第18話 魔力探知
「今回の面談で話したいことはこれぐらいね。アレス君からは何かある? 学園生活での事に限らず、話したいことがあれば何でも良いわよ」
「そうですね……」
話したいことか……あ、そうだ、モンスターを討伐する際に、探すのに時間がかかって効率が悪いことを相談してみようかな。
自分でいろいろ試してみようかとも思っていたけれど、せっかくのエリナ先生との会話の機会だ、少しでも長くお話ししたいもんね。
「最近私は冒険者ギルドに加入しまして、学園都市付近の森でモンスターの討伐を行っています。そこで、実際の戦闘時間はさほど長くはないのですが、モンスターを探すのに時間がかかり過ぎてしまい、思ったより討伐が進まないのです。そのため、モンスターを探すのに良い方法がありましたら、お教え願いたいのですが」
「あら、もう冒険者ギルドで活動しているのね、感心感心。だけど、安全にはしっかりと気を付けること、絶対に無理をしてはいけないわよ」
「はい、肝に銘じておきます」
「よろしい。それで、モンスターを効率よく探す方法だったわね。そうねぇ……魔力探知なんかどうかしら?」
「魔力探知、と言いますと……」
「今日の面談はアレス君が最後だし、魔力探知のやり方を今から教えても良いけれど、アレス君はこの後何か用事があるかしら?」
ま、まさか……それって、秘密の個人指導ってやつじゃありませんか。
はぁ~なんて甘美な響きだろうか。
相談してみて大正解だった。
もちろん俺の回答は決まっている。
「全くもって何もありません。ですが、エリナ先生の貴重なお時間を使わせてしまうことになりませんか?」
「ふふっ、そんなこと気にしなくて大丈夫よ。これも私の仕事のうち。それに何より、私自身魔法の指導はとても楽しいことだからね、何の苦もないわ」
「それを聞いて安心しました。では、是非ご教授ください」
「ええ、もちろん。じゃあ早速始めましょう。まず、魔力探知と言っても、実際は魔力操作の応用だから、特別難しいことをするわけじゃないわ。やることは調べたい方向に魔力を薄く広く伸ばすだけ。授業でも少し触れたと思うけれど、あらゆる生命体には魔臓があって魔力を持っているから、伸ばした魔力でそれを感じ取るといった感じね」
「なるほど、伸ばした魔力に他者の魔力が触れれば、そこにモンスターがいると判断できるわけですね」
「そうなるわね。もちろん、触れる魔力には植物や小動物、それから人間のものもあると思うわ。だから、それらの違いを上手く認識して自分の求める魔力の種類を見つけることが魔力探知の技術と言えるわね。これは何度も試してみて少しずつ感覚を養っていくと良いわ。とはいえ、モンスターの魔力は攻撃的というか私たち人間と相容れない感じがあるから、魔力の擬態に優れた特別なモンスターでない限り、そこまで難しいことではないわ」
「ということは、モンスターを探すという目的だけなら、そこまで苦労しなくて済みそうなので安心ですね。ただ、魔力の擬態に優れたモンスターなんてものがいるとは……」
「そう、これがなかなかに厄介な存在なのよね。それに、人間にもいるわよ、暗殺者とかね……彼等のような存在を認識するのは非常に困難だから、魔力探知の技術もしっかりと磨いておくことをお勧めするわ」
「……魔力探知ひとつとってもかなり奥が深いものなんですね」
「ええ、全くよ。それに魔族やエルフ族みたいな先天的に魔法に長けた種族が本気で魔力を隠した場合なんかは見つけるのがほぼ不可能に近いから大変なのよね……」
そういや、ヒロインその2の魔族少女やアレスの取り巻きに紛れ込んでた魔族とかもいたよな。
きっとあいつらは魔法に長けた魔族の中でも、魔力の擬態に特化した連中だったんだろうね。
だからこの学園に入り込んでても気付かれなかったのだろう。
あ、違う、ゲームの設定的に全ての魔族が人間と敵対しているわけじゃなかった。
人間社会で平和に暮らしている魔族も普通にいるはずだし、魔王復活を企んでいるのは一部のクソバカだけだったな。
そう考えれば、仮にこの学園の職員が気付いたとしても「お、こいつ魔族やんけ、殺したろ」とはならないよな。
「ごめんなさい、少し脱線したわね。説明はこれぐらいにしておいて、一度私が魔力を伸ばしてみるからどんな感じか受けてみて。実戦だとこっちの存在に気付かれないように極々薄くするのだけれど、今回は他者の魔力に触れるとはどういう感覚か掴みやすいように敢えてわかりやすく伸ばしてみるわ」
「はい」
「では行くわね」
「……感じます。柔らかな優しい魔力が触れているのがわかります、これが他者の魔力に触れるという感覚なんですね」
「いいわ、それだけ感じられれば完璧ね。次はアレス君に魔力を伸ばしてもらうのだけれど、自分で思うよりかなり薄くするのをイメージしてみてちょうだい」
「わかりました……これぐらいでどうでしょう?」
「まだ強いわね。もっと薄く……もう少しだけ…………そう、それぐらい。今の感じを忘れないようにもう一度最初からやってみましょう」
それからしばらく練習を続けた。
徐々に丁度良い魔力の厚さがわかってきた。
こんなに!? ってぐらい薄くしないと駄目みたいだね。
「だいたい良い感じね。アレス君の魔力は一般の魔法士と比べても、かなり密度が濃くて圧力が強いから、だいぶ抑えないとならないと思うわ。そうしなければ、アレス君の魔力に気付いたモンスターが恐れをなして続々と逃げ出してしまうと思うの。もちろん、気性の荒いモンスターや強いモンスターなら挑発されたと思って逆に襲い掛かってくるでしょうけれど」
「そういうことであれば、そのときの狙い次第で伸ばす魔力の強さを調節すれば良いということですね」
「そうね、弱いモンスターの相手をする手間を省く場合は強めでも良いかもしれないわね」
よっしゃ、これでモンスター討伐の効率が上がるだろう。
ありがとう、エリナ先生。
「今日のところはこれぐらいかしらね。あとは実地で経験を積みながらその都度、技術の向上を目指しましょう」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、今日の面談はここまでとして、これからも話したいことがあれば、いつでも来てちょうだい。別にたいした用がなくても、ちょっとした雑談でも大歓迎よ」
「では遠慮なく来させていただきますね、そのときはよろしくお願いします」
「ええ、いつでもいらっしゃい」
こうして本日の個別面談が終了した。
いやぁ、最高の時間だったね。
やっぱエリナ先生だよ。
ゲームで憧れていたエリナ先生とこんなにも長い時間を一緒に過ごすことが出来た、これだけでこの世界に転生して良かったなってマジで思う。
しかもいつでも来て良いだなんて……そんなこと言われたら毎日行きたくなっちゃうよぉ。
……だが節度ってものがあるからね、その辺はしっかりと見極めてキモくないようにしなきゃ。
それにさ、ゲームプレイ時は好感度上げや、単純に気に入ってたからっていうのもあって、行動選択時は頻繁にエリナ先生のところに行っていたけど、あれを現実にやったらさすがにウザがられると思うんだよね。
やっぱ、素敵メンズならね、相手の都合っていうのにも無神経でいちゃいけないと思うんだ。
……よし、エリナ先生に会いに行くもっともらしい理由を常日頃から考えながら行動しよう。
そうすればさ、取るに足らないと思っていた日常の些細な風景にも何かしらのヒントを見つけられるかもしれない、そんな風に思うよね。
そんなことを考えながらルンルン気分で自室へと戻っていった。
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