第112話 懐かしい気分を味わいながら

 トレルルスの店から帰る際、今回は銭湯に寄ってみた。

 自室にも湯舟はあるんだけど、いっつもシャワーで済ませちゃうからね。

 まぁ、寒くないからいっか! って思っちゃうとさ……お手軽にシャワーでってなっちゃうね。

 ……そんなめんどくさいなら浄化の魔法で終わらせればよくね? って思ったかな?

 そこはまぁ、俺なりに視聴者サービスもしておきたいなっていう気持ちもあるからね。

 そんなどうでもいいことを適当にゴチャゴチャ考えながら大浴場でくつろぐ。

 あと、ゲームの制作陣の趣味なのか銭湯といえばこれでしょって感覚なのか、壁画に富士山っぽい山の絵がデカデカと描かれている。

 山の名前はたぶん、異世界仕様で富士山ではないだろうなぁと思いつつ、でもなんとなく懐かしい気分を味わいながら山の絵を眺めていた。

 とはいえ、まだこっちに来て2カ月ぐらいしか経ってないんだけどね、もっと長くいるような気もしてくるから不思議だ。


「おう、兄ちゃん、若いのに焔好みとは渋いねぇ」


 富士山らしき山の壁画を眺めていると、近くにいたオッサンに話しかけられた。

 彼のニュアンス的に、焔の国関係の物を気に入ることを焔好みと言うようだね。

 まぁ、俺は日本に思いを馳せていただけなんだが、ここは適当に話を合わせておくか。


「ん? ああ、まあな、どことなく魂に訴えかけてくるものがあってな……」

「おお! 兄ちゃん、わかってるねぇ」


 どうやら俺は「わかってる」らしい。

 ごめん、本当は俺、焔の国自体のことはよく知らんのだ。

 ただ、日本の記憶である程度カバーが出来るだろうなと安易に思ってるだけなんだ、マジでごめんよ。

 でもこのオッサン、見た感じはこの国の人っぽいのに、なんで外国であるはずの焔の国にこんな好意的なんだ?


「いや、それほどでも……それで、そちらは焔の国となにか縁でも?」

「いやぁ、若い頃あっちで暮らしていたことがあってな」

「なるほど、それは納得だ」

「兄ちゃんは?」

「俺の場合は……そうだな、ちょっと興味があるって感じになるのかな? ほら、焔刀とかカッコいいからさ。まぁ、使ってるのは焔刀を模したトレントの木刀なんだけどな」

「トレントの木刀って……もしかして兄ちゃんが噂の冒険者か!?」

「ゴブリン狩りとかって呼ばれた記憶はあるな」

「ゴブリンもそうだが、最近だとオーガを単独討伐したって冒険者の間で噂になってたぞ!?」

「ああ、そういえば、ちょっと前に戦ったなぁ」

「そんなあっさりとした反応とは……兄ちゃんはスゲェ冒険者なんだな……」


 まぁ、オーガはゲームでも序盤のボスになる程度には強いモンスターだからね、このリアクションも当然と言えば当然か。

 そんな感じで、オッサンとはその後も焔(日本)の話で盛り上がった。

 なんか懐かしさをガンガン刺激されたね……本当は違う国ってことには目を逸らしつつ。

 そうして銭湯でさっぱりしたところで、男子寮に戻って来た。

 そしてそのまま、食堂へ直行。

 さらに、これまた恒例のロイターとサンズの登場。


「ロイターにサンズよ、焼肉の日程が決まったぞ。来週の地の日の夕方だ」

「そうか、それは楽しみだな!」

「そうですね!!」

「フッ、絶品のオーク肉も調達済みだ、楽しみにしているがいい」

「ほう、そこまで言うのなら期待しようじゃないか」

「それにしても焼肉ですか……ロイター様、あのときのことを思い出しますね」

「あのときのこと? というか、今更ながらに思ったが、お前たちはよく焼肉を知っていたな? 公爵家やその側近となるような家の人間ともなれば、シェフの作る高級料理しか知らないと思っていたぞ?」

「……アレスさん、侯爵家のあなたがそれを言いますか?」

「まったくだ。それで、私たちがなぜ焼肉を知っていたかということだったな……それは師匠のせいだ」

「……前にも言いましたが、僕たちの師匠は少しアレな人でしたから……一通り戦闘技術を学んだあとは『さっそく実戦だ!』と言ってモンスターがうろつく森に放り込まれたんですよ……そして『そこで1週間生き抜け!』ってね……まぁ、事前にモンスターの解体方法とか野営の仕方なんかも教わってはいましたが……」

「……しかし、あの当時の私たちはまだ10歳にもなっていなかったというのにな……それで、まぁ、食料も現地調達ということで、モンスターを狩って肉を食べていたからな、必然的に焼肉も知っていたというわけだ」

「苦労して狩ったからというのもあったのでしょうが、ただ焼いた肉……それがこんなにも美味しいものなのかと思ったものでしたね……」

「そ、そうか……」


 なんだろう、こいつらもまぁまぁオカシイ幼少期を過ごしていたみたいだな。

 それとも武系貴族あるあるなのかね……

 まぁ、その師匠もロイターたちのことを陰から見守ってはいただろうからな、そこまで危険ってわけでもなかったんじゃないかとは思う……思いたい。


「とはいえ、それなら今度の野営研修は余裕そうだな?」

「まぁ、それはな……」

「そうですね、一通りのことは問題なく出来るとは思いますね」

「ふむ、頼もしいことだ」


 しかし、俺もリッド君に対してもっとスパルタ式で行った方がいいのかね?

 でもなぁ、一日中見守ってやるなんてことは出来ないしなぁ。

 まぁ、基本は魔力操作の徹底、この方針は曲げずにいた方がいいよな。

 こうして、ロイターたちの師匠への愚痴なんかを聞きながらの夕食だった。

 まぁ、なんだかんだ言って師匠のことは慕っているようではあるが……それはこの2人だからこそって感じだ。

 だって、本当はロイターの側近候補ってもっといたらしいからね……

 それで師匠の指導について行けなくて脱落、っていうか逃げだす奴続出。

 結局ロイターの側近候補で最後まで残ったのがサンズ1人だったってわけ。

 そこで、こんなに脱落者を出すなんてけしからんって感じで師匠の方は咎められていないらしいので、脱落した奴がアカンってことなのだろう。

 こういう取り巻きってさ、ゲームのアレス君の取り巻きの印象から、わりともっと簡単な感じかと思っていたけど、そうでもないんだね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る