第174話 俺の心が行きたがってる

『マダマダダナ、モットツヨクナレ』

『ギッギィッ!』


 あれは、ゲンと……たぶん、ダンジョンで俺と男のハグを交わしたゴブリン……長いからゴブリンハグにしよう……の2人だな。

 そしてなんか、ゲンがゴブリンハグに稽古をつけてやっているって感じだな。


『……ギィ』

『……』


 それでこっちは……ゴブリンエンペラーがゴキゲンで武骨な剣を磨いていて、その姿を隣でゴブリンジェネラルが微笑ましそうに眺めているといったところか。

 やっぱゴブリンエンペラー、あの武骨な剣がお気に入りだったんだな……

 それをわざとではないにしても、破壊してしまったのは悪いことをした。

 とはいえ、こうして復活しているみたいだから、セーフかな……セーフであってくれ!

 それと、あのゴブリンジェネラル……なんというかゴブリンエンペラーのじいやって感じがしてくるね……なんか眼差しが優しいもん。

 おそらく、ゴブリンエンペラーが幼少の頃から守役を務めていたのではないか、そんな気がするよ。

………………

…………

……


「……夢か……そしておはよう、キズナ君……なんかよくわかんないけど、今日は穏やかで幸せな夢を見たよ……キズナ君は夢を見るのかな?」


 なんて、メルヘンな気分に浸りながら今日という一日が始まる。

 さて、まずは朝練からだな。

 俺はまだまだ物理戦闘能力が低いからな、日々の積み重ねで少しずつ強くなっていかねば!

 そのためにも、体力向上は必須!!

 というわけで、今日も朝のお散歩を楽しまれていたファティマさんに軽く挨拶をして、約1時間の朝練に取り組んだ。

 そして自室に戻り、恒例のシャワータイム。

 か~ら~の~ポーションを美味しくいただき、朝食へ向かう。

 ふっ、坊主ども……休みは今日まで、明日からまた学園の授業が始まるからな、しっかり今日という日を満喫するんだぞ!

 そんなことを心の中で思っていたところ……


「俺、昨日見たんだ……」

「へ? 見たって何を?」

「学園都市近くにゴブリンダンジョンがあるだろ?」

「うん、あるね」


 ほう、俺以外にも昨日、あのダンジョンに挑戦した奴がいたんだな。


「それで、あの魔力操作狂いがな……ギルドの出張所で、大量にゴブリンの腰布を納入してたんだ! 大量にだぞ、大量!!」

「ちょっと! 興奮し過ぎだって、もっと落ち着いて」

「……ああ、スマン……でもな、マジで大量の腰布だったんだ……確かアイツ、平民冒険者の間で『ゴブリン狩り』とか呼ばれてるみたいだけど、『ゴブリンの腰布狩り』に改名したほうがいいと思うんだ」


 なんというか……前世の床屋さんで読んだヤンキー漫画にあった「ボンタン狩り」みたいだね。

 しかしながら、たまたまゴブリンの腰布がたくさんドロップしただけで、別にそれ狙いでダンジョン探索をしていたわけじゃないんだけどな……


「まったく……バカなこと言ってないで、さっさとご飯食べるよ?」

「ちぇっ……いい二つ名だと思うんだけどなぁ」


 ありがとう、バッサリいってくれて……定着したら地味にツライものがあったからね。

 そして、ほかのテーブルでもダンジョントークをしているグループがあった。

 どうやら学園の生徒にとって、野営研修が一つの区切り、みたいなところがあるようだ。


「これから挑戦するダンジョンですがね、南西の方角に位置する、スケルトンダンジョンなんてのはどうでしょう?」

「ふむ、スケルトンダンジョンか……悪くないな」

「えぇ~スケルトンなんてヤダよ、キモチわりぃ」

「まあまあ、まずは聞こうや……で? なんでスケルトンダンジョンがいいと思ったん?」

「実はですね……スケルトンという種族は、古代国家に仕えていた、いにしえの兵士や騎士たちの記憶や経験がもととなっているという説がありましてね」

「それなら我も聞いたことがある……奴らの使う剣術が現存する古流剣術と酷似していることから、その源流だった可能性がある……という話だったか」

「え? スケルトンって、適当に棒や剣を振り回しているだけじゃないん?」

「もちろん、なかにはそういう個体もいるようですがね……それなりの術理に則しているようですよ、特にナイトクラスからはね……」

「へぇ……知らんかったなぁ」

「まぁな、これは剣術に興味のある者しか知らんことだろうよ……気になるなら図書館で調べてみるか……シュウの奴にでも聞いてみたらよかろう」

「いやぁ……そこまではええわ、めんどくさい」

「それでですね、そんな騎士の先輩たちの胸を借りるつもりで、スケルトンとの戦闘経験を積むのはどうかと思いまして……それに、骨だけになってしまったせいか、生前の強さまでは発揮できないそうですからね、無理さえしなければ私たちにもじゅうぶん手に負える相手といえるでしょう」

「なるほど、奴らの技術を実戦から盗むというわけだな……面白い」

「えぇ~面白くねぇよぉ、しかも胸ったって、骨しかねぇしよ……やっぱ同じ借りるなら……」

「おっと、それ以上はいけませんね」

「然り、その発言……決して令嬢たちの前ではせぬことだ」

「せやね、ワイらまで同じ目で見られたらかなわん」


 ほほう、スケルトンの古流剣術か……着眼点としてはなかなかいいセンいってる気がする。

 それにしても、武術オタクのメガネ、マジ武術オタクだな……ナチュラルに武術に関することは奴に聞けみたいな感じになってんじゃん。

 まぁ、それはともかくとして、俺もスケルトンに剣術を教えてもらおうかな?

 実際アリだと思うんだよね。

 昨日はゴブリンエンペラーから闘魂を学んだし、きっとスケルトンからも学ぶことはあるだろう。

 それに、「古流」ってところがどうにも中二心をくすぐられてしまう。

 まぁ、今日は学園も休みだし……こりゃ行くしかないな。

 それに何より、俺の心が行きたがってる。

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