第354話 一歩近づけた

「よし、これで道路工事において俺が担当する作業は終わりかな?」

「はい、大変お見事な地属性魔法でした」

「そうか、専門家にそういってもらえると嬉しいものだ」


 というわけで、地属性魔法で工事をしながら開発地まで辿り着くことができた。


「も、もう路床工事が終わったっていうのか……」

「それに石材もそろってやがらぁな」

「予定工期を見てある程度は想像していたが……それでもやはり信じられん」

「だが、路床や石材も俺たちの要求水準を余裕で越えているんだ、なんの文句も付けようがない」

「それにしたって、いくらなんでも早すぎんだろ……」


 これだよこれ! 異世界転生者の規格外な魔法に驚嘆するっていう展開!!

 ここに来るまで、それぞれの地点で準備をしながら待っていた工兵たちにも同じように驚かれたが、やはりこういうのは何度あってもいい。

 驚愕の声を浴びるたび、俺も異世界転生の先輩諸兄に一歩近づけたのだなという気がしてくるからね。

 そして俺の到着を聞いたメメカも、書類を挟んだクリップボード片手に挨拶しにやって来た。


「さすがアレス様です。予定工期を短めに設定していましたが、これならさらに前倒しで計画を進められそうです」

「ほう、それはよかった」


 なんていいながら、挨拶を交わす。

 そして、ここまでガイドしてくれた工兵とは、ここでお別れとなる。


「アレス様、自分の案内もここまでとなりますが、今日は素晴らしい魔法の数々に感服しました」

「いやいや、お前の事前説明が的確で分かりやすかったからこそ、俺も気持ちよく地属性魔法を扱えたのだ。それに、作業中に何度かくれた助言も実によかった」

「もったいないお言葉です」

「一流の工兵であるお前に偉そうにいうのもなんだが、次からの工程でも活躍してくれることを期待している」

「いえ、自分もアレス様に多くのことを学ばせていただきました。それから、今日一日アレス様とご一緒できたことを仲間に自慢したいと思います! それでは、お名残り惜しいですが……これにて失礼します」

「おう、今日は世話になった、またな!」


 こうして、ここまで一緒だった工兵と別れの挨拶を済ませた。

 引き続き頑張ってくれよな!

 ちなみに、雪や氷が解けるのを遅らせるために昨日ここに展開した防壁魔法は、兄上からメメカを紹介されたときに解除してある。

 現地調査をしておきたかったらしいからね。

 それにしても、思い出すなぁ……最初はシンプルにし過ぎて解除できない障壁魔法の中に閉じ込められたもんなぁ……

 でも、今は自分と魔力的なつながりを残すことを忘れないようにしているから、いつでも解除可能さ!

 こうやって、自分の意志で解除できるところが魔力の壁の便利なところっていえそうだね。

 そんなことを思いながら、周囲に目を向けてみると工兵に限らず多くの人員が忙しく動き回っている。

 その忙しさは、責任者であるメメカに次々と部下が報告にやってくる点からも窺い知ることができるというものだ。

 みんな、将来的な街の姿を思い描きながら、開発事業に従事しているのだろうね。

 それを思うと、なんだか夢があっていいなぁって感じがするよ。

 そんな気分に浸っていると、ギドから声をかけられた。


「アレス様、今日のところはそろそろ領都に戻ったほうがよろしいかと」

「おっと、もうそんな時間か、今日はスノーボードを買いに行かねばならんしな!」

「はい、おっしゃるとおりにございます」

「メメカ、俺はこれから領都に戻ろうと思うが、ほかに今日頼みたい作業はあったか?」

「いえ、ございません、お心遣いありがとうございます」

「うむ、それなら気兼ねなく帰れそうだな」

「それから、明日はスキー場開発のため雪山の整備に着手しますので、ご助力賜れますと幸いです」

「ほう、雪山! それはぜひとも参加せねばならんな!!」


 これからスノーボードを買いに行くわけだし、雪山の整備も終われば……

 フフッ、ようやくだ……ようやく念願のスノーボードを始められるッ!

 陽キャのスポーツとして前世では憧れつつも眺めるだけだった、あのスノーボードをだッ!!

 よーしアレス君、明日は頑張っちゃうぞォ!


「……アレス様、気持ちの昂りを抑えきれないことは承知しておりますが、せっかくの雪が解けてしまいますよ?」

「おっと、それはいかん」


 興奮の熱気が周囲に伝わっていたようで、ギドにたしなめられてしまった。

 とはいえ、「解けたらまた雪を生成してやらぁ!」っていうだけの話なんだけどね。


「それじゃあ、今日のところは帰る、また明日な!」

「はい、また明日お会いできることを楽しみにしております」


 こうしてメメカと挨拶を交わし、領都へ戻る。

 てなわけでフウジュ君、今日もよろしく!

 そんな感じで領都へ到着し、ギドの案内でスポーツ用品店に向かう。

 カッチョいいスノーボードを買っちゃうんだぁ~楽しみだなぁ~


「いらっしゃいませ、何かお探……」

「スノーボードを買いにきたッ!」

「は、はいっ! それでは、ご案内いたします」


 店員のセリフが途中だったが、割り込んだった!

 せっかちさんですまんね。

 それはともかく、君はどんなスノーボードを俺に見せてくれるのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る