第17話 断じて許し難い

「先週話した通り、今日の放課後から個別面談を行うわ。指定した時間に私の研究室に来てちょうだい。一応、余裕をもって面談時間を設定しているから大丈夫だと思うけれど、扉に『面談中』という表示があったら、前の生徒の面談が長引いているので、用意してある椅子に座って待っていてくれると助かるわ。では、今日の授業はここまで。今日面談がある生徒は準備をよろしくね、では解散」


 俺も今日面談です。

 遂にエリナ先生と2人っきりの時間を過ごす日がやって来ました、これって実質デートと考えて良いんじゃない? ああ、ワクワクが止まらない!

 ……駄目だ駄目だ、クールに行こうぜアレスボーイ、そんなんじゃエリナ先生にキモイって思われちまうぞ。

 紳士的に、スマートにキメなければならない、そこを間違えちゃいけない、忘れんなよ。

 ……ふむ、面談時間まで4時間ほどあるな。

 とりあえず、腹内アレス君が待ってるからお昼を食べよう。

 そして、素振り等の基礎鍛錬をして1時間前になったらシャワーを浴びて身嗜みを整えるというタイムスケジュールで行こうかな。


 よし、シャワーも浴びたし、制服も今日初めて袖を通す新品だ。

 そして姿見を丹念に見て変なところがないかしっかり確認。

 ふふふ、この姿を見てもはやデブと言う奴はおるまい。

 ちょっとふっくらしてるかなってぐらいにまで減量に成功した。

 これぐらいだと逆に包容力がありそうとか、おおらかで優しそうっていう感じの良いイメージを相手に与えられるんじゃないかと思う。

 だがまぁ、俺としてはもう一息、前世の男性アイドルみたいな細マッチョを目指したいし、この調子で行けばそれも可能であろう、楽しみだね。

 そんな感じで準備万端整いました。

 さぁ、エリナ先生のもとへ。


 ふむ、前の生徒の面談は既に終わっているようだ。

 深呼吸をひとつして、ノック。


「どうぞ」

「失礼します」

「そこの椅子に座ってちょうだい」


 お辞儀をして、着席。

 よし、ここまでは良い感じだ、冷静に、クールに行こう。


「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

「気付かれていましたか、お恥ずかしい」

「面談に来た生徒はみんなそうだから気にしないで。それで、この学園に入学してから3週間が経過したけれど、もう慣れたかしら?」

「はい、最高の環境で学ぶことが多くあり、とても充実した日々を過ごせています」

「そう、それは良かったわ」

「そして特に、エリナ先生の指導のおかげで魔力操作が随分上達出来たと自負しております」

「ええ、確かに魔力測定のときから考えると、途轍もない進歩ね。この3週間のアレス君の努力が実って私も凄く嬉しいわ」

「ありがとうございます」

「そして、魔法以外の成績についてだけど、学科については科目ごとにいくらか優劣はあるけれど、すべて合格ラインを突破しているから、このまま頑張ってくれれば良いわ。それから運動能力については、2週目あたりから徐々に向上してきているのが見て取れるわね。このまま努力を継続すれば年内にでも……いえ、上手くいけば前期中に上位に入れる可能性もあるからしっかりね」

「本当ですか、それは励みになります」

「それから、学期ごとにクラス替えがあることは知っていると思うけれど、この調子で行けば3年間Aクラスを維持するのも問題なく出来ると思うわ。だからこそ、くれぐれも慢心することのないようにね」

「はい、もちろんです。卒業までの3年間、Aクラスでエリナ先生の指導を受け続けられるよう、研鑽を積んでまいります」

「そうね、私もアレス君の努力に応えられるように頑張らなきゃね。……あと、アレス君は卒業後の進路は今のところどのように考えているのかしら?」

「そうですね、今のところ冒険者活動をメインに考えています」

「冒険者、ね。理由を聞いても?」

「はい、大きく分けて3点あります。私は侯爵家の次男であり、実家の方針としては兄上が家督を継ぐ方向で進んでおりますので、そこに波風を立てたくないのがまず1点目。次に、魔法士団や騎士団への入団も選択肢としてはあるかと思いますが、どうにも私は集団行動が苦手でして、おそらく合わないのではないかと思うのが2点目。最後に、冒険者という自由な立場で世界の広さを見てみたいというのが3点目。これらが理由となります」

「なるほど、家督の問題は私が口を挟める内容ではないとして……魔法士団等だと確かに規律が求められて窮屈に感じるというのはあるかもしれないわね。そして世界の広さを知るのもとても重要なことだと思うわ。……アレス君の考えはよくわかったわ。ただ、卒業までまだ時間はあるから、今の考えだけが絶対だと思わないで、いろいろな可能性をじっくり考えるのよ」

「はい、今はまだ視野も狭いと思いますし、学園生活を過ごすうちにいろいろな選択肢も見つかると思いますので、これからじっくり考えて行きたいと思います」

「ふふっ、そうね……私と一緒に学園の教師になるっていう選択肢もあるわね」

「!!」


 し、信じられん……それってゲームのエリナ先生エンドじゃないか。

 無事魔王討伐に成功し、その後は学園の教師となって魔法を極めようとエリナ先生と切磋琢磨する日々って感じのエンディング。

 他のヒロインなら最後キスシーンとか抱き合うシーンのCGで終わりが多いんだけど、エリナ先生の場合、ただ並んで歩いてるだけのCGというゲームプレイ時は正直物足りない終わり方だった。

 なんか、単なる同僚で恋愛関係じゃなさそうって感じにも見える終わり方だった。

 実際、エリナ先生推しの同志たちで意見が真っ二つに割れていた。

 ……あの夜を徹した熱い議論も懐かしいものだな。

 まぁ、俺の場合はゲームの主人公に自分の本名を入力する系男子だったからさ、主人公=自分っていう感情移入バリバリでエリナ先生と付き合ってる派だった。

 だが、今は違う、断じて違う!

 主人公とエリナ先生は単なる同僚です、そこに恋愛感情はありません。

 あんなクソガキにエリナ先生が惚れるはずがない、ないったらない!!

 ……あ、やっぱあのクソガキ討つしかないかな。

 クソガキとエリナ先生が結ばれるなど、断じて許し難い。


「……急に軽はずみなことを言って、ごめんなさい。今のは忘れて」

「あ、いえ! こちらこそすいません。今まで考えたこともなかったことなので、その選択肢があったかと驚いていたのです」

「そう? とても硬い表情をしていたから気分を害してしまったかと心配したわ」

「そんなこと、決して、決してありません。とても魅力的な選択肢を示していただき、凄く嬉しいです。そのため、進路の候補のひとつとしてこれから大事に検討していきます」

「そうしてくれると嬉しいわ」

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