第145話 誰かを探している

 ひと狩り終えて、拠点に戻ってきた。

 いくつか潰したオークの集落の中に、腹内アレス君イチオシのオークがいたので、夜ご飯はそいつで焼き肉だ。

 な~んかうちのパーティーってさ、焼き肉ばっか食ってる気がしない?

 だったら俺も! 異世界に来てウェーイな陽キャの仲間入りを果たしたって言えちゃうんじゃないカナ!?

 そんなことを思いつつ、焼き肉を楽しんだ。

 ああそうそう、昨日冒険者たちが話していたオーガの様子を探ろうと、魔力探知の範囲を広げてみたところ、野営研修範囲外のここから東の方角、学園都市からだと北東の方角にいた。

 ただコイツ、微妙に様子が変なんだ。

 冒険者パーティーらしき集まりに、近づいたと思ったら離れるを繰り返すんだ、それも複数のパーティーに対して。

 なんというか、誰かを探しているのかなっていう感じがするね。

 ……あ! なるほどお前、主人公君を探しているな?

 俺の魔力探知ではよくわからんが、主人公君から出ているかもしれない勇者オーラでも追っているといったところか。

 それに、本当にあるのかは未だ不明ではあるが、ゲームの強制力なんかもあるからな。

 そんな感じでオーガはすぐ離れてしまうので、多くの冒険者パーティーはおそらく、オーガがわりと近くにいたことに気づいてすらいなかったんじゃないかと思う。

 そしてさらに、昨日のオーガから逃げ切ったと豪語していた冒険者たちであるが、たぶん見逃されただけな気がする、実際のところはわからんけど。

 その後しばらくして、寝る時間となったので就寝。

 一応、魔力の壁を拠点の外側に展開しているので、全員寝てしまっても大丈夫と言えるかもしれないが、念のため見張りも置くこととなった。

 時間としては1人90分ずつで、順番はパルフェナ、サンズ、俺、ロイター、ファティマって感じ。

 まぁ、パルフェナが最初なのは、言わなくてもわかるかもしれないが、夜中に起こすのがかわいそう、というか無理でしょってことだね。

 そして、ファティマが最後なのは、それぐらいの時間には大体いつも起きててちょうどいいからって感じ。

 ま、その点については俺もそうなんだけどね、譲ったった。

 というわけで、寝不足になるわけにはいかんので、目覚まし時計をセットしてさっさと寝ることにした。


「……もう時間か」


 目覚ましに起こされ、俺の番が回ってきた。

 やっぱ一日中動き回ってたらグッスリだね、ベッドに横になったら一瞬にして眠りの世界に旅立てたよ。

 そんなわけで、サンズと交代してあげよう。


「お疲れ、交代の時間だ」

「そのようですね、そして見たとおりだと思いますが、特に異常なしです。それでは僕も寝させてもらうので、あとをお願いします」

「任せておけ」


 こうして夜という静寂が支配した世界の中……ただの草に魔力を込めるという時間が始まる。

 魔力を込め過ぎて枯らさないように、だが少しでも品質が高まるように、そんな俺の孤独な戦い。


「相変わらずお前という奴は……」

「おう! どうだ、俺が丹念に魔力を込めて鍛え上げた薬草たちは!!」

「……まぁ、悪くはない」

「ふっ、だろう?」


 提出用マジックバッグを持つファティマに薬草たちを渡してくれるようロイターに預け、俺は再度の眠りの旅に出る。


 2度目の眠りから覚め、野営研修2日目の朝を迎えた。

 そして、早速と言わんばかりに朝食をいただく。


「……うぅ、眠いよぉ」


 いつも柔らかい雰囲気のパルフェナだが、今は柔らか過ぎてふにゃふにゃ。

 この様子を見れば、朝に弱いというのがこの上なく納得できるね。

 だが、これでも学園の授業には今のところ一度も遅刻していないらしい。

 朝食の時間を経て、なんとか起動を果たすといったところだろうか……

 まぁ、俺もこっちの世界に来てからだからなぁ、早寝早起きの規則正しい生活になったのは。

 前世では夜更かしとかしまくりで常に寝不足だったし、大学の講義も1限目なんか無理で、下手したら2限目も厳しいって感じだったからなぁ。

 とはいえ、パルフェナもそんな夜更かししているようには見えないけどな。

 まぁ、寝る子はそ……おっと、おそらくこの辺でファティマさんの冷たい視線が飛んでくる頃だ、ここまでにしておこう。

 ふふん、俺だって学習しているんだ、傾向と対策はバッチリさ!


「お前は食事のとき、口も手も忙しいが、顔全体の表情も忙しいようだな」

「……まあな」


 ……くっ! ロイターという思わぬ伏兵がいたことを忘れていた、不覚!!

 とまぁこんな感じで朝食を済ませ、今日も元気に狩猟採集生活がスタート。

 そしてオーガの様子は……ふむ、だいぶこちらに接近してきているな。

 この調子でいくと、昼頃には学園のパーティーのどれか……というかたぶん主人公君と接触することになるだろう。

 それとどうやら、巡回している教師や騎士はこのオーガを排除するつもりはないようだ。

 なぜなら、これだけ存在感を示してウロウロしているオーガに気づかないわけがないからだ。

 おそらく最初は生徒に任せてみて、駄目そうだったら助太刀に入るつもりな気がする。

 ああ、だからゲームのシナリオでもはぐれオーガと戦うことになったんだな。

 騎士までいてオーガの接近を許すなんておかしいと思ったけど、納得した。

 そうして、オーガの動向を確認しながら狩りを進めていく。


「……え?」

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」

「そうですか……」


 サンズよ、突然変な声を出してスマンな。

 ただ、俺もふざけていたわけではない。

 オーガの様子を探っていたらなんと! 主人公君をスルーしたんだ!!

 おかしい、お前はホントにはぐれオーガなんだよな!?

 お前がゲームのシナリオ上戦うべき相手はそこにいたんだぞ、いいのか?

 そんな不可解な動きをするオーガであるが、なんとなくこっちに向かってきているような気がする。

 なんか動き方がそんな感じなんだ。

 う~ん、よくわからんが、こっちに来てもいいけど、狩っちゃうよ?

 野営研修のルール上、ボーナスステージ扱いだよ、いいの?

 そんなことを思いながら、狩りを続ける。

 そしてしばらく経ったあと、やはりと言うべきか、ついにと言うべきか……オーガが俺たちの前に姿を現した。


「……ヤット、ミツケタ」

「まさか! あのオーガが人間族の言葉を話すだなんて!!」


 なんかすっごくサンズが驚いてるけど、オーガって設定的に俺ら人間と喋れないことになってたんだな……

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