだでは学生時代に憧れてマネをする子までいたっていうのに……」


 ……それって、いわゆる「ミオラー」ってやつかな?

 もしかしたら、その当時の女子生徒はガングロで、ルーズソックスとかも穿いていたのかもしれないね。

 といいつつ、俺も前世のテレビで「あの頃の流行特集」みたいな企画を見た記憶があるってぐらいなんだけどね。


「ああ……今思い返してみれば、妙にミオン隊長に似た格好の子がいたっけ……僕たち男子のあいだであれはイマイチ理解できなかったんだよなぁ……それに、マイネもそういう格好をしていなかったでしょ?」

「そうね、私の場合は『レディとはかくあるべし!』って感じで、ばあやが服装にうるさかったもの……」

「えぇっ!! それじゃあ、うるさくいわれてなかったら、マイネもミオン隊長みたいになってたっていうの!?」

「ふふっ、それはどうかしらね?」

「あ、あぁ……よかった、マイネがミオン隊長みたいにならなくて……ありがとう、ばあやさん……」


 ふむ、兄上は清楚系が好みと見た!

 まあ、義姉上からは大和撫子感も漂っているしさ、そういうところからも好みが見えてくるってもんだよね。

 俺としては、ミオンさんみたいな感じも悪くないって思うんだけどなぁ。

 もちろん、ミオンさんが美人で、あの格好も似合ってるからっていうのが前提ではあるんだけどね。

 とはいえ最終的な俺の好みとしては、やっぱりエリナ先生みたいなキリッとした感じが一番なんだけどさ。


「ふふふ、いつの時代の女子も、心に憧れの女性がいるものよね……」

「はい、お義母様のおっしゃるとおりです」


 義姉上が誰を思い浮かべているのかは分かんないけど、義母上が思い浮かべているのは確実に母上なんだろうなぁ……

 そういえば、メメカは義姉上に憧れているって話だったっけ。

 昨日今日と接してみて、どことなく雰囲気が似てるような気もしたけど、あれはメメカが義姉上を手本にしているからなんだろうな。

 ということは来年や再来年、ファティマやパルフェナのマネをする女子なんかも出てくるかもしれん。

 いや、俺が気付いていなかっただけで、同学年に既にいるかもしれない。

 あ、そういえば王女殿下もいたんだった……まずはそっちからかな?


「ソレスにはナイショだけど、この小物とかはリリアン様が贔屓にしていた職人の作品なのよねぇ」

「とても気品溢れる素晴らしい出来ですね」

「ふふっ、このよさが分かるなんて、マイネちゃんもなかなかセンスがいいわね」

「私など、まだまだです」

「あらあら、謙遜しなくてもいいのに」


 気付けば義母上と義姉上がファッショントークで盛り上がり始めている。

 そんな2人に、兄上は優しげな微笑みを向けている……ような気がしたが、あの顔は安堵の色合いのほうが強いかもしれん。


「そういえばデザインの話で思い出したけど、アレスは今日スノーボードを街で買ったんだって?」

「どんなデザインのものを選んだのかしら?」

「私もアレス君が選んだものに興味があるわ」


 兄上ありがとう、その話題を待ってました!

 というわけで、どんな板を買ったかって話をノリノリでしたった!

 そしてもちろん、実物も見せてあげた。

 どうだい、派手だろう?


「なかなかカッコいいねぇ……もしかしたらそのうち『アレスモデル』としてソエラルタウト領で流行るかもしれないよ?」

「そうね、まずはアレス専属の子たちがマネをする気がするわ」

「あり得ますね、そしてゆくゆくは王国全土にまで……なんてこともあるかもしれません」

「フッフッフッ、僕の弟は凄いからね、その可能性はじゅうぶんあるだろう! そして、アレスに憧れてソエラルタウト領のスキー場に客が殺到するというわけさ、やったね!!」

「そうねぇ、そのためにはあの土地をしっかりと整備しないといけないわね」

「セス、頑張りましょうね」

「ああ、もちろんだよ」


 ふむ、俺がファッションリーダーというわけか……

 なるほど、なるほど……

 それも悪くないかもしれん……フフフ。

 とまあ、こんな感じで盛り上がった夕食だった。

 そして、夕食が終われば訓練の時間だ。

 今日も使用人たちと魔纏を中心に取り組む。

 それから魔力交流の時間では、またひと組いい雰囲気の男女ができあがっていた。

 ほうほう、いいねぇ、青春だねぇ。

 こうして今日という日が過ぎていく。

 そして明日は雪山の整備、それが終われば……フフ、楽しみだなぁ!

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