第108話 好きなように行動しているだけ

 自室に戻り、ささっとシャワーを浴び終え、食堂へ。

 学生たちのヤベェ奴を見るような視線を受けながら、人の少ない席へ行く。

 とはいえ、そういう視線を送ってくる奴のほとんどは1年坊主である。

 2・3年の先輩たちの場合は無関心か苦笑気味の視線が比較的多い。

 ……苦笑気味の視線を送ってくる先輩はおそらく、回復魔法の習得に苦労された方たちなのだろうと察せられるね。

 そこへやってくるロイターとサンズ。

 なんとなく、夕食は共にするって感じになってきてるね。


「回復魔法の練習に励んでいるようだな? しかもファティマさんに手伝ってもらえるだなんてまったく、この果報者め」

「……ああ、まぁ、そうだな」

「それで、習得は出来そうですか?」

「そうだな……なんとか回復の感覚は掴めたから、最低限は出来るようになった。だが、練度としてはまだまだ低くて時間がかかるからな……実戦で使うのはまだ無理そうだ」

「え!? もうそこまで行ったんですか!? さすがアレスさんだ……」

「まぁ、お前たちに教わった通り、俺も中級ポーションを使い切るまで骨をポキポキやったからな……」

「ああ、骨折りまでやったのなら感覚を掴むのは早かっただろうな……」

「そうですね、普通ならもっと浅い傷をつけてから回復の繰り返しで少しずつ感覚を掴んで行くものらしいですからね……それか酷い場合だと自分を傷つけず、他人の傷口にひたすら魔力を送りこんでたまたま成功するのを待つなんて方法もあるみたいですし……」

「他人の? そんなんで出来るようになるのか?」

「……まぁ、一部の天才だけでしょうね。それか人体の構造を知り尽くした人とかでしょうか……」

「そうか……あと俺の場合、ファティマさんの指導もかなり効果的だった」

「ほう、どんな指導をされたのだ?」

「興味深いですね」

「……ナイフで手のひらをブスリと貫通させて、その傷口に回復魔法をゆっくりとかけて行く方法だ。じわじわと修復されて行くから感覚が掴みやすかったな……そのぶん痛かったが……」

「なるほどな……」

「さ、さすがファティマさんですね……あとアレスさん、無意識にファティマ『さん』と呼んでしまっていますね……ロイター様も同じだったので、なんとなく懐かしく感じてしまいますよ」

「サンズ……余計なことは言わなくていい……」

「あっと、これは失礼しました」


 ファティマの奴、なかなか躊躇がないからな……おそらく似たようなエピソードの積み重ねを経て、いつのまにかファティマ「さん」になってたんだろうなぁ……

 そういえば、この2人はいつもどこでメシを食ってるのか聞いてみようかと思ってたんだった、今聞いてみるか。


「話変わるが、ここ数日の夕食以外で2人をこの食堂で見た記憶がないのだが、いつもどうしているのだ?」

「ああ、今まで3食とも中央棟だ、令嬢たちに誘われるのでな。それでここ数日の夕食はお前とパーティーを組むからその親交を深めるためだと言って断っている」

「なるほど、女性からのお誘いに男は特別な理由なく断ることが出来ないって言うあれか……ん? そういえば、春季交流夜会のときはどうしていたのだ? 食事に誘われるぐらいならエスコートも頼まれただろう?」

「もちろん、断ったぞ?」

「は!? そんなん無理だろ、最低限交際相手でもいないと信用が失墜するんじゃなかったか?」

「いつの話をしているんだ……それは数年前から徐々に緩和されてきただろ……」

「え? でも令嬢たちとメシは食ってるんだろ?」

「まぁ、今でもこのマナーを重視しているお偉方がいるからな……食事ぐらいは応じることにしている」


 えぇ……マジかよ……アレス君にマナー教育を施した奴どうなってんだよ! 情報古いってよ!!


「でも、メシに応じてもらった令嬢は期待しちゃうんじゃないのか?」

「……まぁ、なくはないだろうが……あわよくばぐらいの感覚だろうな。それよりも公爵家の子息と食事を共にしたという箔付けの意味合いの方が強い気がするな」

「……なんだろう、それはそれでちょっと切ないな」

「そうか? 公爵家ともなるとそんなものだぞ? というか、本来ならお前も似たような扱いを受けるはずだっただろうに……そういう意味ではお前は上手くやったと言えるかもしれんな?」

「確かに、アレスさんは侯爵家の子息ですし、さらに言えば母君は公爵家の方でしたから……条件はロイター様と近いものがありますね」


 そうなの?

 実母が公爵家出身という設定は知らんかった……特に調べていなかったというのもあるけど。

 まぁ、実母関係のアレス君の記憶にはロックがかかってるから猶更ね……

 そしてこの「お前の演技を俺は見抜いているぞ」みたいな勘違い……ファティマもちょいちょいしてくるけど、出来ればやめてくれんかな?


「……上手くやったもなにも、俺は好きなように行動しているだけだが?」

「フッ、そういうことにしておいてやる」

「アレスさん、大丈夫です。僕らはわかっていますから」


 絶対わかってない……君らの知ってる過去のアレス君は俺じゃないから。

 それともアレス君、君は本当にワルぶっていただけなのかい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る