第111話 観葉植物感覚

 学園都市に戻り、薬草の売却をするためにトレルルスの店にやって来た。


「やぁ、昨日ぶりだねぇ。さっそく薬草採取をやってみたって感じかなぁ?」

「ああ。一応昨日もやったのだが、その分はギルドで売却した」

「そうなんだねぇ、それで今日はこっちで売却ってことでいいのかなぁ?」

「そうだな。ああそれと、昨日のことなんだが、薬草と判定されなかった草を持ち帰って魔力を込めてみたんだ。するとただの草がおそらく薬草と判定されるぐらいの保有魔力量になったのだが、これは薬草として売れるのか?」

「おお、そこに気付いたんだ、やるねぇ。とはいえ、気付くことが出来たとしても魔力操作に習熟していない魔法士には難しいからあんまり流行ってないんだよねぇ」

「ああ、ある程度までは保有魔力量を増やせたんだが、ちょっとした瞬間にすぐ枯れてしまってな……」

「いや、そこまで出来たら上出来さぁ。人間と植物では魔力の波長みたいなものが違ってて、それを合わせなきゃだから、普通はそこで躓くんだよねぇ」

「そうだったのか……一応丁寧に魔力を込めるってことには気を付けていたが、それが上手く行ったかな?」

「まぁ、日々魔力操作の練習をしている魔法士なら感覚的に出来ちゃったりすることだから、アレス君はそれだけ頑張ってると言えるだろうねぇ」

「そうか……少し照れるな」

「ふふっ、自信を持っていいと思うよ。ああそれで、売れるかどうかってことだけど大丈夫、売れるよぉ」

「そうか、よかった」

「それどころか、ギルドだと等級ごとで買取額が区切られているだろうけど、僕の場合は等級内でも保有魔力量の多い薬草には買取額を増額しているぐらいさぁ」

「ほう、それは嬉しいな……ただ、枯れる瞬間の見極めは重要だな」

「そうだねぇ。一応目安としては、もう少し魔力を込められそうと思ったところで止めるっていうのがコツだねぇ」

「なるほど」

「そして、ここまでの話は採取してきた薬草を高く売却するための方法って感じだったよね? そこで別な方法として薬草を栽培する方法になるんだけど、薬草の周りの魔素濃度を高めるっていうのがあるねぇ。ま、それ用の設備も準備しなきゃだけど」

「ほう」


 説明によると、魔素を外に逃がさないようにした温室みたいな設備に魔石か魔法士の人力で魔素を封入して魔素濃度を高めた空間で植物を栽培するって感じ。


「これだと、植物自身の許容量に応じて魔素を取り込みながら成長出来るから、枯れる可能性を低く抑えられるねぇ。しかも魔素濃度に応じて魔素への順応性も高められるから、等級の高い薬草に育つことも期待できる。ちなみにだけど、現役を引退した魔法士や副業として薬草栽培をしている人なんかもいるねぇ。まぁ、設備投資に多少お金はかかるんだけどねぇ」

「ふむ、確かに安全を考えるならアリなんだろうな」

「ただ、これは一般的な話で、アレス君なら設備はいらないかもしれないねぇ」

「そうなのか?」

「うん、アレス君の保有魔力量は圧倒的だからねぇ……呼吸などで自然と体から放出される魔素で空間内の魔素濃度が高まるだろうから、室内の鉢植えでも結構な等級の薬草に育つと思うよぉ」


 トレルルスと初対面のときは魔力の隠蔽を習い始めたばっかりだったこともあって、きっちり魔力量を隠していなかったからね……

 とはいえ、俺の魔力量をよく覚えていたもんだよ。

 それはともかくとして鉢植えか……観葉植物感覚で育ててみようかな。


「じゃあ、俺の場合は部屋で普通に花を育てるような感覚でいいってことか?」

「そうだねぇ、もしや育ててみる気になったかい?」

「ああ、本格的な商売にまでする気はないが、試しに育ててみてもいいかという気にはなったな」

「おお! それは嬉しいねぇ。そして薬草も育ててみると意外と楽しいもんだよぉ。日々成長していく姿を見るのもいいものだし、少しずつ保有魔力量が増えていくのを感じるのも嬉しいものだからねぇ」

「……そのうち愛着が湧いてしまって売れなくなりそうだな。特に、少数であればなおさらな」

「ははっ、確かに! そしてまぁ、そういう人も実際いるねぇ」

「やはりか……たぶん俺もそうなりそうな気がするな……」

「ふふっ、それならそれでもいいんじゃないかい? 少数の鉢植えではそもそも商売にするのは難しいだろうし、無理に売る必要もないだろうさ」

「まぁ、そうだな。それで、鉢植えに必要な道具はここでも買えるか? それとも園芸店に行くべきか?」

「心配ご無用さ。うちでも扱ってるよぉ」

「それはよかった、じゃあ1セット頼む」

「それじゃあ、その分は薬草の買取代金との相殺にするよぉ」

「ああ、わかった」


 そうして、トレルルスのアドバイス通りにもうちょっと魔力を込められそうってところで止めた薬草を下級と中級合わせて約200本ほど売却した。

 薬草の栽培自体はソレバ村から帰って来てからにしようかなと思う。

 何気に草によって相性っていうのもあるらしいから、時間のあるときにじっくりと吟味したいと思う。

 そして、単なる草だと思ってた植物が実は木で、将来的にめっちゃでっけぇ大木に育ったって感じになっても面白いと思う。

 そんな感じで、トレルルスの店をあとにした。

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