第873話 強烈でありながら、鮮やかな音色

「……ケインさんが凄い祭りとかって言ってますけど……アレスさん、それは本当ですか? ケインさんって、まあまあ適当なことを言って僕のことをからかうものですから……微妙に信用ならないんですよね……」


 ケインの奴……リアクションが面白いからって、ときどき冗談を言って遊んでやがったな……

 まったく、けしからん奴め。


「そうか、ケインは適当なことを言ってタム君のことをからかっていたのか……それは、ワルだねぇ……でもまあ、今回の話は出任せではなく、男たちのあいだで確かに祭りが催されているよ」

「えぇっ……本当なんだ……」


 実際にモミジ祭りが催されているわけだからね、ウソは言っていない。

 まあ、その立ち上げメンバーの1人がここにいるわけだが……


「なっ、俺の言ったとおりだろ? タムは疑り深いなぁ~?」

「むぅ~っ……」

「まあ、タムの訝しむ気持ちも分からなくはないが……ひとまず風呂を入る準備を整え、話はそれからとしよう」

「はぁ~い」

「モミジ祭りに関しては俺もなかなか詳しいので、いろいろ教えてあげるよ」

「へぇ~っ……モミジ祭りって言うのかぁ……」


 フッ、タム君は知る由もないことだろうが……これは立ち上げメンバーから話を聞ける貴重な機会なんだよ? なんてね。

 そうして脱衣場にて服を脱いでいくわけだが……

 ふむ……まだ子供だけあって、タム君の身体つきは鍛え抜かれた鋼の肉体という感じではない。

 いやまあ、小柄ながらもムッキムキの身体が出てきたら、それはそれでビビるけどさ……

 とかなんとかいいつつ、決してタム君は鍛錬を積んでいないというわけでもないだろう。

 なぜなら、うっすらと絞られた身体つきをしているからね。

 おそらくだけど、タム君の家庭教師などが身体の成長を阻害しない適切なトレーニングメニューを考えているのだろうと思う。

 あとはやはり……魔力操作の練習を毎日1時間程度おこなっているというのも、身体のバランスを整えるのに一役買っているのに違いあるまい。


「うんうん……まだ子供ながら、タム君が鍛錬を疎かにしていないことが身体つきを見ただけで分かるよ」

「ほんとぉっ!? 僕もね、兄上に負けてられないって思って、今日まで頑張ってきてたんだよぉ~っ!!」

「ほうほう、その頑張る気持ちは実に素晴らしい! まあ、身体的トレーニングに関しては家庭教師などとよく相談しておこなうべきだろうけど、魔力操作の練習に関してはなんぼやっても基本的に問題はないからね、ぜひとも頑張ってくれ! かく言う俺だって、ほぼ一日中やってるしさ!!」

「い、一日中!?」

「ああ、そうさ! こうやって話しているときも……なんだったら、寝てるときでさえ無意識におこなうようにしているからね!!」

「ね、寝てるときもぉっ!? ひぇぇぇぇぇぇっ!!」


 こうしてタム君の意識が俺に向いているとき……ケインが動き出した。


「受け取れ! これが始まりの一発だぁッ!!」

「……っあいッ!? ッハッ! ハイィィィィィィィィィッ!!」


 さっそくケインによって、鮮やかなモミジがタム君の背中に刻まれた瞬間だった。

 そしてタム君は驚きと痛みによってか……ぴょこんぴょこん飛び跳ねながら奇声を発している。

 なんだろう……小動物がぴょんぴょんしているようで、かわいらしくもありつつ……なんか、オモロイ。


「おいおい、タム……そいつはちぃ~っとばかし、リアクションが過ぎるってもんだぜ? それに一応、手加減はしてあったんだぞ?」

「ああ、そうだな……メイルダント家の男子たるもの、もう少しどっしりと構えるべきところだろう」

「……フゥーッ……フゥーッ……ケ、ケインさんッ!? それに兄上も! いったい何をッ!!」

「ふむ……メイルダント家の男子の在り方を、その身をもってタム君へ示してやったほうがいいのではないか?」

「えぇっ!! アレスさんまで~っ!?」

「いいでしょう……タム、よく見ておけよ? ではケイン、私にもとっておきの一発を頼む」

「よっしゃッ! 喰らえェェェェッ!!」


 そしてピシィンという強烈でありながら、鮮やかな音色が脱衣場に響き渡った。


「……ッ!! フ……ゥッ……タムよ……これがメイルダント家の男子の在り方だ……分かったか?」

「いやいや! 分かんないッ! 兄上たちが何をしたいのか、まるっきり意味不明だよぉぉぉぉぉぉッ!!」

「おいおい、タム……そうピヨピヨ騒いでばっかりだと、学園でやっていけないぜ?」

「ふむ……では次に、ケインが男の手本を見せてやるといい」

「そうっすね! アレスコーチ、頼んます!!」

「よし来た! アツいのをくれてやるぞぉぉぉぉッ!!」


 そうして再度、鮮烈な音色が脱衣場に響き渡る。


「……っあいッ!? ッハッ! ハイィィィィィィィィィッ!!」

「えぇ……ケインさん……それ、さっきの僕と同じリアクションじゃ……?」

「あぁっ!? そりゃ、あえてだ! あ・え・て!! とはいえ……やっぱ、アレスコーチの一発は効きますねぇ……」

「うむ……それがモミジ祭りの礼儀だからな!!」

「……さて、これでタムにもおおよそのことは理解できただろう? では、お前も我々の背中に鮮やかなモミジを刻むのだ!」

「え、えぇ……」

「さぁっ!!」

「ほれほれ、まずは俺の背中からでもいいんだぜぇ?」

「俺の背中にも、遠慮なく来るといい……ああ、爵位のこととか、そういう野暮な話はここではナシだ」

「う、うん……それじゃあ………………でも、ホントにこんなこと学園でやってるのかなぁ……?」


 こうしてタム君も、モミジ祭りを嗜む男としての道を一歩踏み出すのであった。

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