第146話 わざわざ会いに来てくれる奴
「オレハ、ゲン……ツヨイヤツ、サガシテ、オマエ、ミツケタ」
そう言って俺に熱い視線を向けてくる、はぐれオーガ(仮)改めゲン。
今までオーガとなかなか会えなかった俺だが、わざわざ会いに来てくれる奴がいるとはな……ちょっと嬉しいぞ。
「で? 俺を見つけたゲンは何がお望みなんだい? 握手でもして欲しいのかな? それともサインのほうがいいかい?」
「チガウ、オレ、オマエト、タタカイゴッコ、シタイ」
「たたかいごっこだと? 模擬戦のことを言っているのか?」
「……モギセン、シラナイ、タタカイゴッコ、タタカウ、アソビ」
「あの、ちょっといいですか? ゲンさんにお尋ねしたいのですが、どうやって人間族の言葉を覚えたのですか?」
「……コトバ、ジッチャン、オシエテ、クレタ」
「じっちゃんというのは、もしかして人間族の方ですか?」
「ソウ、ニンゲン」
たぶん雰囲気的に、ロイターが言った模擬戦でほぼ間違いないだろうな。
そして、ゲンが登場してからというもの、サンズの食いつきが凄い。
まぁ、しゃべるオーガがよっぽど珍しいんだろうなぁ。
とか思っていたら、サンズの質問攻めのせいか、ゲンの自分語りが始まった。
どうやらゲンは小さい頃、捨てられたのかどうか理由は知らんが、とにかく群れからはぐれたらしい。
そのとき、人里離れた山奥で世捨て人みたいなことをしてたっぽい老人に拾われたみたい。
それがゲンに言葉を教えたという「じっちゃん」って人のことだね。
ついでに言うと、「ゲン」という名前もじっちゃんが付けたそうだ。
その後はずっと、じっちゃんと山奥で一緒に暮らしていたんだってさ。
そんでそのじっちゃんだが……たぶん武術の達人系だろうね、「たたかいごっこ」とか言って、完全に武術を仕込んでるムーブでしょ。
ただ、ゲンとじっちゃんの暮らしも悲しいことに、つい先日終わりを告げたらしい……じっちゃんの死という形でね。
いや、誰かに殺されたってわけではなく、老衰みたいだけど。
それからほどなくしてゲンは山を下りて、強者の気配を追っているうちにここに辿り着いたってわけだね。
それにしても、そのじっちゃん……よくオーガなんか拾って育てようと思ったよな。
サンズの反応的に、絶対懐かないっぽいのにさ。
それに見てよ、サンズのあの顔、めっちゃキラッキラしちゃってるよ……
ちなみに、ほかのメンバーの反応としては、サンズと温度差はあるものの人間とオーガの共生ってことに興味深くは感じているみたい。
まぁね、俺もオーガなんか狩るべきモンスターの一種でしかないと思っていたから、軽い驚きは感じているさ。
とまぁ、そんなゲンの自分語りも一段落ついたところで、本題のたたかいごっこですよ。
一応ゲンとしてはそれが目的で山を下りてきたみたいなところもあるみたいだし、それに応えてやらないのはちょっとかわいそうだもんね!
ふふっ、わざわざ俺を指名して来てくれたんだ、これはサービスしてやらなくちゃってなもんよ!!
