第761話 ハートウォーミングな気持ちになってくる

「勝者! フェイ・リーリゥ!!」

『激戦を制し、フェイ選手! 見事優勝の栄光を手にしましたッ!!』

『エトアラさんも多彩な魔法を繰り出し、また物理戦闘の組み立ても素晴らしかったのですが……フェイさんの武技が一歩リードしていた、この一歩の差が結果を大きく変えることになったのでしょうね……』

「ウォォォォォォッ! フェイちゃん最ッ高ォォォォォォォォッ!!」

「強い! 強過ぎるゥゥゥゥゥッ!!」

「あのクールな闘いぶり! シビれちゃうねぇ?」

「ああ! エトアラ嬢の攻撃をひとつひとつ的確に捌いていく……その冷静さが観ていて、実に心地よかった!!」

「あれはもう! いってしまえば『静』を極めたって感じだな!!」

「そうとも! フェイ様は我らが静の女神なりッ!!」

「嗚呼……あのクールな視線を存分に浴びせてもらいたい……」

「まあ、俺らぐらいじゃ……良くて一瞥をもらえるかどうかってぐらいかなぁ……?」

「とりあえず、一瞬でも視界に収めてもらえたならヨシってカンジ」

「おい、お前ら! いってて切なくなることをいうんじゃねぇ!!」

「ま、とにかく今はさ! フェイちゃんに祝いのコールを贈ろうよ!!」

「「「よっしゃ!!」」」

「フェ~イ! フェ~イ!!」

「「「フェ~イ! フェ~イ!!」」」


 シュウの姉弟子であるフェイ先輩が、2年生女子の部で優勝を決めた。

 そして……


「うん……さすがフェイさんです」


 なんていいながら、俺の隣でシュウがうんうんと頷いている。

 このシュウの姿を見ていて、なんというか……「後方彼氏面」という前世でアイドル好きの鈴木君がときどき口にしていたワードが頭の中に浮かんできてしまった……

 いやまあ、シュウとフェイ先輩の関係は、それよりもっとずっと近しいのだろうとは思うけどね!

 そんでもってシュウの奴……いつも浮かべているのほほんとした笑顔が、さらに穏やかで慈愛のこもったものになっているじゃないか……

 そんな笑顔を見ていると、俺までハートウォーミングな気持ちになってくるというものだよ。

 ここで、ふと思い出したが……


「なあ、シュウよ……フェイ先輩に制服はもう返したのか? それとも、今着ているのもフェイ先輩のものか?」

「……? ああ、そういえばまだでしたね……ええ、これはフェイさんのものでした……いやはや、昨日もあれから会う機会があったというのに、ついうっかりしていましたねぇ……」

「うっかりって……まあ、フェイ先輩も特に急かしてはこなかったんだろうと思うけどさ……」


 なんとなくそんな気がしたのだが……やっぱりだったか……

 まったく……シュウは武術のこととなると抜群の冴えを見せるというのに、それ以外だとまあまあ抜けてるみたいなんだよなぁ……

 とまあ、シュウのことはいいとして……


「うぅ……エト姉……」


 ロイターとサンズを挟んだ隣で、セテルタが悲嘆にくれている……

 その嘆きようといったら、自身が敗北したとき以上のものではないかと思わせるほどだ。


「泣くな、セテルタ……エトアラ嬢は実によく闘った……」

「ええ、とても素晴らしい攻防でしたよ」

「そうそう! あれは勝ったフェイ先輩を褒めるしかねぇってもんですよ!!」

「準優勝なのですから、むしろ誇らしい結果といるでしょうねぇ」

「そうです、とっても凄いことです!」

「……私から見て、両者の実力は拮抗していた……ほんの少しの運が、フェイ嬢に傾いた結果なのだろう」

「セテルタ……あなたと同じようにエトアラさんも昨日、大層残念がっていたわ」

「うん……夕食のときもお風呂に入っているときも……ふとしたときに切なそうな顔をしていたなぁ……でもね、そのとき決まって最後はセテルタ君のカッコよかったところを熱く語っていたよ!」


 そうして、ロイターたちがセテルタに声をかけている。


「そうねぇ、あのときのデレデレとした表情を見ていると……こちらまで照れてしまうほどだったわ……」

「ああ! 顔が熱くなっちまって仕方なかったぜ!!」

「うんうん、まったくだよ……あれはお風呂の熱さだけが原因じゃなかったね」


 また、ファティマとパルフェナの言葉に、ノアキアとゼネットナット、それからドーズの異種族組もやや疲れた表情を浮かべながら同意している。

 ちなみにこの5人の女子たちだけど、ゼネットナット、ファティマ、ノアキア、パルフェナ、ドーズの並びで座っている。

 君たち、昨日から随分仲良くなったね……って感じだ。

 それはそれとして……シュウとフェイ先輩の組も素晴らしいが、セテルタとエトアラ嬢の組も実に天晴れ……

 おっと……ロイターたちが呆れた視線を向けてくる前に、俺も一言セテルタにかけてやるとするか。


「セテルタよ……エトアラ嬢を想って涙を流すのもいいだろう……だが、それ以上によく闘ったと称賛の声と拍手を贈るほうがエトアラ嬢の心は温まるのではないか?」

「……そっか……そうだね……ありがとう、みんな………………エト姉! 凄くいい試合だったよ! そして僕にとっては、エト姉が一番だったよぉぉぉぉぉぉっ!!」


 その声が届いたのだろう、エトアラ嬢はセテルタに軟らかく微笑みを返した。

 うむうむ……実に素晴らしい光景だ……

 そしてフェイ先輩ヲタたちだけではなく、エトアラ嬢ヲタたち……いや、会場のみんなも2人を称えたコールをしている。


「フェ~イ!! エ~ト~アラ!!」

「「「フェ~イ!! エ~ト~アラ!!」」」


 このコールは、表彰式までやむことはなさそうだね。

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