第321話 大儀であった

 朝を終えて、午前中は訓練場で時間の空いているアレス付きの使用人たちとともに、鍛錬に励むことにした。

 その際、訓練中の騎士や魔法士、それから一般兵なんかの様子もチェックしてみる。

 彼らが俺に向けてくる感情の方向性として、全体の6割程度はそれなりに好意的である。

 ただし、その半分ぐらいは困惑交じりって感じでだ。

 まあね、学園に入学前のワガママ放題で傲慢な次男坊という印象の強い人ほどその傾向はあるだろうし、「本当にコイツは性格が丸くなったのか?」とか「これも悪だくみの前フリなんじゃないか?」みたいな心配もあるだろうから、その辺は別に構わない。

 問題は俺に悪感情を向けてくる4割のほうで、コイツらはクソ親父派なんだろうなって気がする。

 そして、もしかしたらその中にマヌケ族がいるのかもしれない。

 とはいえ、今はまだ様子見の段階だ。

 とりあえず、見た目と魔力の感じを認識するにとどめておこう。


「な~んか、アイツら……ウチらに舐めた視線を送ってきてね?」

「あ~そうかも、ちょいイラつくわ」

「もしかして、『今さら訓練を始めても遅い』って私たちのことをバカにしてるのかな?」

「なんだと? それは許せんな!」

「武の道に目覚めるのが成人後だっていいじゃないか!」

「そうだ、そうだぁ!」


 確かに、「コイツら、何してんだ?」っていう視線もないわけではないが、基本的には俺に対するマイナスな感情だと思うんだけどね……

 でも、アレス付きの使用人たちはそんなふうに感じ取ったというわけか。

 まあ、ここでつまらんケンカになっても面白くないからな、使用人たちに一声かけておくか。


「お前たち……今はまだ彼らのほうが強いかもしれないが、これからの努力次第でいくらでも逆転は可能だ。そのことをしっかりと意識して鍛錬に励め、いいな?」

「はい!!」


 うん、アレス付きの使用人たちが聞き分けのいい子たちでよかった。

 それに、あの程度の奴らなら、追い抜かすこともできると信じている、だから頑張ってくれよな!

 とまあ、そんな感じで午前中の鍛錬時間が過ぎていった。

 そのあとは、自室に戻ってお風呂タイム。

 今日はお茶会ということで、ご夫人たちも当然いらっしゃるだろうからね……念入りに男を磨いておこうじゃないか。

 そうして、風呂から上がったあとはお昼ご飯。

 お茶会自体は午後2時から開始で、一応食べるものなんかも出す予定ではあるらしいけど、俺……というか腹内アレス君がそんな程度じゃ納得しないからね、今のうちにしっかり食べておくのさ!

 そんなこんなで昼食も済ませ、あとはお茶会が始まるまで自室にて待機だ。

 そして、ここで俺にやるべきことが特にあるわけでもない……しいていえば、お茶会用にゴージャスな服に着替えることぐらいかな?

 とはいえ、ギドが初日に出してきたようなギンギラギンなのはノーサンキューだ、というわけで……


「ギドよ……分かっているな?」

「お任せください、アレス様」

「頼んだぞ」


 この数日でギドも俺の趣味を理解してくれたはずだ、きっとシックかつエレガントな衣装を用意してくれることだろう。

 ……ここでギドが、どぎつい服を持って来るっていうボケをかましてきたらどうしよう。

 思わず喜びながら、ツッコミを入れてしまうかもしれん……

 やべぇ、変な意味でドキドキしてきたぞ。

 そして少し待ったところで、服を持ってきたであろうギドが声をかけてくる。


「お待たせいたしました」


 その方向を向くと……


「……!!」


 金ピカに光り輝いてやがる! コイツ、やりやがった!! なんて思いつつ、あまりのまぶしさに瞬きをしたところで……ギドの持っていた服が黒を基調とした落ち着いたデザインのものになっていた……


「え……あれ?」

「アレス様……お気に召しませんでしたでしょうか?」

「い、いや、問題ない……むしろ、最高のチョイスだったと思う……」

「それはようございました」


 う~ん、見間違いか?

 ま、まあ……俺が求めていたクールで大人な雰囲気漂う服だったのでヨシとしておくが……でも、確かに金ピカだったよな?

 そうして、ギドから渡された服を魔力探知まで使って確認したが、おかしな点は何もなかったので、そのまま着ることにした。

 そして、そんなやや不審そうな俺の態度に、ギドはにこやかな微笑みを向けてきている。

 あっ! ひょっとすると……俺がボケて欲しそうな顔をしていたから、それに応えただけって可能性もありそうだな。

 なんたってギドは、アレス付きの使用人筆頭なのだ……それぐらいのことは読めてもおかしくあるまい。

 なるほどね、なかなか面白れぇ奴じゃないか……


「ギドよ、大儀であった……この調子で励めよ!」

「ははっ! 仰せのままに」

「うむ」


 とまあ、こんな感じでちょっとした主従のお遊び(?)をして、お茶会開始までの時間を過ごす。

 そしてもうすぐ午後2時、ここからが本番だ……

 なんて物々しい言い方をしたけど、義母上から「そんなに身構える必要もないわよ?」っていわれてたんだった。

 よし、気楽にいこう!

 お姉さんたちとおしゃべりを楽しむ、そのことだけを考えていればいいんだ!!


「よし、会場へ向かうぞ」

「かしこまりました……ご武運を!」


 あ、やっぱコイツ……さっきのもボケだったんだな。

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