「よしわかった! 男アレス! そのたたかいごっこを受けてやろうじゃないか!!」
「アリガトウ、アレス」
「それじゃあ、私が審判をしてやるとするか」
「頼んだ」
「カンシャ」
こうして俺たちのたたかいごっこが始まる。
まぁ、「ごっこ」だからな、ミキジ君とミキゾウ君のコンビでお相手しよう……ミキオ君だと、威力強過ぎぃ! ってなりそうだし。
そんなことを思いつつ戦闘準備を整え、おそらくじっちゃん由来と思われる魔鉄の棒を構えたゲンと向き合う。
あとは、開始の合図を待つだけ。
「それでは……始め!!」
「ガァ!」
「おぉ! なかなかの迫力!!」
開始早々、急接近し魔鉄の棒を振り下ろすゲン。
それを寸でのところで回避。
魔纏があるから直撃はしないとはいえ、オーガの腕力による振り下ろしだ、衝撃はいくらか響く可能性を考慮し、わざわざ受けるようなことはしない。
そしてすかさず右手のミキジ君をゲンの胴体目掛けて打ち込む。
「おらぁ!」
「ガッ!」
そこで素早く魔鉄の棒をミキジ君の軌道に合わせ、防御態勢に入るゲン。
それによりミキジ君と魔鉄の棒の衝突音がギィンと鳴る。
「もいっちょお!!」
さらに、左手のミキゾウ君で追撃を狙う。
「ガァ!」
それを察知したゲンに牽制の蹴りで応じられ、仕方なくバックステップで距離を空ける。
こうした攻防がしばらく続く。
ふぅ、やはりオーガ、パワーもスピードもあって素晴らしい身体能力だ。
それに加えて、じっちゃんに仕込まれたと思われる武術がしっかりと根付いている。
これは戦士として、なかなかの完成度と言えるだろう。
そんなわけでゲン、前回戦ったオーガと比べて、圧倒的に強い。
だが、見た目から判断するに、進化はしていないように思う。
……コイツが進化したらどうなっちゃうんだろう、やべぇ、なんかワクワクしてくるな。
「アレス、ツヨイ! オレ、オモシロイ!!」
「ああ! 俺もだ!!」
そしてもちろん、接近戦しかしていないわけではなく、魔法も抑え気味にはしているが普通に使っている。
それをゲンは一つ一つ的確に対処しているのだ、まったく、やってくれるよ!
「魔法ありのアレスにあれだけ対応できるとは……ゲンの奴、なかなかやるな」
「ロイター様も、ゲンさんと闘ってみたくなってますね?」
「ああ、あれだけの動きを見せられたらな」
「そうね、見どころがあってとても結構なことだわ……モンスターなのが実に惜しいところね」
「え!! ファティマさん!?」
「ふふっ」
「あ、あぁ……」
「もう! ファティマちゃんったら、そういう誤解されるような態度はダメっていつも言ってるでしょ!! ロイター君、大丈夫だから心配しないでね?」
「い、いやぁ、わかっているさ、大丈夫……ははは」
その後もたたかいごっこは続いていたが、先にゲンの体力が尽きた。
さすがに息つく間もなく接近戦をこなしながら、全方位から撃ち込まれる魔法にも対処を長時間続けるというのは厳しかったようだ。
俺はまぁ、膨大な魔力量に加えて魔力操作で空気中から魔素も取り込んでるからね、集中力が途切れない限り闘い続けられますよ!
「ハァ……ハァ、コウサン……スル」
「ふぅ、いいたたかいごっこだったな!」
「……オモシロ、カッタ」
単なるオーガとしか知らなかった段階では討伐しようと思っていたが……そんな悪い奴でもなさそうだし、無理に殺さなくてもよかろう。
それにまだまだ強くなる余地もありそうだし、ここは再戦を約束してお別れって感じで行こうかな。
「ゲン、もっともっと修行して強くなって来い、そのときまた、たたかいごっこをしよう!」
「……お前のことだ、どうせ『タイマン張ったらマブダチ』とでも考えているのだろう?」
「ああ、もちろんだ」
「そうねぇ、いいんじゃないかしら?」
「私もいいと思う! ゲン君とはお友達になれそうだし!!」
「僕も賛成です! これを機に、人間族とオーガ族との相互理解が進むかもしれませんし!!」
「決まりだな……立てるか?」
そう言いながら、体力が尽きて地面に仰向けでぐでーんとなっていたゲンに手を差し伸べる。
その手をゲンが掴み立ち上がりかけたとき、いきなり剣の切っ先がゲンの腹を突き破り、飛び出てくる。
「ゴバァ!」
「は?」
盛大に吐血するゲン。
「貴様ら、モンスターを見逃そうとするとは何を考えているのだ」
ゲンを刺し貫いた剣の血振りをしながら、急に現れた男はそう言った。
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