第319話 調査活動に取り掛かろう

 模擬戦をひととおり終え、大浴場で軽く汗を流しているところだ。

 ここで今回の模擬戦を軽く振り返ってみるが、みんな職種として使用人を選んでいるだけあって、思いっきりガチの戦闘者というのは少ない。

 そういうこともあって、今の俺の剣術レベルでも魔法なしで勝つことができた。

 それも全員ではないが、相手は魔法ありで。

 また、俺が今まで模擬戦をしてきた相手が実力者ばかりだったこともあって、よくて引き分けって状況が続いていた。

 そう考えると、剣術だけで勝利を飾ったのは今日が初めてかもしれない。

 いやまあね、いくらか実力の劣る相手から勝利を得たぐらいで威張るなって思われるかもしれない。

 しかしながら、もともと魔法以外はクソザコ扱いされていた俺が、剣だけで他者から一本を取れるようになったというのは、とても大きな進歩といえるのではないだろうか。

 というわけで、この経験から慢心に向かうのではなく、これからの弾みとしたい。

 そうだ……俺は少しずつでも強くなっているのだ! そういう達成感を次への意欲とするのだ!!

 あと、話変わってマヌケ族問題のことだが、昼間の様子も踏まえてどうやら俺の周りには潜んでいなさそう。

 よって、次に怪しそうなクソ親父派の連中を探ってみようかなって考えている。

 そこで、このあと早速、隠形の魔法で姿を隠しながらクソ親父派の様子を探りに行こうと思う。

 といいつつ、正式に誰がクソ親父派かっていうのを知っているわけではない。

 だが、原作アレス君の記憶や、俺がソエラルタウト家に到着してから今までで、屋敷の一部の人間から向けられた敵対的な意識や魔力の波長みたいなものである程度の判断は付けられるだろうし、それで大きく間違うこともないと思う。

 とまあ、こんなことをアレコレ考えながら風呂に浸かっていたわけだが、そろそろ上がるとしよう。

 そして、調査活動に取り掛かろう。

 その前に、アイスミルクコーヒーだったね……大丈夫、忘れてないよ腹内アレス君!

 そうして風呂から上がり、服を着たところで使用人の用意してくれたアイスミルクコーヒーをいただく。


「うむ、実に美味だ」

「お褒めいただき、光栄にございますっ!」


 あ、ちょっと嬉しそう。

 前世のテレビかなんかで、我こそは処世術の達人なりって顔をしたオッサンが「人は褒められたほうが伸びる! だから、どんな小さなことでも、それを当たり前とせず、言葉にして褒めるべき!!」っていってた気がするからね、ちょいとマネをしてみた。

 もちろん、ホントに美味しかったからウソでもないし。

 なんて思いつつ自室に戻る。

 そして、使用人たちが外したところで、寝室のベッドに認識阻害の魔法をかけ、その外側を障壁魔法で囲む。

 よし、これで偽装は完了と考えていいだろう。

 あとは隠形の魔法で姿を隠したところで、部屋の窓から外へダイブ。

 ちなみに、ここは3階……俺は魔法で空中移動ができるからいいんだけど、魔力操作の練度不足でそれができない人はマネしちゃ駄目だよ! これ、アレス君との約束!!

 とかなんとかいっているうちに、クソ親父派らしき使用人たちを発見!

 さて、君らは何を語ってくれるのか……


「あの愚かなご子息には困ったものだ」

「はい、まったくです!」

「話によると、今日も今日とて貴族にあるまじき振る舞いだったと聞きましたな……」

「然り! 侯爵家の子息ともあろう方が、平民の振りをするどころか……その平民に対して敬語で話すとは、何を考えておられるのか!!」

「使用人に対する敬語だけでも、どうかというところ……平民ですからね!」

「そして、そういった振る舞いを好意的に受け止める者が現れ始めているのも問題ですな……」

「左様! これにより、己の分際を弁えぬ愚か者も増えてくるだろう……実に嘆かわしいことだ!!」

「これでは侯爵家の品位が保てなくなってしまいますね!」

「何故リューネ様やセス様たちは、あの方にあそこまで甘い顔をなされるのか不思議でなりませんな……」

「まっこと、そのとおり! せっかくソレス様が甘やかさぬよう厳しくされているというのに……あれでは、ソレス様の努力が無駄になってしまう!!」

「このままでは、あの方のやりたい放題になってしまいますね!」

「嗚呼……おいたわしやソレス様……」


 おいおい……コイツら何をいってるんだ?

 あのクソ親父が努力だと?

 そんなもん、アレスという存在を心底嫌い抜いてるから、放置しているだけだろうに……

 ああ、いや……義母上や兄上が原作アレス君に愛情を注がないように努力したという捉え方はできるか……

 というか、クソ親父が原作アレス君に愛情を注がず孤独にしたから、原作ゲームのような人間性に育っていったんじゃないか!

 そして、やらかしたときも一切庇わず、一瞬の迷いもせずに追放処分で切り捨てたんだろうがよ!!

 ………………ふぅ、こりゃいかん……熱くなるところだった……落ち着いて、冷静に。

 だが、こんなふうにちょびっと観察しただけで、これだけ陰口を叩かれているってことは……やはり、クソ親父派の中にマヌケ族がいる可能性が高いな。

 とりあえず、この3人に限らず、これから時間を見つけてクソ親父派を探っていくとしよう。

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