第147話 出番だ

「この野営研修中、次々とモンスターを狩っていく貴様らを見て、なかなか見込みがある者たちだと褒めてやりたいと思っていたのだが……モンスターを見逃すとは、期待外れもいいところだ」


 急に現れてなんなんだこの男……いや、装備を見るに、おそらく王国騎士であろうということだけはわかる。

 だが、基本的に陰ながら見守るのが役割だったはずの騎士が、なぜ……


「ゴボッ!」


 おっと、そんなこと今は気にしている場合じゃない!

 早く、ゲンを回復させてやらないと!


「待ってろゲン! 今ポーションをかけてやるからな!!」


 大急ぎでポーションを取り出し、ゲンにかけてやる。


「なんでだ……なんでポーションが効かないんだ?」

「フン、無駄なことはやめておくことだな」

「ポーションが効かないだと!?」

「クッソ! わっかんねぇ……なんでなんだよ!!」

「……ポーションの効かない怪我に役立つかはわからんが、私も回復魔法で手伝おう」

「……ロイター」

「お前のマブダチなら、助けてやらんわけにもいくまい」

「……ありがとう」

「それに、ゲンとは私もたたかいごっこをしてみたいしな!」

「ああ、そうだな!」


 こうしてロイターも加わり、ゲンの治療にあたる。


「おかしい……魔力が素通りして、回復魔法が思うように効果を発揮しない……まさか! 魔臓を破壊したのか!?」

「だから言っただろう? 無駄なことはやめておけとな」

「な、なぜそこまで……」


 魔臓を破壊……破壊!?

 確かそれって、確実に殺すための方法じゃなかったか!?


「トガズス・ルプズ卿、なぜそこまでする必要があったのですか?」

「お前は確か、デラッドレンス家の子供だったか。フン、そんなこと決まっている。我々人間族の脅威となるモンスターなど、一匹たりとも残さず、殲滅し尽くさねばならんからだ」

「そんな! そこまでせずとも!! 少なくともゲンさんは僕たちと意思疎通ができました! ゲンさんを通じて、これからオーガ族ともわかりあうことだってできるかもしれないんですよ!?」

「私もそう思います! それに、ゲン君は敵意を持って私たちに向かってきたわけじゃないんです!! ただ、一緒に遊びたかっただけなんです!!」

「グレアリミス家の娘まで戯言を抜かすとは……ああ、やはり貴様らは腰抜けコモンズの生徒なだけはあるな……考え方が甘過ぎる」

「……甘過ぎる?」

「そうだ、モンスターなど信用するに値せん者を中途半端に信じて裏切られたらどうするつもりだ? しかもそのオーガは並の力ではないのだぞ? そいつが殺戮の本能に目覚めて襲いかかって来ないと断言できるのか?」

「そ、それは……」

「……トガズス・ルプズ卿に一つお聞きします、この世には私たち人間族と意思疎通ができるドラゴンなどの上位モンスターがいます。また、それらのモンスターを守り神と崇めて国を守ってもらうといった共生関係を築いている国もありますが、それらについてはどうお考えですか?」

「ミーティアム家の娘か……いいだろう、答えてやる。そんなことは決まっている! 全て滅ぼすべきだ!! 何が共生関係だ、馬鹿馬鹿しい!! 綺麗な言葉で飾っているが、あんなものモンスターの奴隷と堕ちた情けない者たちの成れの果てではないか!!」

「……そうですか、よく分かりました」


 もしかしてこれなら……という気持ちで手持ちのポーションをゲンにかけ続け、それでもやはり回復しない。

 ロイターも休みなく回復魔法をかけようとしてくれているが、残念ながら目立った効果はない。


「……ゴホッ」


 ゲンの体内の血液も残りわずかなのか、吐血の量も減ってきている。

 それに伴って、ゲンの生命力も徐々に零れ落ちていっているようだった……

 それがゲンの最期が近づいてきているのだということを、いやでも感じさせてくる……


「……アレス……オレ……マブダチ」

「ああ、もちろん! 俺たちはマブダチだ!!」

「……アレ、ス……オレ……マブ、ダチ…………マタ…………タタ、カイ……ゴッ、コ…………シヨ……ウ」

「ゲン! おい、ゲン!! 逝くな!! また、たたかいごっこするんだろ!? お前、もっと強くなるんだろ!! 目を開けろよ!! おい! 戻って来いよぉ!!」

「……アレス……もう、無理だ」

「はぁ!? 無理じゃねぇ! 無理じゃねぇんだ!!」


 その後も、手持ちのポーションを全てゲンにかけるが、なんの反応もない。

 俺の下手くそな回復魔法も全然効かない。

 最後の希望として転生神のお姉さんに願ってみたが、駄目だった。


「……アレス、もうやめろ、それ以上は……どうにもできん」

「……なんでだよ、なんでだよぉ」

「フン、ようやく死んだか、案外しぶとかったものだな……しかし、ソエラルタウト家の子供よ、そろそろその情けないまねはよせ、見るに堪えん」

「……なんだと!?」

「我ら魔法士の本分はモンスターを殲滅することだ。それをいっときの感情に流されて忘れるな」

「……知るかよ、そんなこと」

「よく聞こえんな」

「……知らねぇってんだろ!!」

「フン、多少はまともになったと聞いていたが……何も変わっていない! お前は魔法士の面汚しのままだ!!」

「……言いたいことはそれだけか? 俺もお前のくだらん演説は聞き飽きた、ここらでご退場願おうか」

「ほう? この私に殺気を向けてくるとはな……仕方ない、ここは一つお灸を据えてやるのも上位者の務めというものだろう」

「おい! やめろアレス、相手は王国騎士だ」

「……だからどうした」

「だからどうしたって……問題になるだろうが!」

「……悪いな、でももう決めたんだ」

「アレス……」


 これは俺のわがままだってことぐらい分かってる。

 それでも、俺はこの男を許せない。

 だから……


「ミキオ君……出番だ」

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