第4章 嫉妬の念に囚われて

第52話 知ることを放棄したとき

 エリナ先生の研究室から学生寮の食堂に移動してきた。

 腹内アレス君がスタンバってるからね、しっかり食べちゃう!

 まぁ、いろいろ頑張ったし今日はひとりお疲れさん会ということで、ちょっとぐらい多めに食べちゃってもいいよね!?


「おい、アレが帰って来たぞ」

「ふぅん、久しぶりじゃん?」

「あのサボり野郎……どんだけサボってんだよ?」

「えっと……学園で最後に姿を確認したのが先週の風の日だから、光の日と、闇無は休みで、地の日と今日の水の日の分だから、サボってたのは3日で、学園にいなかったのは今日を含めれば5日になるね」

「俺……そういう正確な日数とかは求めてなかったんだけどな」

「何を言ってるんだよ、この世の中データがすべてだよ? それがわからないとは……」

「ふぅん、よくわかってんじゃん?」

「データが大事なのはわかるが……そして、お前はまた適当なことを……」


 そうそう、この感じ、なんか帰って来たなぁって思うよ。

 まぁ、俺の不在を数えていた奴は地味にキモいがな……


「アレス様! お帰りになっていたのですね!!」

「……す」

「お、お久しぶりですっ!」

「またお前等か……」

「アレス様! どこかへお出かけになるのでしたら、我々にも一声かけてくださればよいものを!」

「……お前等では役に立たん」

「なにをおっしゃいます!? 我々は知力体力魔力全てを高水準で備えておりますゆえ、必ずやお力になれます!!」


 まぁ、学園でしっかり鍛えた数年後ってことなら、話は別だろうけど、今の時点では足手まといにしかならないだろうな。

 ゲーム的に言えばまだレベル1桁だろうし……俺が魔纏で護ってやらなきゃ、たとえザコマヌケが相手だとしても瞬殺されて終わりだろうな。

 いや、たぶん俺もゲーム的なレベルなら精々10台に乗れてるかなってぐらいだろうけど、アレス君は魔力量だけはバグかってぐらい突出してるからね、君たちとは違うのだよ、すまんね。


「その済まなそうな表情から察するに、ようやくわかっていただけたようですね! 次からは必ず声をかけてください!!」

「……い」

「か、かけてくださいっ!」


 なんというか、まともに相手をするのが面倒になってきたな……俺はメシを食いたいだけなのに。

 ……ああ、なるほどね、異世界転生の先輩諸兄が「迷惑だと言っているのに、めちゃかわ女子(複数)が放っておいてくれません」って自虐風自慢をよくしていたが、コレだな!!

 でもこいつら、男なんだ……この違いなんなん?

 まぁ、エリナ先生に変に思われたくないから、下手に女子が寄って来ても困るだけなんだけどね。

 とりあえず、こいつらには適当に返事しとくか……


「……じゃあ、俺の魔力圧に耐えられるようになったらだな」

「えぇっ!? そんな!!」

「なんだ、出来ないのか?」

「い、いえ! 出来ないとは言っておりません!!」

「そうか、なら今日のところはこれでいいな、用が終わったのなら失せろ」


 そして、試しに魔力圧を3人に少しあててみた。


「ヒッ!!」

「……ッ」

「ヒ、ヒィッ!」


 そうして3人は慌てて退散していった。

 う~ん、まだまだ先は長そうだね。

 むしろ、諦める方が早いかな……俺としてはそっちの方が楽でいいけど。


「あいつらも相手されてないっていうのがわっかんないもんかね?」

「ふぅん、それは俺らもじゃん?」

「ぼ、僕はデータ収集をしているだけだし! そ、それに! ぼ、僕は観測者だから!!」

「お前も中途半端に狼狽えんな、こういうときはな『んなもん知るか』の一言で十分なんだよ、よく覚えとけ」

「いや、データ至上主義の僕にそれはありえない、知ることを放棄したとき、それは僕の死ぬときだ」

「ふぅん、カッコイイじゃん?」

「そんな大げさな……そして、お前もまた適当なことを……」


 さて、これで食事に集中できるな。

 まぁ、食事の手自体は止めてなかったんだけどさ、気持ち的な面でね。

 その後も、腹内アレス君がある程度満足してくれるまで食事を楽しんだ。

 今日だけ特別だからね!

 というわけで、自室に戻ろう。


「そういえば、ここ数日忙しくてあんまり勉強してなかったな……これはいかんね」


 普段なら夜は精密な魔力操作に集中する時間って決めていたけど、1時間ぐらいは勉強に回そうかな。

 でも、勉強だけだと確実に眠たくなるからね、筋トレしながらにしよう!

 スクワットをしながら教科書を読む、めちゃくちゃアリだよね!

 そしてそこに運動用魔力操作もプラスする……いいじゃん、イケてる!!

 てなわけで開始。

 いやぁ、ちょっと前までは筋トレなんか考えられなかったぐらい体力がなかったからね……

 その頃のことを思えばよく頑張ったと我ながらに思うよ。

 馬車の中で魔力操作を練習したり、森の中とか結構歩いたりしてたから、そこまでサボっていたわけではないつもりだったけど、筋トレとか武術的な練習はわりと後回しになっていたからね。

 今日からしばらくは修行メインで行くっていうのもアリな気がするね……

 っていうか転生した当初は、学園の卒業かゲームの強制力的なもので追放されるときまでは修行メインでたまにモンスター狩り、みたいな生活をするつもりだったんだけどな……

 マヌケ族とかが目立ちだすのってゲームだと中盤ぐらいからだったはずなんだけどなぁ。

 今はまだ、学園が始まって2カ月目に入ったばかりだよ?

 ゲームの主人公君が活躍する機会もまだ来てないよ?

 あれ、ストーリー上での最初の戦闘イベントってなんだっけな、えーと……確か、学園の野営研修中に遭遇したはぐれオーガとの戦闘だっけ?

 絶体絶命のピンチに眠っていた勇者の力が目覚め始めるみたいな?

 あれもまだ先だしなぁ……

 主人公君もさっさと勇者の力に目覚めれば、ガタガタ周りの生徒にも文句言われずに済むだろうに……力で黙らす、みたいな感じでね。

 ってやべぇ、余計なこと考えてたから、教科書の内容が頭に入ってきてないや。

 ……戻って読み直しだな、はぁ。

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