第320話 人によって認識に幅がある
「へぇ、これがウワサの防壁魔法か……」
「……こんなの破れるのか?」
「いや、アレス様はそれをお望みなんだろ? なら、やるしかだろ!」
「アレス様に認められるためには……そうだな、よし!」
「アンタたちも覚悟が決まったみたいね!」
「じゃあ、そろそろ始めよっか!」
「うっしゃあ!」
「狙うはあの一点……感覚を研ぎ澄ませるべき」
「いきますわよ!」
こうして、使用人たちの障壁魔法突破チャレンジから水の日が始まる。
ちなみに、今日から男子諸君も参加のようだ。
なかなかに熾烈な序列争いになってきたねぇ。
そんな感じでしばらく彼らの挑戦に耳を傾けながら、寝たフリを継続。
そしてある程度のところで起きたフリをするのだが……この茶番的演技はいつまで続けるべきだろうか……?
「おはようございます、アレス様!」
「ああ、おはよう……ふむ、昨日よりいくらか進歩があったようだ……この調子で頑張るといい」
「お褒めに預かり、光栄にございます!!」
あと、障壁魔法の強度なのだが、ソエラルタウトの屋敷にいるあいだは変えないことにした。
なぜなら、強度が上がったせいで自分たちの進歩を実感できなければ、使用人たちのモチベーションが下がってしまうかもしれないからね。
とはいえ、防御を蔑ろにするわけにもいかないので、内側にもう一つ強度を高めた障壁魔法を展開しておいた。
おそらく、今回の滞在で使用人たちが外側の障壁魔法を突破することはないと思う。
だが、もし仮にできたとき、その内側にもう1枚あった……ってなったらビックリするんじゃないかな?
そういうエンターテインメントさも忘れるわけにはいかないよね。
それから、使用人たちの挑戦と挨拶が済むのを後ろで待っていたと思われるルネさんからも、朝の挨拶を受ける。
「おはよう、アレス様。今日は私が非番だったから、来てみたわぁ」
「おはようございます、ルネさん。会いに来てくれて嬉しいです!」
「ふふっ、それはよかったわぁ……それで、なかなか面白そうなことを始めたってリィコから聞いたわよぉ?」
そういいながら、展開したままだった障壁魔法に触れるルネさん。
「なるほどねぇ、これは凄い……アレス様、私にも挑戦させてもらえないかしらぁ?」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとう、それじゃあ早速……」
そしてルネさんは目をつぶり、精神を集中させているらしいことが周囲の魔力の流れから感じられる。
そうして集中力もじゅうぶん高まったのだろう、障壁魔法に触れた手からルネさんの魔力が侵入してくる。
どうやら、ルネさんは魔力の干渉によって障壁魔法の攻略を試みているようだ。
俺の障壁魔法にジワジワ、ジワジワとルネさんの魔力が入ってくる。
そんな静かな陣取り合戦がしばし繰り広げられた。
「ふぅ……これだけの障壁魔法だと、さすがに大変ねぇ」
「いえ、魔力の侵入をかなり受けていたので、あのままもうしばらくしていれば、障壁魔法の支配権も奪われていたことでしょう」
「そうかもしれないけど、ちょっと時間がかかり過ぎになっちゃうわねぇ……それに、私の場合は魔力交流によって事前にアレス様の魔力を多少なりとも理解していたからっていうのもあるでしょうし」
「そうですね、それはあるかもしれません……とはいえ、私なりにある程度自信のあった障壁魔法が、もう少しのところで支配権を奪われるところまでいったのですから、改めてルネさんの魔法士としての実力の高さを実感しました」
「ふふっ、ありがとう……でも、アレス様にもっと驚いてもらえるように、私もまだまだ実力を磨かなくちゃならないわねぇ」
「お互いに、精進あるのみですね!」
「ふふっ、そうねぇ」
とまあ、そんな朝の挨拶を済ませてルネさんや使用人たちは寝室から出ていく。
「あれって防壁魔法だと思ってたけど、アレス様やあの人たちの認識では障壁魔法だったんだ……」
「まあ、その辺のところって人によって認識に幅があるからねぇ……」
「どっちでもいいけど……たとえ時間がかかったとしても、あの壁を1人でどうにかできそうっていうのはヤバいわよね……」
「確かに……」
なんて使用人たちの会話も、出ていくときに聞こえてきた。
そういえば、いつのまにか障壁魔法って呼ぶようになってたな……まあ、俺の場合は村とか街単位で覆うやつを防壁魔法と呼ぶことにすればいっか!
そんなことを思いつつ着替えを終わらせ、朝練のために訓練場に向かう。
そして、ひとたびアレス君に割り当てられた部屋を出れば、クソ親父派の使用人チェックにスイッチが入る。
しかし、どうやってマヌケ族と人間族を判別したもんかな……?
ひとりひとり「お前は魔族か?」って聞いて回るわけにもいかんしな……
そんなことを思案しつつ、約1時間の早朝ランニングにルネさんや使用人たちと取り組んだ。
その後はいつもの流れで自室に戻ってシャワーを浴びてから、朝食をいただきに食堂へ向かう。
そうした食事中のこと、義母上から声をかけられる。
「アレス、今日の午後から何か予定はある?」
「いえ、特にありませんが、どうかしましたか?」
「今日ね、うちでお茶会を予定しているの、それにアレスも参加してみない?」
「私がですか?」
「そんなに大それたものじゃなくて、こぢんまりとしたものだから、そんなに身構える必要もないわよ?」
まあ、義母上からのお誘いなのだ、断ることもあるまい。
「分かりました、参加させていただきます」
「そう、よかった」
義母上の笑顔、いただきました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます