第355話 俺が選んだ

「なにぶんソエラルタウト領は積雪量の少ない土地ですので……種類が限られることをご容赦ください」

「いや、これだけあればじゅうぶんだ」


 ソエラルタウト領は経済力のある領地であることから、スポーツ用品店に限らず、それなりに大きい店舗がそろっている。

 そこで、領都で一番大きいスポーツ用品店にやってきた。

 というか、ここぐらいでしかまともに取り扱っていないらしい。

 だが、文化力があんまりないソエラルタウト領で在庫があっただけマシともいえるかもしれないね。

 そして、店員があらかじめ断ってきたとおり、これでもかってぐらいズラーッとした品揃えではない……が、どれがいいか悩む程度には種類がある。

 だが、そもそも初心者の俺にはその違いがよく分からん。

 店員の説明によって、大まかに5種類ぐらいに分類できることは理解したが、それでも「へぇ……」って感想を絞り出すのがやっとだ。

 ただ、一応ウィンドボードの経験はあるので、ボードに乗ること自体には応用が利きそうな気はしている。

 とはいえ、あっちは魔力で操作しているだけみたいなところがあるしな……

 なんてことを内心で思いつつ、店員にいろいろ教えてもらいながらスノーボードの板を選択した。

 というわけで、俺が最終的に選んだのは……超無難な万能型だ!!

 板の種類それぞれに向き不向きがあるらしいのだが、単純に「スノーボードをやってみたい!」ってだけの動機の俺には「とりあえずなんでもできる」っていうタイプのほうが安心だったからね。

 そうした判断の下、特化した性能のないぶん、全体的に平均した性能を持つボード……まさに万能型となったわけだ。

 それから、デザインのほうはあえて無地を選び、カラーリングをオレンジ色にした。

 フフッ、無地というシンプルさが、色の派手さを際立たせてくれるのさっ!

 こうしてとても満足いく買い物をさせてくれた店に、冒険者アレスからとっておきの情報をプレゼントしようじゃないか。


「それから俺の情報網によるとな……これからのソエラルタウト領はウィンタースポーツがアツいぞ」

「……!! それは……もしや昨日一部地域で季節外れの大雪が降ったというウワサと関係がおありですか?」

「ああ、もちろん大ありだ。あれはソエラルタウト家によるビッグプロジェクトの始まりだからな」

「なんと! なるほど……いつになく領兵の方々が忙しなく動き回っていたのはそういうことだったのですね」

「ああ、近々道路工事も完成するだろうし、ウィンタースポーツの施設も営業を開始するだろう……その機を見逃さないためにも、ウィンタースポーツ用品の拡充を急ぐべきだろうな……なんだったら、現地で店舗を新設することを視野に入れてもいいかもしれん」

「ほほう、それはそれは」


 店員の頭の中では、ソロバンが物凄い勢いで弾かれているのかもしれない。

 表情こそ柔和だが、そういう熱気のような雰囲気が漏れ出ている。


「俺の話をどう受け取るかはそちらに任せるが、最高の選択をしてくれることを願っているよ」

「とても興味深いお話をしていただき、感謝いたします」

「いやいや、とても気持ちのいい買い物をさせてもらった礼とでも思ってくれ」

「お褒めに預かり、光栄にございます」

「それじゃあな」

「今後とも、当店をご愛顧賜りますようお願い申し上げます」


 こうして、あのスノーボードをゲットしたのだった!!

 そんなウッキウキ気分で屋敷へ戻ることに。

 そしてマジックバッグがあるので特に必要もなかったが、なんとなくケースも同時購入したので、今はそれに入れてスノーボードを持ち歩いている。

 フフッ、これからのソエラルタウト領では、こういうスタイルが若者を中心に「イケてる」となっていくことだろう。


「お気に入りの一品が見つかったようで、喜ばしい限りです」

「ああ、これはいいものだ、そういう感じがする」

「……なるほど」


 あ、今「どこにでも売っている普通のスノーボードだろ」って思ったな?

 ふふん、「俺が選んだ」そのことが特別といえることなのだよ。


「フッ、この鮮やかなオレンジ色が、きっと雪山の視線を独り占めしてくれることだろう」

「……既に屋敷内で多くの視線を集めていると思いますけどね」

「ん~いや、そういうのじゃないんだよなぁ~なんていうかこう、見知らぬ奴から『アイツ、やるな!』って感じが欲しいのよ」

「……そう、ですか」

「まあ、このレベルの感覚はなぁ、ギドにはまだ早いかな?」

「……そうなのですか」

「おっと、そうだった、この子にもさっそく名前を付けてやらんとな!」

「……好きですねぇ」

「まあな! それはさておき、やはり色が一番のアピールポイントであるからして……う~む、オレンジ色……よし、決めた! 君は今日から『ダイダイ君』だ!!」

「……そのまんまですねぇ」


 ギドのこの「軽くあきれてますよ」というポーズが、実にいい。

 そうこうしているうちに、屋敷に到着した。

 まずはシャワーを浴びて、それから楽しい夕食だ。

 腹内アレス君もいい感じでスタンバってるからね。

 よっしゃ、「聞いてください義母上、今日の私はなかなか頑張ったんですよ~」って感じでいこうかな!

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