第113話 大空の旅が始まる

 自室に戻って来た。

 ここからは夜錬のお時間です。

 そして……回復魔法の練習の時間でもある……

 自分で自分を傷つけるっていうのはなかなか慣れないもんだね……いや、慣れちゃダメな気もするけどさ。

 そんなとりとめのないことを頭の中で考えながら、少しでも先延ばしを図る。

 だが、そろそろ今日の分の練習を開始せねば……ふぅ……行くぞ!

 そうした決意のもと、ミキゾウ君の一撃が俺の左腕に襲いかかる。


「ぐぎぃ!」


 そんな情けない声を発しながら、大慌てで左腕に回復魔法を発動させる。

 しかしながら焦る俺の気持ちに関係なく、ゆっくりとしたペースで骨が修復されていくのが実にじれったい。

 あぁ、もっと早く!


「……ふぅ……ふぅ……」


 こうして回復魔法をかける度に、少しずつ上達しているような気がしないではないが、かと言ってそれは劇的な変化ではない。

 しかも、魔力のごり押しで治りが早くなるってわけでもないのが辛いところだ。

 回復のイメージと魔力がピタッと噛み合わないといけないからね……はぁ。

 この点、とにかく魔力をガンガン込めればいいだけの攻撃魔法は楽でいいなと改めて思う。

 特にソレバ村で戦ったマヌケ野郎みたいにとにかくデッカイ溶岩の塊を生成して、あとは制御することもなく落とすだけっていうタイプの攻撃魔法なんかは超楽だったと思う。

 ……まぁ、どっちかというと俺もそっち側に分類されるような魔力ごり押し型魔法士なんだけどさ。

 そんなこんなで約1時間の苦行を終え、その後は筋トレと精密魔力操作に移行。

 正直、回復魔法の練習に比べたら筋トレや精密魔力操作なんかは楽だなって思えちゃうね。

 そんなことを思いつつ、寝る時間まで魔力君との語らいを続けた。


「今日は~ソレバ村へ行く日!!」


 さて、今日の目覚めの一言が飛び出したところで、まずは朝練に行こう。

 向かい風魔力操作音読ランニング……ホントいろいろ詰め込んだ素敵な朝練だと自画自賛しちゃう。

 よし、ソレバ村に着いたら、リッド君にも教えてあげよう。

 ロイターたちの話を聞いた感じから、貴族の中にもなかなか厳しい鍛錬を積んでいる子がいるのだということがわかった。

 この先俺になんらかの問題がない限り、リッド君を学園に推薦するだろうことを考えると、そんな鍛錬を積んだ貴族の子に差をつけられないようにしてあげたいって思うからね。

 そんな感じで、朝練に取り組んでいると、いつも通りファティマが現れた。


「よう、ロイターたちに焼肉の件を伝えておいたぞ」

「おはよう、私もパルフェナに伝えておいたわ」

「あいつらも焼肉を楽しみにしているみたいだし、これを機会にいい感じでこれからのパーティー活動を始められそうだな!」

「そうね。ああそういえば、お肉はあなたが用意してくれたみたいだけれど、野菜等他の食べ物は用意しなくていいわ。パルフェナの領地で収穫されたものを使うから」

「そうか? じゃあそれらについてはそっちに任せた」

「ええ」


 よく知らんが、雰囲気的にパルフェナの領地って農業とかの第一次産業が盛んってことなのかな?

 ……ふむ、パルフェナは実り豊かな大自然で育まれた、そういうことなのだろうな。


「……はぁ」


 あれ? ファティマさんの視線が急に冷たくなったぞ?


「どうかしたか?」

「……そのだらしない顔をパルフェナの前ではしないことね。それじゃあ、今日はこの辺で」


 は? え? だらしない顔なんてしてねぇよぉ~!

 ……してないよな?

 いやまぁね……完全に、一瞬たりともパルフェナのサイズ感に意識が向かなかったかと言われたらさ、そりゃあね……

 でもさ、それは仕方ないことでしょ? って言いたい。

 むしろそこに一切の感情の揺らぎがない方が不自然だと言いたいぐらいだよ。

 とまぁ、アレコレと言い訳を並べ立てたいところではあるが……それはクールじゃないもんな……

 しっかし、ほんのチョット意識しただけだったと思うんだけどなぁ……そうやって考えるとさ、ファティマの奴が他人の心を読めると言われても驚かないね。

 そしてまた朝練を再開し、1時間ほど経ったところで今日の分は終了。

 シャワーで汗を流し、朝食を済ませた後はソレバ村へ行く準備だ。

 まぁ、必要そうなものは常にマジックバッグに収納されてるから、そこまで特別な準備が必要ってほどでもないけどね。

 ただ、あると思ってたけど実はなかったなんてことになったら困るので、その確認作業がメインって感じだね。

 そうした準備も終えて、いざ出発となった。

 ウィンドボードによる長距離移動。

 ここ数日練習した感覚から、俺の魔力量なら余裕だと思う。

 そして、予想としては途中で休憩を挟んだとしても、昼頃にはソレバ村に着くことが出来るんじゃないかと思っている。

 そんなことをのんびりと考えながら街中を歩き、学園都市から出た。


「さて、それじゃあ行こうか、フウジュ君!!」


 そんな掛け声とともに、大空の旅が始まる。

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