第148話 友達

「お前が死ぬ直前、中途半端な言い訳を聞きたくないから先に言っておく。殺すつもりで行くから、そのつもりで来い」

「フン、その程度、なんの脅しにもならんぞ?」

「別に、どっちでもいい、どうせお前は殺すだけだから」

「アレス君……そんなことをしてもゲン君は戻ってこないんだよ? だから、ねぇ、やっぱりやめようよ」

「アレスさん……僕も気持ちは痛いほど分かりますが……なんとか堪えるわけにはいきませんか?」

「……悪いな」


 そう言いながら、ミキオ君に魔力を込める。

 ミキオ君から放たれる暴力的な魔力の奔流。

 そうか、ミキオ君も俺の気持ちを分かってくれるんだな、ありがとう。


「……それじゃあ、行こうか」


 そう呟きながら、風歩で一気に距離を詰め、思い切り振り抜く。


「そんなでたらめな攻撃が通用すると思うな!」


 そんな上から目線の言葉を吐きながら、俺の攻撃を回避する男。

 そうして俺の攻撃をひたすら回避し、その都度カウンターで斬りつけてくる……だけの男。

 それもそのはずで、俺は一撃先生の教えの下、一振り一振りに必殺の気合を込めているのだ。

 当たれば即死……最低でも当たった部位が血煙となって消し飛ぶ。

 それを男も理解しているからこそ、回避からのカウンターに徹しているのだろう。


「なんだ、『お灸を据える』だとか偉そうに言っていたわりに、全然大したことないんだな」

「……子供だと思って手加減してやっているだけなのが分からないとは、哀れな奴だ」

「だから、そういう言い訳はいらないんだ」

「いいだろう……私を本気にさせたこと、後悔するがいい!」


 そのように男が言った瞬間、気配ごと姿が消えた。

 ああ、これがさっきの不意打ちか……

 と思っているうちに背中を斬りつけられたが、魔纏で防御を固めているのでノーダメージ


「……お前って、背後からの奇襲ばっかりなんだな、まったく卑怯な奴だよ」

「フン! なんの苦労もなしに授かった魔力量でしか物を語れない分際で!!」


 まぁ、もともとアレス君が備えていた魔力量でイキっているのは確かなんだけどね。

 そしておそらく、この男なりにここまでの技量を積むため相当の努力を重ねたことだろう。

 でもそんなことは関係ない。

 お前は俺のマブダチを奪った。

 だから俺も、お前の誇りを粉々に打ち砕いた上で、その命を奪ってやる。

 ……とはいえ、俺の魔力探知もだいぶ上達したと思っていたのだが、完全に捉えきれないとは……本当に気に入らん奴だ。

 だが、闇属性魔法で姿を隠して高速移動をしている程度のことはつかめた。

 ならば、そのご自慢の高速移動を使えなくしてやる。

 地面を凍らせてな。


「!!」

「どうだ、滑るだろう?」


 姿は見えないが、足場の悪さに苦労を感じているだろう気配はある。

 さて、お次はつららを四方八方に撃ちまくって範囲攻撃でもしてみましょうかね。

 いくら姿が見えないとはいえ、どれかは当たるでしょ?

 そうしてつらら全方位に射出すると、つららを剣で砕くガギンという音が聞こえる。


「そこか!」


 音がした方向に風歩で詰め寄り、ミキオ君を振り抜くが空振り。

 チッ、逃げ足の速さは健在か。


「それじゃあ、これで」


 そう言って、空から雹を降らせる。

 続々と落下する氷の塊がお前を襲うだろう。

 そしてそれらが、お前の居場所を教えてくれる。


「降って来るのはただの氷の塊だが、当たり所が悪いと死に至るかもな……あとはつららで串刺しにされるか……どっちがいい?」

「ふざけたことを!」

「でもそれだけじゃないんだ……俺自身もお前を追いかけるからよろしく」


 そんな一声をかけて、氷が金属製の装備にあたる硬質な音を頼りに、遠距離ならつらら、近距離ならミキオ君を突き出しながら風歩で突撃。

 必死に回避を繰り返す男と、それを執拗に追撃する俺……さながら鬼ごっこだな。

 そうした鬼ごっこがしばらく続き、装備のいたるところにへこみ傷をつけ、体中につららを生やした男が息も絶え絶えで、いつ倒れてもおかしくない状況で辛うじて立っているだけ。

 これはミキオ君による一撃だけはなんとか必死に回避し続け、そのほかの致命傷とはならない攻撃に対する防御が甘くなった結果と言える。


「さて、お別れの時間がやってまいりました」

「……くっ、神はなぜ……このような、ならず者に……過分な力を……お与えに、なったのか……」

「さぁ、なんでだろうな?」


 「悪役だからさ」と答えようかとも思ったが、この男には関係ないな。

 それにお前がするべきは下らん考察ではなく、向こうでゲンに謝罪することだけだ。

 そう思いながら、蹂躙モードのミキオ君を振りかぶり……


「それでは、さようなら」


 そんな別れの言葉とともに、振り下ろしかけたところ……

 突然ファティマが俺の前に立ち塞がる。

 慌ててミキオ君を止める。


「おい、危ないだろ」

「あなたなら止められると思ったわ」

「……絶対に止められたかは、分からん」

「それならもっと精進することね」

「……そうだな……で? これはなんのつもりだ?」

「憂さ晴らしぐらいはさせてあげようと思ったけれど、殺してしまうのは駄目。なぜなら、この王国にとってオーガは討伐対象でしかなく、この人のやったことは単なるオーガの討伐としかならない。むしろ、そんな王国騎士を殺したあなたは『王国への反逆者』となってしまう。私はそうはさせたくないの」

「……それなら、王国騎士と揉めた時点で駄目なんじゃないのか?」

「あら、揉め事なんてあったかしら?」

「は? いや、今あっただろ」

「知らないわ、ねぇ騎士さん?」

「な……」

「だって、『ドラゴンなどの上位モンスターやその庇護下にある国を滅ぼすべき』だなんて鼻息荒く宣っていた騎士が一介の学生に後れを取るだなんて……そんな恥ずかしいことがあるわけないもの」

「う、ぐぐ……」

「ああ、でも、これは父様を通じて王国に質問状を送らなければならないかしら? 『ある王国騎士から聞きましたが、他国へ攻め込むつもりがおありですか?』とね。私の実家って他国と国境を接しているものだから、そういうことには敏感で」

「ッ!!」

「……まぁ、冗談はこれぐらいとして……私はこの程度の小さな人間のためにあなたを失うわけにはいかないの」

「だが……」

「ねぇ、『友達』のお願いを聞いてはくれないの?」


 ……ファティマにここまで言われてしまえばもう、俺には返す言葉を見つけられない。

 正直、この男に対する怒りはまだ残っているが、ここは我慢するしかないのか……


「…………………………分かった」

「そう、ありがとう」

「……ああ」

「さて、それじゃあ、情けないまねをした見るに堪えない騎士の面汚しさん? そろそろお役目に戻られてはいかがかしら?」

「……くくっ! ははははは! こんな餓鬼どもにここまで侮辱されるとはな……もういい、こうなったらもう、何もかもどうでもいい!! 貴様ら全員、始末してやる! まずはお前だ小娘!!」

「危ないっ!!」

「……ふふっ」


 男がファティマの挑発に乗り、襲いかかろうとする。

 とっさに庇おうとしたが、何やらファティマには狙いがあるようで……


「そこまで! ファティマさん、それはほどほどにするようにと前にも言ったわよね?」


 「それ」っていうのがなんなのかよく分からないが、エリナ先生が……来た。

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