第874話 アツさを示し続けていれば

「おい、タム! なんだその一発は!? そんなんじゃ、お前のアツさは誰にも伝わんねぇぞ!!」

「年齢や性別、その他もろもろ相手のことを全く無視していいわけではないが……かといって、中途半端な遠慮は相手を侮辱することにもなってしまうのだ……これは先ほど、アレス殿もモミジ祭りの礼儀として示してくれたことだろう?」

「中途半端な遠慮は相手を侮辱することにもなってしまう……そっか……そうなんだ……」

「そう、時には全力でぶつかっていく……それが相互理解へとつながっていくこともあるのだと、タム君も覚えておくといい。もちろん、だからといって常に誰彼構わず全力でいけばいいというわけではない……それはただの暴力となってしまうからね」

「まっ、要するに時と場合を考えろってこった! そして今は、全力で一発を入れにくる時だ! さあっ、それが分かったら、もう一発! お前の本気を見せてみやがれッ!!」

「う、うんっ! たぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「……ッ! ウゥ……ッ……! そうだ、タム! やっとお前のアツさが伝わってきやがったぜぇッ!!」

「フゥ……これが僕の……本気……」

「ああ、タム……しかとお前の本気を見せてもらったぞ!」

「うむ! 見事なり!!」

「みんな……ありがとう……」

「さぁて! タムも階段を一段上がったところで……こっからが本番だぜぇッ!!」

「「よしッ!!」」

「お、おうッ!!」


 こうして俺たちは、本格的にモミジ祭りを始めるのだった。

 そして、このモミジ祭りをとおして、全力でぶつかり合うことで分かり合えることもあるのだとタム君に伝わったのではないだろうか。

 フッ……これこそが、男の学び場というわけだ。

 そんなこんなで、モミジ祭りを経て風呂へ……


「ハァ……フゥ……モミジ祭り……凄い……」

「ハハッ! めちゃくちゃエキサイティングな時間だっただろぉ~!?」

「ああ、タムも夢中になっていたようだからな」

「学園では、もっと大勢の男たちとアツい時間を過ごすことができるから楽しみにしているといいよ」

「も、もっと大勢の男たちと? それは……す、凄そう……」

「おう! マジで凄いぜぇ? なんてったって、ソイツの性格がダイレクトに出るからな!!」

「性格が……?」

「そうだな……気配を消して背中を狙う者がいたり、何発もらおうとも気にせず渾身の一発を入れることのみに邁進する者がいたりと、実に多彩だ」

「そう、叩き方……そして叩かれ方もだな、それぞれの性格が反映されるようで、なかなか面白いんだ」

「へぇ~っ、そうなんだぁっ! みんなの話を聞いていると、僕も早く学園に入学したくなってきちゃったよっ!!」

「おう、楽しみにしとけ! お前が学園に入学したときも、俺やワイズにとってのアレスコーチみたいな想像を超えた人との出会いが、きっとあるだろうからな!!」

「ああ、人との出会いは本当に大きい……私自身、自分が一番だと思い上がっていたつもりはないが……それでも、自分の想像の範囲というものがいかに狭かったのかと痛感させられてばかりだ……」

「タム君がアツさを示し続けていれば、遅かれ早かれ必ず共鳴する人とつながることができる……そうやって、俺はワイズやケインのようなアツい男たちとこうして行動を共にできているのだ! であれば、タム君こそが誰かの想像を超えたアツい男となってやるんだ!!」

「ぼ、僕こそが……誰かの想像を超えたアツい男に……?」

「おぉっ! そいつはいい! やったれ、タム!!」

「男たるもの、それぐらいの気概が必要ということ……うぅむ、私ももっとアツさを示していかねば!!」

「フッ……男のアツさに限界などないからな! どこまでも燃え上がっていこうぜ!!」

「よぉ~し! 僕もアツい男になるぞぉ! この背中のアツさにかけてね!!」

「よっしゃ! その意気だ!!」

「タムが入学する学年も、なかなか濃い学年になっていきそうです」

「ああ、そうそう……俺は平民の子とも接点があってね、あの子たちは魔力操作なり武術なりを娯楽の少なさゆえか、普通に鍛錬と言っても過言ではないことを遊びの一環として楽しんでしまえるんだ。そして、その中には当然タム君と同い年の子もいる……よって、そういう子たちも将来的にタム君のライバルとして学園に入学してくるだろうから、貴族の子だけをライバルとは思わないことだね」

「平民の子も、僕のライバルになり得る……なるほど、そういう視野の広さも必要なのか……」

「まっ! それはつまりアレスコーチの弟子といえる奴らなんだ、甘く見てるとタムもボコボコにされちまうだろうから、しっかりな!!」

「我々の学年でも、アレス殿の影響か平民出身の生徒が目を見張るレベルで力を付けていますものね……」

「まあ、同学年の平民出身の生徒とは特別な付き合いこそないが……広く魔力操作を勧めて回っているので、俺の想いに共鳴してくれた奴は独自に頑張って実力を伸ばしているのだろうと思う。そして、実際のところ俺たち貴族が平民に勝っているのは生まれ持っての保有魔力量だけで、努力次第では逆転もあり得ることを肝に銘じておいたほうがいいね……もちろん、技術を専門に教えてくれる家庭教師の存在など、環境の違いっていうのもあるにはあるだろうけど、それは本質的ではない」

「そっか、最初の保有魔力量だけの差なのか……うん、サボると大変なことになりそうだけど、逆にこっちが頑張ることさえできれば、もっと高みを目指せる……」


 とまあ、そんな感じで風呂に浸かりながらタム君にいろいろ語って聞かせたのだった。

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