第875話 なんとなく冴え冴えとした感じがする

「えっと、レミリネ流剣術っていうんだっけ? 明日の早朝練習で教えてもらうのを楽しみにしてるよっ!!」


 風呂から上がり、しばしのリラックスタイムを経たところで部屋に戻る。

 そこで、それぞれの部屋に向かう分かれ道にさしかかろうかといった辺りでタム君が声をかけてきた。


「ああ、俺もタム君に教えるのを楽しみにしているよ! そして、寝る寸前までの魔力操作もしっかりね!!」

「うんっ! 頑張るっ!!」

「まっ、寝坊しないよう気ぃつけろよぉ~っ?」

「アハハッ! 僕はケインさんみたいに朝弱くないから大丈夫だよ~っ!!」

「タム、お前も明日はベイフドゥム商会の一斉摘発に同行するのだし、興奮し過ぎて眠れなかったということがないようにな? まあ、魔力操作の練習をしていれば自然と心も落ち着いてくるのだろうとは思うが……」

「ほ~んと、兄上は心配性だなぁ~っ! 僕だってもう10歳なんだから、ちゃんとできるよっ! それじゃあ、おやすみなさ~いっ!!」


 そう言ってタム君は、自分の部屋に戻って行った。

 まあ、貴族の子息として当然のことながら、タム君にも使用人のお姉さんが付いている。

 そのため、仮にタム君が自力で起きれなかったとしても、使用人のお姉さんが起こしてくれるだろう。

 そう考えれば、要らぬ心配といえるのかもしれないね。


「心配性……か、確かに私はミカルのことといい、余計な心配をし過ぎているのかもしれないな……」

「まっ! 俺もワイズは心配性なところがあるって思わなくもないけどよ……でも! だからこそ、思慮深く物事を進めて行くことができるって美点にもなり得るんじゃないかと思うぜ?」

「うむ、ケインの言うとおりだな! 時には大胆に攻めることも必要であろうが、ワイズのような堅実さも大事だろう……それも、領民の暮らしに責任を負う領主ともなれば特にな!!」

「そう、ですね……我々が先ほどタムに言い聞かせた『時と場合を考える』という話は、私自身にも言えることでしたね」

「おう、そうだな! つ~わけで、今晩はしっかり寝て! 明日に備えようぜってこった! もちろん、魔力操作の練習も忘れずにやってな!!」

「違いない! といったところで、また明日だ!!」

「ええ、それでは」

「おやすみっす~!」


 こうして俺たち3人も、それぞれの部屋へ向かう。

 そして俺に用意された部屋に戻ってきたところで……


「フゥ~ッ……今日もなかなか盛りだくさんの一日だったなぁ……まあ、ここが学園の寮の自室であれば、キズナ君に今日あった出来事の総括として話をするところだったんだろうけどねぇ……?」


 なんて、ホームシックめいたことを思わず呟いてしまったが……まだ数日しか経ってないんだよな……

 とはいえ、俺にとってそれだけキズナ君の存在感は大きいということでもあるのだろう。

 う~ん、キズナ君は今頃どうしているかなぁ?

 独りで元気にやっていてくれるといいのだが……

 まあ、寮に戻ったら、た~っぷり土産話をするつもりなので楽しみにしておいてくれればと思う。

 そんなことを考えながら、着替え等の寝る準備を済ませる。


「さて、それじゃあ今日一日の集大成として、魔力操作の練習を丁寧に取り組んでいくとしますかね……」


 ふむ……同じ魔素とはいっても、やはり場所によって微妙に趣が違う……

 それに、季節が冬に入っているからというのもあるだろうが……なんとなく冴え冴えとした感じがする。

 この空気感の中で魔力操作をしていると、こちらまで気が引き締まってくるようである。

 フフッ……これは絶好の魔力操作日和だね……

 こうして寝るまでのあいだ、丁寧に魔力操作をおこなう。

 そして、そろそろ寝ようかといった辺りで、徐々に魔力操作の精密さを緩めていき……それと同時に……自身の意識も…………夢の………………世……界へ……………………


「……っと、もう朝か! もんの凄~くグッスリ眠れていたみたいで、ほとんど一瞬だったね!!」


 ときどき「旅先で枕が変わったら眠れない……」みたいな話を聞くことがあるけど、全くそんなことはなかったって感じだ。

 まあね、これは魔力操作を丁寧にやることによって自律神経が整えられているからってこともあるのだろうと思う。

 ホント、魔力操作にマジ感謝ってやつである。

 とはいえ一瞬過ぎて、あんまり「寝たぞ!」って実感がないのは、それはそれで切ない感じもしちゃうけどね……


「とまあ、それはともかくとして……さっさと朝練に行く準備をしちゃいますかね!」


 そんな呟きとともに着替え……というか、寝るとき着ていた必要最低限の平静シリーズに上着を重ねていく。


「ああ、そういえば……タム君にも平静シリーズをプレゼントしておくか……それから、ソニア夫人にもね!」


 ただ、タム君にプレゼントするとしても、あまり最初からいくつも重ねないよう注意しておかなきゃだろうなぁ……

 いやまあ、無理をしようとしたところで使いこなせないから、結局はレベルに合った数に落ち着いていくんだろうけどさ。

 そうして準備を終え、メイルダント家の屋敷内に整備されている訓練場に向かった。

 さぁて! 今日も頑張っぞ!!

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